岩盤に築かれた石の墓

石垣市街の北側、小高い丘陵の上に、西を向いて築かれた石造の墓がある。旧和宇慶家墓である。自然の岩盤にできた洞穴を生かし、その正面に石積みと屋根形の造作を加えてつくられた。築造は17世紀後半を降らないと考えられている。

和宇慶家は、大川村の旧家である玻武名家から分かれた家で、この墓は本家から譲り受けたものと伝わる。内部の石棺には、宮良間切の頭(かしら)が葬られていたという。間切は琉球王国の行政区分であり、その頭は地域を統轄する有力な役職であった。墓の規模は、葬られた人物の地位と無縁ではない。

長い変遷のなかの一段階

沖縄の葬制は、本土とは異なる道をたどった。古くは自然の洞穴や岩陰に遺体を置く風葬が行われ、のちに洗骨を経て蔵骨器に納める習俗が定着した。屋根や破風を備えた家型の墓があらわれるのは16世紀以降で、初期の代表例は那覇の玉陵に代表される王家の破風墓である。旧和宇慶家墓は、この流れのなかで、より早い段階に位置づけられる。

平成12年(2000年)5月25日、国はこの墓を重要文化財(建造物)に指定した。指定基準は「流派的又は地方的特色において顕著なもの」である。評価されたのは規模や装飾ではなく、墓制の発展段階のなかでの位置である。源初的な洞穴墓から発展した形式の典型として、洞穴を囲い込む墓に屋根形を加えた構造をもつ。八重山という王国の中心から離れた地で、この変遷の一段階を具体的に示す点に価値がある。なお石棺は附(つけたり)として指定に含まれている。

三つの部分を読む

墓は三つの部分からなる。まず岩盤を利用した墓室部があり、洞穴を囲い込む形に屋根形を加えてある。その前に、琉球石灰岩の石垣を略半円形に巡らせた内庭部が開く。さらにその外側に、凸形に石垣を巡らせた外庭部が広がる。

前庭部の発達ぶりが、この墓の特色である。沖縄の墓では、墓室の前に設けられた庭が祭祀の場となり、清明祭(シーミー)には一族が集まって墓を清め、供物を分け合う。内庭と外庭という二重の前庭をそなえる点が、この墓を形式として進んだものと見なす根拠の一つになっている。

周辺の文化財と見学について

石垣市には、ほかに二件の国指定重要文化財(建造物)がある。市街地に近い旧宮良殿内は、文政2年(1819年)に建てられた士族屋敷で、八重山に残る同種の住宅では最も古く、庭園も知られる。権現堂は、戦災や台風の被害を経て再建された琉球の社殿建築で、ほかにあまり例を見ない。墓制の到達点を確かめたい場合は、那覇の玉陵が世界遺産として公開されており、破風墓の完成形を見ることができる。

旧和宇慶家墓そのものは観光の動線から離れた静かな場所にあり、係員のいる施設ではなく、現役の文化財として保存されている。開館時間や見学設備はなく、内部は公開されていない。訪れる際は外から眺めるにとどめ、墓所として節度ある距離を保ち、周囲の土地を大切に扱いたい。

Q&A

Qどのような墓ですか。
A自然の岩盤を利用した石造墓で、洞穴式の墓室部と、琉球石灰岩の石垣で囲まれた内庭部・外庭部からなります。築造は17世紀後半を降らないとされます。
Qなぜ重要なのですか。
A源初的な洞穴墓から発展した墓制の一段階を示す典型例で、沖縄の墳墓形式の変遷を知る好例として、平成12年に重要文化財に指定されました。
Q誰が葬られたのですか。
A宮良間切の頭が葬られたと伝わります。和宇慶家は大川村の旧家から分かれた家でした。
Q内部は見学できますか。
A内部は公開されておらず、見学設備もありません。外観のみ拝観できます。
Q石垣市の他の重要文化財は。
A市街地に近い旧宮良殿内(士族屋敷・庭園)と権現堂(社殿)があり、いずれもアクセスしやすい場所にあります。

基本情報

名称旧和宇慶家墓(きゅうわうけいけはか)
所在地沖縄県石垣市字大川宇志原1117番の1
指定区分重要文化財(建造物)
指定年月日平成12年(2000年)5月25日
指定基準地方的特色において顕著なもの
員数1基(附 石棺1基)
時代江戸中期(17世紀後期頃)
構造及び形式石造墳墓(墓室部・内庭部・外庭部)
所有者石垣市
公開状況内部非公開(外観のみ)

参考文献

文化遺産オンライン(NII)旧和宇慶家墓
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/124687
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3680
石垣市内にある指定・登録文化財(石垣市)
https://www.city.ishigaki.okinawa.jp/soshiki/bunkazaisisihennsyuka/bunakazaikinanbutu1/1_1/573.html

最終更新日: 2026.06.17