雅と俗を一つ屋根の下に置いた実業家の邸宅

昭和12年(1937)1月、池田・五月山の麓に竣工した小林一三の自邸には、思想を宣言するかのような名が与えられた。雅俗山荘。芸術を指す「雅」と、日々の暮らしを指す「俗」を一つの家に共存させる、その意図が名称そのものに込められている。

正式名称を逸翁美術館旧本館というこの建物が、その雅俗山荘である。鉄筋コンクリート造2階建、建築面積438平方メートル。施工は竹中工務店、設計は同社設計部の小林利助による。敷地の北東隅に、玄関を西に開いて建つ。阪急電鉄と宝塚歌劇を興した一三(1873–1957)は、茶の湯に深く傾倒した数寄者として逸翁の号を用い、その号がのちに、彼の蒐集品を収める美術館の名として引き継がれた。

外観は洋館と映る。だが屋根に葺かれるのは、スペイン瓦の形をした銀灰色の瓦であり、西洋の輪郭に和の質感が重ねられている。2階の壁面には柱・梁・斜材が露出してハーフティンバーの意匠をつくり、玄関の壁には隣県兵庫産の黄色い竜山石が貼られる。上部の2階には、四つの弁を持つ四葉形の飾りが列をなし、妻面に装飾のリズムを与えている。

登録有形文化財となった理由

昭和32年(1957)、一三はこの年に世を去り、同年、その邸宅は逸翁美術館として公開された。生涯にわたり集めた約5,500件、うち重要文化財15件を含む蒐集品が、この山荘で人々の目に触れることとなる。以後半世紀、来館者は与謝蕪村の絵や、一人の数寄者が選び抜いた茶道具を、この建物のなかで見てきた。

平成21年(2009)、美術館は池田文庫に隣接する新館へ移り、旧邸は平成22年(2010)に小林一三記念館として再公開された。内部は一三が暮らした当時の状態に復元されている。この移転に先立つ平成21年8月、旧本館は正門・塀・二棟の茶室とともに、国の登録有形文化財に登録された。登録番号は27-0530、登録年月日は平成21年8月7日。国土の歴史的景観に寄与しているものという基準による登録である。

登録が評価するのは、際立った一箇所ではなく、全体の統一である。和と洋のいずれにも偏らずに折衷された造形は、自らの住まいを応用美術の一作として扱った昭和の実業家の趣味を映す。鉄筋コンクリート造の躯体には2階に収蔵庫が組み込まれており、蒐集品と住まいが当初から一体として構想されていたことを示している。

訪れて見るべきところ

西から近づくと、まず迎えるのは玄関である。コンクリートを背に竜山石の温かな黄が置かれ、その上に四葉形の帯がめぐる。一歩下がれば屋根が正体を明かす。スペイン瓦の形をとりながら、色は地中海のテラコッタよりも和のいぶし銀に近い。2階壁面のハーフティンバーは、斜材の配し方が構造とともに意匠として引かれており、じっくり眺める価値がある。

内部は、記念館として応接部分と居住部分が当時のまま保たれ、来訪は展示室の巡覧というより、一つの私生活のなかを歩く体験に近い。1階には同じく雅俗山荘の名を冠したレストランが入り、一三が使った部屋でフランス料理が供される。邸宅の先には庭園と、彼が造らせた二棟の茶室が控え、隣接する美術館では、その最も独創的な茶室を写した席で今も茶が点てられている。急がず時間をかけるほど応える場所である。ここは住まうために建てられた家であり、今もその感触を保っている。

Q&A

Q雅俗山荘という名の意味は。
A「雅」(芸術)と「俗」(日々の暮らし)を合わせた名で、芸術を暮らしから切り離さず、生活と一体に楽しみたいという小林一三の思いが込められています。
Q旧本館の内部は見学できますか。
Aできます。平成22年(2010)以降、小林一三記念館として、内部が居住当時の状態に復元されて公開されています。月曜や年末年始は休館するため、開館日と時間は阪急文化財団の公式情報でご確認ください。
Q現在の逸翁美術館と同じ建物ですか。
A異なります。美術館は平成21年(2009)に近くの新館へ移りました。旧本館は現在、徒歩数分の距離にある小林一三記念館で、両館は併せて訪ねるのに向いています。
Q小林一三とはどのような人物ですか。
A明治6年(1873)山梨に生まれ、阪急電鉄、宝塚歌劇、東宝を興した実業家です。鉄道と沿線の宅地開発、ターミナルの百貨店を組み合わせる経営モデルを築きました。茶の湯に親しみ、逸翁の号を用いました。
Q交通手段は。
A阪急宝塚本線の池田駅から北へ徒歩約10〜13分です。池田駅は大阪梅田駅からおよそ20分の距離にあります。

基本情報

名称逸翁美術館旧本館(雅俗山荘)
所在地大阪府池田市建石町1965他
指定区分登録有形文化財(登録番号27-0530)
登録年月日平成21年(2009)8月7日(告示8月25日)
員数1棟
構造鉄筋コンクリート造2階建、瓦葺、建築面積438平方メートル。昭和12年竣工、昭和32年改修
所有者公益財団法人阪急文化財団
交通阪急宝塚本線 池田駅から徒歩約10〜13分
公開小林一三記念館として公開。月曜・年末年始休館。最新の開館時間は事前にご確認ください

References

文化庁 — 国指定文化財等データベース 逸翁美術館旧本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007763
阪急文化財団 — 小林一三記念館 施設紹介(登録有形文化財)
https://www.hankyu-bunka.or.jp/kinenkan/facility/
阪急文化財団 — 阪急文化財団について
https://www.hankyu-bunka.or.jp/about/

最終更新日: 2026.07.05