野中烏犀圓:長崎街道に佇む江戸時代の薬商家建築

佐賀市材木町の旧長崎街道沿いに堂々と構える野中烏犀圓は、江戸時代から続く老舗薬種商の店舗兼住宅です。2000年(平成12年)に国の登録有形文化財に登録されたこの木造二階建ての建物は、広く街路に面する漆喰壁、正面中央の大破風、看板を吊るす屋形など、往時の大商家の風格を今に伝えています。200年以上の歴史を持つ伝統薬「烏犀圓」の製造拠点として、佐賀の商業文化と長崎街道の歴史的景観を体現する貴重な建造物です。

歴史的背景

野中家の歴史は、初代野中源兵衛が寛政3年(1791年)に薬種商を創業したことに始まります。その後、四代目の野中忠兵衛が寛政8年(1796年)に鍋島藩から生薬「烏犀圓」の製造販売の特権を授けられ、この時期に現在の建物が建築されたと伝えられています。

烏犀圓の処方は、中国宋代の薬学書『太平恵民和剤局方』に収載された処方を起源としています。人参、当帰、川芎、牛黄などの生薬を蜂蜜で練り上げた滋養強壮薬で、徳川家の愛飲薬としても知られていました。慶応3年(1867年)には、九代目の野中元右衛門がパリ万国博覧会に佐賀藩の使節として参加し、烏犀圓を出品して国際的にも紹介しています。

建物の最も古い部分は、「冷善楼」と呼ばれる座敷と店舗部分です。座敷に掛けられている「冷善楼名記」には文政3年(1820年)の奥書があり、それ以前に建てられたことが裏付けられています。店舗以外の部分は昭和初期(1928年頃)に増築されたもので、建物全体が時代の変遷とともに発展してきた姿を示しています。

文化財指定の理由

野中烏犀圓は、2000年(平成12年)2月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録の理由として、広く街路に面する漆喰壁、正面中央の大破風、看板を吊るす屋形が江戸期の商家の風情を伝えている点、そして長崎街道周辺の歴史的景観形成に寄与している点が高く評価されています。

佐賀市も「風格ある屋敷構えを持つ商家の建物としては保存状態も良く、大変貴重な建物」と評価しており、歴史的な景観を今日に伝えるものとして、野中家が守り育ててこられた努力が高く評価されています。佐賀城下に残る大規模な商家建築として、地域の歴史と文化を物語る重要な存在です。

建築的・文化的見どころ

建物は木造二階建て、瓦葺きで、建築面積は約363平方メートルに及びます。街道に面して広がる漆喰壁の外観は重厚感があり、正面中央にそびえる大破風が建物全体に威厳を与えています。屋根に設けられた看板を吊るすための屋形は、江戸時代の商家建築に特有の意匠で、当時の商業文化を今に伝える貴重な要素です。

内部では、冷善楼の座敷が江戸後期の洗練された美意識を反映し、店舗部分は伝統的な薬種商の機能的な間取りを保っています。昭和初期の増築部分も本来の建物と調和し、時代とともに変化しながらも本質を守り続けた建物の歩みを物語っています。

現在は後継企業であるウサイエン製薬株式会社が同所で事業を継続しており、医薬品や健康食品の製造販売を行っています。また、年代は不詳ながら、青磁の等身大の薬祖神「神農像」が祀られており、野中家と東アジアの薬学の伝統との深い結びつきを示しています。

見学・アクセス情報

野中烏犀圓は佐賀県佐賀市材木1丁目82番地に所在しています。現在も事業所として使用されているため、通常時の内部見学には制限がありますが、趣ある外観は街道沿いからいつでも鑑賞できます。毎年2月中旬から3月中旬にかけて開催される「佐賀城下ひなまつり」の期間中には、江戸時代から伝わる野中家の雛人形が展示されることがあり、特に見応えがあります。

JR佐賀駅バスセンターから佐賀市営バスまたは西鉄バスに乗車し、「呉服元町」バス停で下車すると徒歩約1分です。佐賀駅からは徒歩で約20分です。車の場合は、長崎自動車道佐賀大和インターチェンジから約30分で、近隣の佐賀市歴史民俗館に無料駐車場(40台)が利用できます。

周辺の見どころ

野中烏犀圓の周辺には、佐賀市屈指の歴史的建造物が集中しています。すぐ近くの佐賀市歴史民俗館は、旧古賀銀行、旧古賀家、旧牛島家、旧三省銀行、旧福田家、旧森永家、旧久富家の7棟で構成され、すべて無料で公開されています。旧古賀銀行はレストランカフェ「浪漫座」としても利用されており、大正ロマンの雰囲気の中で食事を楽しめます。

長崎街道を散策すれば、煎茶文化の歴史を紹介する肥前通仙亭や、リノベーションされた歴史的建築物の南里邸なども訪れることができます。佐賀城本丸歴史館(入館無料)では佐賀藩の歴史を学ぶことができ、市内各所に点在する恵比須像巡りも佐賀ならではの楽しみです。

Q&A

Q烏犀圓とはどのような薬ですか?現在も購入できますか?
A烏犀圓は、人参・当帰・川芎・牛黄などの生薬を蜂蜜で練り上げた伝統的な滋養強壮薬です。肉体疲労、胃腸虚弱、虚弱体質、食欲不振、病中病後の滋養強壮に用いられます。現在はウサイエン製薬株式会社が第三類医薬品として製造販売しています。
Q野中烏犀圓の建物は内部を見学できますか?
A建物は現在もウサイエン製薬株式会社の事業所として使用されているため、通常の内部見学は制限されています。ただし、毎年の「佐賀城下ひなまつり」(2月中旬~3月中旬)の期間には、江戸時代から伝わる雛人形が展示されることがあります。外観は街道沿いからいつでもご覧いただけます。
Q長崎街道とはどのような街道ですか?
A長崎街道は、江戸時代に小倉(現在の北九州市)から長崎を結んだ約228キロメートルの脇街道です。鎖国時代に唯一の海外貿易港であった長崎への主要路として、九州諸大名の参勤交代やオランダ・中国との交易品の運搬に使われ、西洋文化の伝播路として重要な役割を果たしました。
Q最寄り駅からのアクセス方法を教えてください。
AJR佐賀駅バスセンターから佐賀市営バス(佐賀大学・西与賀方面行き)または西鉄バスに乗車し、「呉服元町」バス停で下車すると徒歩約1分です。佐賀駅から徒歩の場合は約20分です。車の場合は長崎自動車道佐賀大和インターチェンジから約30分です。
Q周辺にはどのような観光スポットがありますか?
A徒歩圏内に佐賀市歴史民俗館(7棟の歴史的建造物群、すべて入館無料)があり、旧古賀銀行内のカフェ「浪漫座」も人気です。また、佐賀城本丸歴史館(入館無料)、煎茶文化を紹介する肥前通仙亭、市内各所に点在する恵比須像巡りなども楽しめます。

基本情報

名称 野中烏犀圓(のなかうさいえん)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2000年(平成12年)2月15日
建築年代 寛政8年(1796年)頃/昭和3年(1928年)増築
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積約363㎡
所在地 〒840-0055 佐賀県佐賀市材木1丁目82番地
所有・運営 ウサイエン製薬株式会社
営業時間 8:00~17:00(土・日・祝日休業)
電話番号 0952-23-2065
アクセス JR佐賀駅から徒歩約20分/バス「呉服元町」下車徒歩約1分/長崎自動車道佐賀大和ICから車で約30分

参考文献

野中烏犀圓 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/137308
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001538
野中烏犀圓 - さがの歴史・文化お宝帳
https://www.saga-otakara.jp/search/detail.html?cultureId=5360
野中ウサイエン - 佐賀市公式ホームページ
https://www.city.saga.lg.jp/main/4883.html
ウサイエン製薬株式会社 公式サイト
https://usaien.com/about/
ウサイエン製薬(株) - 佐賀市観光協会公式ポータルサイト
https://www.sagabai.com/main/?cont=kanko&fid=458

最終更新日: 2026.04.13