埼玉県後谷遺跡出土品:縄文人の暮らしと美を伝える重要文化財

埼玉県桶川市に所在する後谷遺跡(うしろやいせき)は、縄文時代後期から晩期にかけての人々の暮らしを鮮やかに伝える遺跡です。2011年(平成23年)6月27日、この遺跡から出土した土器・土製品、木器・木製品、漆製品、石器・石製品あわせて645点が、国の重要文化財に指定されました。低湿地という特殊な環境のおかげで、通常は失われてしまう木製品や漆製品が極めて良好な状態で保存されており、約3,500年〜2,500年前の縄文人の生業・技術・精神文化を包括的に知ることのできる、関東地方を代表する貴重な考古資料群です。

後谷遺跡の立地と発掘の歴史

後谷遺跡は、桶川市赤堀2丁目に位置しています。大宮台地北部の東縁部から半島状に突出した舌状低位台地の上と、元荒川が南流する周辺低地にまたがる遺跡です。台地上には住居や貯蔵施設が営まれ、低地部には水辺の作業場や木道が設けられていたと考えられています。

発掘調査は1966年(昭和41年)の浦和考古学会による調査を皮切りに、これまで五次にわたって実施されました。特に1987年(昭和62年)から1989年(平成元年)にかけて行われた第四次調査は、工業団地の造成に伴うもので、約1万平方メートルという広範囲が調査されました。現在の地表から3〜5メートル下から、赤堀川の氾濫等によって埋没した縄文時代の生活の跡が、当時の姿のまま発見されたのです。台地部からは竪穴住居跡14軒、土坑26基、炉跡45基が、低地部からは木組遺構4基、木道状遺構1基などが検出されました。

重要文化財に指定された理由

重要文化財に指定された645点は、土器・土製品324点、木器・木製品52点、漆製品13点、石器・石製品256点で構成されています。これらが一括として高く評価された理由は、多岐にわたります。

第一に、低湿地という環境が、通常は腐食して残らない木製品や漆製品を奇跡的に保存したことです。第二に、日用品から祭祀具、装身具に至る多種多様な遺物が揃い、縄文時代の社会の全体像を描き出せる点です。第三に、赤彩や漆塗りの色彩が良好に残っており、縄文人の装飾技術を直接的に示す資料となっている点です。文化庁の解説では「関東地方における縄文時代後期から晩期にかけての生業や技術、精神活動を知るうえで極めて重要な一括資料」と評されています。

見どころ・コレクションの魅力

ミミズク土偶

後谷遺跡を代表する出土品のひとつが、ミミズク土偶です。フクロウの一種であるミミズクに似た大きな目が特徴的な土偶で、関東地方の縄文後期〜晩期に特有の造形です。後谷遺跡では山形土偶や遮光器土偶なども発見されており、土偶のバリエーションの豊かさも注目に値します。特に、中央孔に木質の耳飾りが装着されたまま残っている土偶は、他の遺跡ではほとんど例がなく、当時の装身具の使用方法を直接的に示す極めて貴重な資料です。

赤漆塗り櫛

鮮やかな赤漆で塗られた櫛が複数出土しており、しかも繊細な櫛歯がそのまま残っている点が特筆されます。数千年の時を経てなお赤く輝く漆の美しさは、縄文人の卓越した漆工芸技術の証です。飾り弓やかんざしなど、他の漆製品も充実しており、後谷遺跡が漆工芸の重要な拠点であったことがうかがえます。

多彩な耳飾り

後谷遺跡のもうひとつの大きな特徴が、大量かつ多彩な土製耳飾りです。形状や寸法が実にバリエーション豊かで、作りが緻密なうえに赤彩や漆が良好に遺存しているものも多数あります。これほど多様な耳飾りが一括して出土した例は稀であり、縄文人の美意識とものづくりの技を如実に物語っています。

木器・木製品

低湿地から発見された木製品には、弓や櫂状木製品が多く含まれます。さらに未製品(製作途中の資料)も充実しており、原材料の選択から完成品に至る木工の工程を復元できる貴重な資料です。斧の柄などの道具類も見つかっており、縄文人の生業と木工技術を具体的に知ることができます。

玉類・石器

石器・石製品の中でも特に注目されるのが、硬玉(ヒスイ)を主体とした玉類の出土です。その量は関東地方の他遺跡と比較して際立って多く、新潟県方面など遠隔地との交易ネットワークの存在を示しています。石鏃(矢じり)や石錘(おもり)など、狩猟・漁撈に関わる道具も多彩に揃っています。

展示・鑑賞について

重要文化財に指定された後谷遺跡出土品は、桶川市歴史民俗資料館に収蔵・展示されています。同館は川田谷生涯学習センター内に位置し、桶川市の原始・古代から近代にいたる歴史と文化を「台地と道」をテーマに紹介する博物館です。後谷遺跡の出土品は常設展示の目玉として、ミミズク土偶や赤漆塗り櫛、耳飾りなどの代表的な資料を間近にご覧いただけます。

入館料は無料です。2024年にはリニューアルオープンし、デジタル展示や大型スクリーンを活用した民俗行事の映像など、現代的な展示手法も取り入れています。なお、2012年(平成24年)から9年間にわたって実施された保存修理事業により、645点のうち598点の修復が完了しており、専用の桐材保存箱に収納されて大切に管理されています。一部の出土品は東京国立博物館やフランス・パリ日本文化会館での特別展にも貸し出された実績があります。

周辺情報

桶川市歴史民俗資料館の周辺には、歴史と自然を楽しめるスポットが点在しています。すぐ近くの城山公園は、戦国時代の三ツ木城跡を整備した公園で、緑豊かな散策路が続きます。また、川田谷地区にある熊野神社古墳は、古墳時代の円墳で、独自の出土品も発見されています。

桶川市は江戸時代に中山道の宿場町「桶川宿」として栄えた歴史があり、嘉永5年(1852年)建築の武村旅館や小林家住宅主屋といった歴史的建造物が今も残っています。また、かつて日本有数の紅花産地であった桶川は「べに花の郷」として知られ、毎年6月頃には紅花関連のイベントも開催されます。

縄文時代の考古学により深く触れたい方には、さいたま市の埼玉県立歴史と民俗の博物館や、東京国立博物館の考古展示室もおすすめです。関東の縄文文化の広がりを実感できるでしょう。

Q&A

Q桶川市歴史民俗資料館の開館時間と入館料は?
A開館時間は午前9時から午後4時30分までです。毎週月曜日、祝日、年末年始は休館です。入館料は無料です。
Q東京からのアクセス方法は?
AJR高崎線で上野駅または大宮駅から桶川駅まで約45分(上野から)です。桶川駅西口から市内循環バス(西10・西11・西20系統)で「生涯学習センター入口」下車、徒歩約2分。東武バス川越駅行き「川田谷支所」下車徒歩10分でもアクセスできます。車の場合は圏央道桶川北本インターチェンジから約3分です。
Q出土品は常時展示されていますか?
A重要文化財の出土品の一部は常設展示でご覧いただけます。ただし、645点全てが同時に展示されているわけではありません。企画展や講座も定期的に開催されており、他の博物館への貸し出しが行われることもあります。
Q後谷遺跡の現地を見学することはできますか?
A後谷遺跡そのものは工業団地の造成地となっており、遺跡の現地見学はできません。出土品は桶川市歴史民俗資料館でご覧いただけます。
Q写真撮影は可能ですか?
A展示室内の撮影可否については、訪問時に資料館のスタッフにご確認ください。貴重な文化財を保護するため、フラッシュ撮影等が制限される場合があります。

基本情報

名称 埼玉県後谷遺跡出土品(さいたまけんうしろやいせきしゅつどひん)
指定区分 国指定重要文化財(2011年6月27日指定)
種別 考古資料
時代 縄文時代後期〜晩期(約3,500〜2,500年前)
点数 645点(土器・土製品324点、木器・木製品52点、漆製品13点、石器・石製品256点)
所有者 桶川市
保管・展示施設 桶川市歴史民俗資料館
所在地 〒363-0027 埼玉県桶川市川田谷4405-4(川田谷生涯学習センター内)
電話 048-786-4030
開館時間 午前9時〜午後4時30分
休館日 毎週月曜日、祝日、年末年始
入館料 無料
アクセス JR高崎線桶川駅西口より市内循環バス「生涯学習センター入口」下車徒歩2分/圏央道桶川北本ICより車で約3分

参考文献

国指定文化財等データベース — 埼玉県後谷遺跡出土品
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/00011469
文化遺産オンライン — 埼玉県後谷遺跡出土品
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/234085
国指定重要文化財「埼玉県後谷遺跡出土品」保存修理事業 — 桶川市
https://www.city.okegawa.lg.jp/shisei/shinoshokaikanko/bunkazai/7639.html
国指定重要文化財・国登録文化財 — 桶川市
https://www.city.okegawa.lg.jp/soshiki/kyoiku/shogaigakushubunkazai/shokai/bunkazai/1955.html
桶川市歴史民俗資料館について — 桶川市
https://www.city.okegawa.lg.jp/soshiki/kyoiku/rekishi/rekishiminzokushiryoukan_kizi/rekishiminzokushiryoukangahassinshiteirukiziichiran/1809.html
後谷遺跡 — 全国こども考古学教室
https://kids-kouko.com/historical_site/kanto/pref_saitama/274/

最終更新日: 2026.03.11