繭を担保に預かった銀行の蔵
旧本庄商業銀行煉瓦倉庫は、埼玉県本庄市銀座一丁目にある明治期の煉瓦造倉庫で、平成9年(1997年)6月12日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
内法で約31メートル×8.5メートル。建築面積279平方メートル。細長い長方形の一室が二層に積み上がる。装飾のための建物ではない。ここに納められたのは貨幣ではなく、繭であった。
中山道六十九次のうち、武蔵国最後にして最大の宿場が本庄宿である。幕末期から生繭の集散地としての性格を強め、明治16年(1883年)に日本鉄道(現在のJR高崎線)本庄駅が開業すると、繭と生糸の取引は鉄道で港へ直結した。町の経済は絹を軸に組み替えられていく。
明治27年(1894年)開業の本庄商業銀行は、この繭と生糸を担保に融資を行った。担保として持ち込まれた大量の繭を保管する場所が要る。繭は腐りやすく、燃えやすく、そして高価である。この建物は三つの条件に同時に答えている。
窓の配置を見るとよい。左右対称の位置に開口が並び、室内を風が通り抜ける。各開口には防火のための鉄扉、防虫のための網戸、そして温度を調整する漆喰塗りの板戸が併置される。床下には鋳鉄製の枠を備えた通気口が設けられた。壁面の煉瓦は、渋沢栄一の関与のもと明治21年(1888年)に設立された深谷の日本煉瓦製造の製品である。
年代については記録に食い違いがある。文化庁の国指定文化財等データベースは「明治27年頃」とするのに対し、本庄市および本庄市観光協会はいずれも明治29年(1896年)竣工とし、明治27年を銀行の開業年として扱う。本稿では国のデータベースを一次資料として扱うが、二年の差は銀行創立から倉庫落成までの期間と解するのが穏当だろう。
登録有形文化財という制度の位置
建造物の保護には二つの系統がある。国宝・重要文化財は国が選び出して「指定」するもので、現状変更には許可を要する。これに対し登録有形文化財は「登録」であり、外観の大幅な変更に際して届出を求めるにとどまる。平成8年(1996年)の制度創設は、明治以降の建築が指定の手続きを待たずに失われていく状況への対応であった。指定と登録は別の制度であり、両者を混同してはならない。
本倉庫の登録番号は11-0002。第3回登録に含まれ、告示は平成9年(1997年)6月24日である。埼玉県内で二番目という番号は、全国的に見ても制度発足直後の登録であることを示す。
適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。文化庁の種別分類は建築様式ではなく「産業3次」に置かれている。この分類は的を射ている。この建物の価値は意匠の野心にあるのではなく、実務上の要求を煉瓦という材料でどこまで解ききったかにある。
小屋組はキングポストトラス。中央の束が棟と陸梁を繋ぎ、中間の柱を立てずに幅を渡す洋式の構法である。日本の在来木造にこの規模の無柱空間を実現する定型はなかった。1890年代の地方商業建築がこれを採用している事実は、輸入された構造技術が都市部を越えて浸透する速度を示している。
いま建物の中で見られるもの
現在この建物は無料で公開されている。開館は午前9時から午後7時、休館は12月29日から1月3日のみ。所有・運営は本庄市で、見学に予約は不要である。電話は0495-71-6685。
この公開は新しい。約2年間の耐震補強工事を経て、平成29年(2017年)4月1日に交流施設として再開した。1階が交流・展示スペース、2階が多目的ホールで、2階の利用には許可が必要となり、使用料は1時間400円から、収容の目安は70人程度。駐車場は14台分、うち1台が身体障害者用である。
古い資料を参照する際には注意が要る。文化庁データベースの解説文は現在も「菓子店の店舗兼工場として活用され」と記す。市の取得以前の用途であり、2017年の転用が反映されていない。
2階が使用されていなければ上がってみたい。キングポストトラスが露出しており、真下から見上げる架構は写真とはまったく違う印象を与える。1階では煉瓦が塗り籠められずに現しのまま残されているので、目地の通りや積み方を手の届く距離で確認できる。職員が常駐しているため、撮影の可否や現在の展示内容はその場で尋ねるのが確実である。
JR高崎線本庄駅から徒歩約8分。道筋は旧中山道にあたる。同じ通りを進むと、昭和9年(1934年)建築の旧本庄仲町郵便局が現れ、その背後には明治13年頃(1880年頃)の諸井家住宅(埼玉県指定有形文化財)が控える。三十年ずつ隔たった三棟が、一本の旧街道沿いに並んでいる。
Q&A
- 旧本庄商業銀行煉瓦倉庫は見学できますか。料金と開館時間は。
- 見学は自由で無料です。開館時間は午前9時から午後7時、休館日は12月29日から1月3日のみ。予約は不要です。ただし2階の多目的ホールは団体利用が入っている場合があり、その時間帯は立ち入りが制限されます。
- 旧本庄商業銀行煉瓦倉庫へのアクセス方法を教えてください。
- JR高崎線本庄駅から徒歩約8分、旧中山道沿いです。上越新幹線の本庄早稲田駅は旧市街から離れているため、在来線への乗り継ぎかタクシーが必要になります。駐車場は14台分あります。
- 旧本庄商業銀行煉瓦倉庫はなぜ土蔵ではなく煉瓦造で建てられたのですか。
- 煉瓦は土蔵のような厚い土壁を用いずに防火性能を確保でき、両側の長壁に規則的な開口を並べて通風を取ることができます。担保として預かった繭は空気を動かし続けなければ傷むため、この二条件の両立が求められました。煉瓦は近隣の深谷にあった日本煉瓦製造の製品です。
- 旧本庄商業銀行煉瓦倉庫は重要文化財や国宝ですか。
- いずれでもありません。登録有形文化財(建造物)です。平成8年(1996年)に創設された別制度で、外観の大幅な変更に届出を求める一方、指定文化財のような許可制ではありません。登録番号は11-0002です。
- 旧本庄商業銀行煉瓦倉庫の建築年はいつですか。
- 資料によって異なります。文化庁データベースは「明治27年頃」、本庄市および本庄市観光協会は明治29年(1896年)とします。本庄商業銀行の開業が明治27年(1894年)であり、倉庫の落成はその二年後と伝わります。
基本情報
| 名称 | 旧本庄商業銀行煉瓦倉庫(きゅうほんじょうしょうぎょうぎんこうれんがそうこ) |
|---|---|
| 所在地 | 〒367-0052 埼玉県本庄市銀座1-5-16 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 11-0002/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 平成9年(1997年)6月12日登録、同年6月24日告示(第3回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 煉瓦造2階建、瓦葺、建築面積279平方メートル。内法 約31メートル×8.5メートル |
| 所有者 | 本庄市 |
| 公開状況 | 見学自由・無料。午前9時から午後7時、12月29日から1月3日休館。2階多目的ホールは利用許可制(1時間400円から)。駐車場14台。電話 0495-71-6685 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧本庄商業銀行煉瓦倉庫」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000188
- 文化遺産オンライン「旧本庄商業銀行煉瓦倉庫」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/135958
- 本庄市「旧本庄商業銀行煉瓦倉庫」施設案内
- https://www.city.honjo.lg.jp/soshiki/shiminseikatsu/shiminkatsudou/tantoujouhou/rengasouko/1490248214122.html
- 本庄市教育委員会「国登録有形文化財」
- https://www.city.honjo.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkai/bunkazai/tantoujouhou/bunkazai/1375759852044.html
- 本庄市観光協会「旧本庄商業銀行煉瓦倉庫」
- https://www.honjo-kanko.jp/sightseeing/point/kyu-shogyoginkorengasohko/
- 本庄経済新聞「旧本庄商業銀行煉瓦倉庫、交流施設に生まれ変わり2カ月」
- https://honjo.keizai.biz/headline/24/
最終更新日: 2026.08.10