タイルを張った木造の局舎
旧本庄仲町郵便局は、埼玉県本庄市中央一丁目にある昭和9年(1934年)建築の局舎で、平成10年(1998年)10月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
文化庁の記録は構造をこう記す。木造2階建、瓦葺、建築面積158平方メートル。この一行が伝えないのは、実物を前にしたときの違和感である。軸組は在来の木造。外皮はそうではない。街路に面する壁面は平物のタイルで覆われ、木造建築の輪郭を消して小規模な鉄筋コンクリート事務所のような硬質な面をつくる。細部には当時世界的に流行していたアール・デコの幾何学が入り込んでおり、内部の階段手摺にそれがはっきり現れている。
建てたのは秩父セメントの創業者、諸井恒平。ただしこの局舎は、同じ一族が六十年にわたって続けてきた事業の器を建て替えたものである。
日本の近代郵便制度が始まったのは明治4年(1871年)。翌明治5年、制度を築いた前島密は全国に網を広げるにあたり、各地の有力者に郵便取扱人への就任を求めて回った。本庄で白羽の矢が立ったのが、江戸期に鳥見役を務めた旧家、諸井家の10代・諸井泉衛である。泉衛は同年、自宅に本庄郵便取扱所を開設し、初代郵便局長となった。
明治10年(1877年)、慈恩寺の火災により諸井家は焼失する。再建にあたり泉衛は大工を横浜へ送って洋館を観察させた。明治13年頃(1880年頃)に完成したその建物は、いまも局舎の真裏に残る。コロニアル風のベランダ、漆喰でアーチ状に納めた天井、色ガラスの窓。埼玉県指定有形文化財「諸井家住宅」である。昭和9年に新局舎が公共の機能を引き受けるまで、ここが居宅と郵便局を兼ねていた。
登録の理由と、制度上の位置づけ
登録番号は11-0008。埼玉県内で8番目、全国では第14回登録に含まれ、告示は平成10年(1998年)10月26日。文化庁の種別分類は「官公庁舎」に置かれている。
ここで制度の区別を確認しておきたい。国宝・重要文化財は国が「指定」するもので、現状変更には許可が要る。登録有形文化財は「登録」であり、平成8年(1996年)に設けられたこの枠組みは、外観の大幅な変更にあたって届出を求めるにとどまる。義務を軽くしたのは意図的な設計である。近代の建築は指定の審査を待たずに失われつつあり、その多くが民間の所有下で現役の用途を持っていた。本件も所有者は株式会社諸井家、すなわち一族の会社のままである。
適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。平面の構成が価値の一端を担う。1階は郵便業務のための窓口空間として、2階は電信電話業務のために造られた。昭和9年当時、この二つは別系統の技術であり、それが一棟の下に収まった時点をこの平面が記録している。
もう一端は表層にある。昭和初期の地方局舎は、簡素な木造か、あるいは意欲的なものでも下見板張りの洋風建築というのが通例だった。木造の軸組にタイルを張り、デコの幾何学で細部を切るという解はそのどちらでもない。文化庁の解説文が「特異な外観」と記すのはこの点で、建築愛好者が長年この局舎を撮り続けてきた理由でもある。
記録上の相違を一点。所有者について、文化庁データベースは「株式会社諸井家」とし、文化遺産オンラインは「有限会社 諸井家」と記載する。本稿は国のデータベースの表記に従う。
局舎が迎えた二度目の現役
郵便局は令和元年(2019年)12月2日に退去した。業務はビバモール本庄内の窓口「ビバモール本庄郵便局」へ移り、建物は閉鎖され、入口脇のポストも撤去された。縮小する旧市街に残された登録文化財が借主を失う。多くの近代建築はこの段階で解体される。
この局舎には次の使い手が現れた。令和5年(2023年)3月21日、帽子ブランド「W@nder Fabric(ワンダーファブリック)」が工房兼店舗としてここに入居している。上里町出身の今井俊之氏が平成28年(2016年)に立ち上げたブランドで、日本の生地を用いたキャップを手作業で製作する。店内には郵便局時代の窓口まわりの意匠が残っており、平面は消されたのではなく、住み替えられたと言うべきだろう。
したがって見学のかたちは二つに分かれる。外観は旧中山道に面しているため、いつでも路上から見ることができる。内部は店舗の営業時間中に客として入る形になる。営業時間は文化財としての公開制度によるものではなく事業者が定めるため、訪問前に店舗の発信を確認しておきたい。公道からの外観撮影に支障はないが、内部の撮影は店に一声かけるのが筋である。
背後の諸井家住宅は常時公開されていない。外からその姿を垣間見ることはでき、特別公開が行われた例もあるが、通年の拝観制度は設けられていない。
JR高崎線本庄駅から徒歩約10分。旧街道をさらに南西へ進めば、明治期の旧本庄商業銀行煉瓦倉庫があり、こちらは無料で常時公開されている。本庄市内の国登録有形文化財は8件を数え、その集中はこの旧中山道沿いにある。
Q&A
- 旧本庄仲町郵便局の内部は見学できますか。
- 現在は帽子ブランド「W@nder Fabric」の工房兼店舗が入居しており、営業時間中に客として内部を見ることができます。文化財としての拝観制度や決まった公開日はありません。営業時間は事業者が定めるため、訪問前の確認をおすすめします。外観は路上からいつでも見られます。
- 旧本庄仲町郵便局では今も郵便業務を行っていますか。
- 行っていません。令和元年(2019年)12月2日にビバモール本庄内へ移転し、現在は「ビバモール本庄郵便局」として営業しています。旧局舎入口のポストも同時に撤去されました。
- 旧本庄仲町郵便局は誰がいつ建てたものですか。
- 秩父セメント創業者の諸井恒平が昭和9年(1934年)に建築しました。諸井家は明治5年(1872年)、前島密の依頼を受けた10代・諸井泉衛が自宅に本庄郵便取扱所を開設して以来、郵便事業に関わってきた一族です。
- 旧本庄仲町郵便局はどのような建築様式ですか。
- 軸組は木造2階建、屋根は瓦葺という在来の構法ですが、外壁はタイル張りで、階段手摺などの細部にアール・デコの意匠が用いられています。木造にタイルという組み合わせを、文化庁の解説文は「特異な外観」と記しています。
- 旧本庄仲町郵便局の裏にある諸井家住宅は見学できますか。
- 通年での公開は行われていません。明治13年頃の建築とされ、埼玉県指定有形文化財ですが個人所有の住宅です。特別公開が実施された例はあるものの、常設の拝観制度はありません。
基本情報
| 名称 | 旧本庄仲町郵便局(きゅうほんじょうなかまちゆうびんきょく) |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県本庄市中央一丁目8-2 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 11-0008/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 平成10年(1998年)10月9日登録、同年10月26日告示(第14回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積158平方メートル |
| 所有者 | 株式会社諸井家 |
| 公開状況 | 外観は路上から常時見学可。内部は入居店舗「W@nder Fabric」の営業時間中のみ。文化財としての拝観制度なし。JR高崎線本庄駅から徒歩約10分 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧本庄仲町郵便局」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000814
- 文化遺産オンライン「旧本庄仲町郵便局」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/113694
- 本庄市教育委員会「国登録有形文化財」
- https://www.city.honjo.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkai/bunkazai/tantoujouhou/bunkazai/1375759852044.html
- 埼玉県「中山道最大の宿『本庄宿』の再発見 vol.5」
- https://www.pref.saitama.lg.jp/b0111/midokoro-nakasendou5.html
- 本庄経済新聞「旧本庄仲町郵便局跡にキャップ工房&ショップ『ワンダーファブリック』」
- https://honjo.keizai.biz/headline/592/
- 戸谷八商店「諸井家と旧本庄仲町郵便局」
- https://www.toyahachi.com/20230117/
最終更新日: 2026.08.10