駅前通りに西面する昭和8年の料亭建築

割烹旅館二葉本店本館は、埼玉県比企郡小川町大字大塚にある昭和8年(1933年)建築の木造2階建で、平成16年(2004年)7月23日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

小川町駅を出て南へ延びる駅前通りを三百メートルほど下ると、道の西側に長い瓦屋根の正面が現れる。切妻や入母屋の破風、庇、棟が幾重にも重なり、歩を進めるにつれて輪郭が変わっていく。文化庁の解説文も、この「複雑な屋根構成」を正面側の特徴として最初に挙げている。

木造2階建、瓦葺、建築面積461平方メートル。数字だけを見れば地方町の料理屋の規模だが、2階に上がると印象が変わる。床の間と舞台を向かい合わせに配した70畳の大広間があり、畳を敷き詰めた床面はおよそ115平方メートルに及ぶ。公共の集会施設ではなく一軒の商家がこれだけの空間を抱えたところに、昭和初期の小川町が一流の店に求めた水準が読み取れる。

二葉の創業は寛延元年(1748年)にさかのぼり、当主の八木家は現在十四代を数える。昭和8年の建築にあたって東京から棟梁を招いたと家に伝わっており、文化庁の解説文も「伝える」という語でこれを記す。棟梁の名を示す史料は確認されていない。

「造形の規範」としての登録

日本の建造物保護には指定と登録という二つの制度があり、本館が受けているのは後者である。

国宝・重要文化財は国が選び出して指定するもので、現状変更には許可を要し、修理には国費が投じられる。これに対し登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、築おおむね五十年を経た建造物、とりわけ明治以降の近代建築を対象とする。外観の大きな変更は許可ではなく届出で足り、活用しながら残すことが前提に置かれている。毎日の営業を続ける料理屋にとって、この緩やかさは制度上の要点にあたる。

本館の登録番号は11−0082、第43回登録で、告示は平成16年8月17日。登録基準は「造形の規範となっているもの」が適用された。所有者は株式会社二葉楼。

同じ敷地の離れである六六亭も同日に登録番号11−0083で登録されており、二棟は一括して評価を受けている。文化庁の解説文はいずれについても、吟味された用材と職人の手業を挙げ、数寄屋風という語で様式を示す。数寄屋は本来茶室の造りを指し、細い部材、抑えた装飾、まっすぐで癖のない材よりも表情のある材を好む姿勢を特徴とする。これを客を迎える商業建築に持ち込んだものが数寄屋風料亭建築で、大正から昭和初期にかけて各地に建てられ、現在は残存例が乏しい。

意匠のうち一点、壁の仕上げに触れておきたい。本館には鉄粉を練り込んだ錆壁が現存する。時間とともに鉄が酸化し、色調が少しずつ変化していく仕上げで、二葉ではこれを「ほたる壁」とも呼ぶ。離れの客室を改修した際、この錆壁の復元がもっとも困難だったと同館は記している。

大広間と錆壁を見る

本館は博物館ではなく営業中の料理屋であり、入口は券売所ではなく食卓の側にある。小川町の観光情報サイトによれば、二葉で食事をした客は本館を無料で見学できる。個別の拝観券や随時の見学受付はない。

もっとも確実なのは平日限定の「文化財ランチ」で、二葉楼の月の間という登録有形文化財の座敷が会場となる。同館の案内には、映画監督の黒澤明、作家の向田邦子、人間国宝の陶芸家石黒宗麿が愛した部屋とある。忠七めし会席は6,050円・7,700円・9,350円、うな重や花籠御膳との組み合わせもあり、別に席料550円とサービス料が加わる。要予約、1日3組限定、2名から。

献立の最後に出るものが、多くの客の目当てである。忠七めしは温かい飯に焼き海苔をのせ、独特のつゆをかけて茶漬けのようにいただく料理で、わさび、柚子、さらし葱を添える。名の由来は山岡鉄舟にさかのぼる。慶応4年(1868年)の江戸城無血開城に実質的な役割を果たし、のちに明治天皇の侍従を務めた人物で、剣・禅・書の三道に通じた。鉄舟が八代目当主の八木忠七に「調理に禅味を盛れ」と命じ、忠七が工夫を重ねて生み出したものが忠七めしだと伝わる。昭和14年(1939年)の全国郷土料理調査で日本を代表する料理に選ばれ、東京の深川めし、大阪のかやくめしなどと並ぶ日本五大名飯の一つに数えられる。二葉に残る鉄舟の書は直筆と伝わり、和紙の産地である小川町へ紙を求めて度々訪れたのではないかとも言われる。

営業は昼が11時30分から14時ラストオーダー、夜が16時30分から20時30分。夕食は要予約で、平日は3名以上から、予約は前日14時まで。定休日は月曜(変更の場合あり)。宿泊は現在受け付けていないため、食事を軸に予定を組むことになる。撮影の可否について同館は方針を公表していないので、館内で写す前に一声かけたい。

アクセスは良い。小川町駅は東武東上線とJR八高線が乗り入れ、出口は一か所のみ。そのまま県道189号(花水木通り)を直進して徒歩4分ほど。池袋からは急行でおよそ70分、車なら関越自動車道嵐山小川インターチェンジから約15分で、乗用車15台分の駐車場がある。

庭を歩く時間も取っておきたい。敷地は約千坪、およそ3,300平方メートルで、回遊式の日本庭園には西暦1300年頃に造られたという青石の板碑、さざれ石、多数の奇石が据えられている。初夏には蛍が飛ぶ。小川町そのものも寄り道に値する。細川紙の産地として知られ、平成26年(2014年)に「和紙 日本の手漉和紙技術」の一部としてユネスコ無形文化遺産に登録されている。

Q&A

Q割烹旅館二葉本店本館は見学できますか。拝観料はかかりますか。
A拝観券の販売はありません。営業中の料理屋の建物であり、小川町の観光情報サイトによれば二葉で食事をした客は無料で見学できます。実際の入口となるのは平日限定の文化財ランチで、要予約、1日3組限定、2名からの受付です。
Q割烹旅館二葉本店本館は登録有形文化財ですが、重要文化財とはどう違うのですか。
A登録は平成8年(1996年)に始まった緩やかな保護制度で、築おおむね五十年以上の近代建造物を主な対象とします。外観の大きな変更は許可ではなく届出で足り、使いながら残すことが前提です。国が選定して強い規制を課す重要文化財・国宝の指定とは仕組みが異なります。本館は平成16年7月23日、登録番号11−0082で登録されました。
Q割烹旅館二葉本店本館へは都心からどう行きますか。
A池袋から東武東上線の急行で小川町駅まで約70分、駅から徒歩4分です。出口は一か所で、前方の県道189号(花水木通り)を約300メートル直進すると左手にあります。JR八高線も小川町駅に停車します。車の場合は関越自動車道嵐山小川インターチェンジから約15分、乗用車15台分の駐車場があります。
Q割烹旅館二葉本店本館の70畳の大広間とはどのような部屋ですか。
A2階にある宴会用の大広間で、床の間と舞台を向かい合わせに配した構成をとります。畳70枚分、およそ115平方メートル。文化庁の解説文が本館の主要な特徴として挙げている部屋で、展示用に保存されているのではなく、宴席や婚礼の場として使われています。
Q割烹旅館二葉本店本館に宿泊できますか。
A現在は宿泊を受け付けていません。同館は宿泊休止を告知しており、食事の営業のみとなっています。昼は11時30分から、夜は16時30分から、定休日は月曜(変更の場合あり)。訪問前に電話で最新の状況をご確認ください。

基本情報

名称割烹旅館二葉本店本館(かっぽうりょかんふたばほんてんほんかん)
所在地埼玉県比企郡小川町大字大塚32-5(営業上の表示は大塚32)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 11−0082/第43回登録/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成16年(2004年)7月23日登録、同年8月17日告示
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積461平方メートル/昭和8年(1933年)建築
所有者株式会社二葉楼
公開状況一般公開なし。食事利用者は無料で見学可。昼11:30〜14:00ラストオーダー、夜16:30〜20:30(要予約)、月曜定休(変更の場合あり)。宿泊は休止中。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「割烹旅館二葉本店本館」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004209
文化遺産オンライン「割烹旅館二葉本店本館」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/195209
割烹旅館二葉 公式サイト「二葉のご案内」
https://ogawa-futaba.jp/guide-futaba
割烹旅館二葉 公式サイト「文化財でのランチ」
https://ogawa-futaba.jp/room
割烹旅館二葉 公式サイト「アクセスマップ」
https://ogawa-futaba.jp/access
おいでなせえ小川町「体験施設紹介 割烹旅館 二葉」
https://ogakuru.jp/facility/futaba

最終更新日: 2026.08.09