大正15年、震災の三年後に建った主屋

細淵家住宅主屋は、埼玉県さいたま市南区沼影にある大正15年(1926年)建築の木造平屋建住宅で、平成18年(2006年)3月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

武蔵浦和駅の東口から徒歩三分ほど。埼京線と武蔵野線が交わる駅前には高層のマンションが並ぶが、東へ二区画も歩けば塀と瓦屋根の一角に行き当たる。

建築面積は129平方メートル。屋根は寄棟造で桟瓦を葺き、四周に銅板葺の下屋をめぐらせる。建物は南面して建つ。

平面は六間取を基本とする。三室二列を並べる関東の上層民家では定型といってよい構えだが、この主屋では土間が小さく造られている。大正末の沼影で、屋内の土間を必要とする作業がすでに減っていたことの反映と考えられる。

用材には欅の良材が多用されている。欅は硬く、刻むのに手間がかかり、揃った材を数量分確保することも容易ではない。それを住宅に惜しみなく使うという選択には、施主の格が現れる。文化庁の解説文は構造の強固さに触れ、座敷まわりの内部意匠についても洗練されていると記す。

竣工は大正12年(1923年)9月の関東地震から三年後にあたる。文化庁データベースの解説文が「震災後に建てられた」という一句から書き起こされているのは、この建物の性格を捉えたものだろう。

登録の経緯と、その評価軸

登録有形文化財は、平成8年(1996年)に創設された制度である。建築後おおむね50年を経た建造物を対象とし、所有者が使い続けることを前提に、外観の変更などについて許可ではなく届出を求める。国宝や重要文化財の「指定」とは制度の性格が異なる。細淵家住宅主屋に住人がいるのは、この違いによる。

適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」。登録基準は三種あり、そのうちの一つである。登録番号は11-0092、第49回の登録にあたる。登録年月日は平成18年3月2日、官報告示はその三週間後の3月23日。

同じ屋敷の東辺に建つ細淵家住宅長屋門は、同日付で登録番号11-0093として登録された。二棟は個別の建造物としてではなく、屋敷構えとして一括して評価されている。江戸後期の門と大正末の主屋が同じ日付で台帳に並ぶのはそのためである。

評価されたのは新奇さではなく、水準である。平面構成そのものは伝統に忠実で、目新しさはない。しかし欅を主体とした軸組、四周を回る銅板葺の下屋、座敷の造作といった要素は、町場の大工が手すさびに仕上げられる質ではない。この種の住宅は、さいたま市が吸収した旧村々には珍しいものではなかった。それが戦後の宅地化を越え、主要な乗換駅から徒歩圏に残った例となると、数は一気に減る。

門前から何が見えるか

現に人が暮らす私邸である。さいたま市は公開の範囲を明示している。外観のみ。建物内部にも敷地内にも立ち入ることはできない。拝観時間も拝観料もなく、案内する人もいない。見られるのは公道からの眺めであり、市は所有者や近隣、ほかの見学者の迷惑にならないよう求めている。

公道に立つと、まず正面に長屋門が来る。屋敷の東辺に建っているからである。主屋はその奥にあり、塀の上に見えるのは屋根の部分になる。桟瓦の寄棟がのびやかに下り、その下に銅板葺の下屋が回る。撮影を禁じる定めはないが、節度の線は見学の範囲と同じところに引くのがよい。公道から、建築だけを、敷地の内側や住人には向けない。

到達は容易である。武蔵浦和は新宿から埼京線で25分ほど、武蔵野線にも接続する。東口から三分。日のあるうちに行くこと以外に、時間の制約はない。

古建築の内部まで歩きたい向きには、緑区の浦和くらしの博物館民家園を合わせて回るとよい。市内から移築復原された七棟が並び、市内最古と伝わる茅葺の民家も含まれる。入館は無料、開館は9時から16時30分、月曜休館。沼影からは離れているため、ついでではなく別行程として組むことになる。

Q&A

Q細淵家住宅主屋は内部を見学できますか。
Aできません。現住の私邸であり、さいたま市が公開しているのは外観のみです。建物内部も敷地内も見学の対象外で、申込制度や特別公開の設定もありません。公道からの見学にとどめてください。
Q細淵家住宅主屋の所在地と行き方を教えてください。
A所在地は埼玉県さいたま市南区沼影1-17-8です。JR埼京線・武蔵野線の武蔵浦和駅東口から徒歩三分ほど。武蔵浦和までは新宿から埼京線で25分程度です。
Q細淵家住宅主屋はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
A建築は大正15年(1926年)、関東大震災の三年後にあたります。登録年月日は平成18年(2006年)3月2日、登録番号は11-0092、官報告示は同年3月23日です。
Q細淵家住宅主屋は重要文化財や国宝とは違うのですか。
A異なります。登録有形文化財は平成8年(1996年)創設の制度で、築50年程度以上の建造物を対象とし、所有者による使用継続を前提に、変更は届出制とします。国や自治体が選定し強い規制と保護を及ぼす「指定」とは、法的な位置づけが別です。
Q細淵家住宅主屋の近くに、あわせて見られるものはありますか。
A同じ屋敷の東辺に建つ細淵家住宅長屋門が同日登録されており、公道から正面に見えます。内部まで入れる古建築を求めるなら、緑区の浦和くらしの博物館民家園に移築復原された七棟があります。入館無料、9時から16時30分、月曜休館です。

基本データ

名称細淵家住宅主屋(ほそぶちけじゅうたくしゅおく)
所在地埼玉県さいたま市南区沼影1-17-8
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号11-0092 第49回登録 登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年登録年月日 平成18年(2006年)3月2日 登録告示 同年3月23日
員数1棟
寸法建築面積129平方メートル 木造平屋建、瓦葺
所有者個人
公開状況外観のみ。建物内部および敷地内の見学は不可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 細淵家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005254
文化遺産オンライン 細淵家住宅主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/170562
さいたま市 文化財紹介 細淵家住宅主屋
https://www.city.saitama.lg.jp/004/005/006/001/016/p002492.html
さいたま市 国登録有形文化財
https://www.city.saitama.lg.jp/004/005/006/001/016/index.html
さいたま市 浦和くらしの博物館民家園 利用案内
https://www.city.saitama.lg.jp/004/005/004/005/003/002/p032604.html

最終更新日: 2026.08.10