武蔵野銀行行田支店店舗:昭和初期の本格的銀行建築を訪ねて
埼玉県行田市の国道沿いに堂々と佇む武蔵野銀行行田支店店舗は、昭和初期の鉄筋コンクリート造による本格的な銀行建築です。昭和9年(1934年)に忍貯金銀行として竣工したこの建物は、足袋産業の最盛期に栄えた行田の繁栄を物語る貴重な近代化遺産として、平成17年(2005年)に国の登録有形文化財に登録されました。スクラッチタイルやカストストンで装飾された重厚な外観は、約90年の時を経た今もなお、地方銀行建築の美しさを伝えています。
歴史的背景:忍貯金銀行から武蔵野銀行へ
この建物は昭和9年(1934年)6月28日、忍貯金銀行の店舗として竣工しました。当時の行田は足袋産業の全盛期にあたり、全国の足袋生産の約8割を担う「日本一の足袋のまち」として繁栄していました。本格的な鉄筋コンクリート造の銀行建築が建てられたことは、地域経済の活況を如実に示しています。
昭和19年(1944年)、戦時中に行田足袋元売販売株式会社へ売却され、戦後は「足袋会館」として地域の足袋産業に関わる施設として利用されました。その後、昭和44年(1969年)から武蔵野銀行行田支店として現在に至っています。忍貯金銀行から足袋会館、そして武蔵野銀行へと、建物の歩みは行田の近現代史そのものと重なります。
登録有形文化財としての価値
武蔵野銀行行田支店店舗は、平成17年(2005年)11月10日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その価値は多岐にわたります。
まず、埼玉県内で数少ない戦前の鉄筋コンクリート造の本格的銀行建築であることが挙げられます。昭和初期において、地方都市にこれほどの規模と品質を備えた銀行建築が建設されたことは、当時の行田の経済的な豊かさを証明するものです。
次に、外壁にはスクラッチタイルが張られ、開口部周りやコーニス(軒蛇腹)にはカストストン(模造石)による装飾が施されています。スクラッチタイルは、大正12年(1923年)に竣工したフランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテル旧本館で採用されて以来、日本の近代建築で広く用いられた建材で、表面に刻まれた細い溝が陰影を生み出し、重厚で落ち着いた風合いを醸し出します。
さらに、設計施工は地元の建設業者である小川組が手がけました。国道に面する側には吹き抜けの営業室を配する本格的な銀行建築の空間構成を実現しており、「昭和初期地方銀行建築の好事例」と評価されています。
建築的な見どころ
武蔵野銀行行田支店店舗の見どころは、まず外壁を覆うスクラッチタイルの美しさにあります。赤褐色の温かみのあるタイル表面に刻まれた無数の細い溝が、光の角度によって繊細な陰影を生み出し、建物全体に品格ある風合いを与えています。窓周りやコーニスに配されたカストストンの装飾は、彫りの深い近代復興式のデザインを際立たせています。
特筆すべきは、行田の気候風土を反映した設計です。冬季に北西から強い風が吹く行田では、建物の西側には出入口が設けられておらず、窓も東側に比べて極端に少ない造りとなっています。この防風・防寒対策は、行田の足袋蔵に見られる「半蔵造り」と同様の発想であり、地域の建築文化との共通性を見ることができます。
構造は鉄筋コンクリート造の地上2階地下1階建て、建築面積281平方メートルです。国道に面した吹き抜けの営業室は、銀行としての威厳と開放感を兼ね備えた空間であり、昭和初期の銀行建築の典型的な特徴を今に伝えています。
現在も武蔵野銀行の店舗として営業中のため、内部見学は営業時間中の公開エリアに限られますが、建物の外観はいつでも自由にご覧いただけます。
足袋蔵のまち行田:日本遺産のまちなみ
武蔵野銀行行田支店店舗は、日本遺産「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」の構成文化財のひとつに位置づけられています。行田市の中心部には、江戸後期から昭和にかけて建てられた約70棟の足袋蔵が裏通りに点在し、土蔵造り・石造・煉瓦造・モルタル造・鉄筋コンクリート造と、実に多彩な建築様式の蔵を見ることができます。
足袋産業の全盛期に金融面から行田の経済を支えた本格的銀行建築と、足袋の製造・保管を担った足袋蔵群は、ともに行田の産業発展の歴史を物語る貴重な存在です。まち歩きの途中にこの銀行建築を訪れることで、足袋のまち行田の繁栄の全体像をより深く理解することができるでしょう。
周辺情報
行田市には武蔵野銀行行田支店の周辺に、多彩な歴史・文化スポットが集まっています。
忍城址と行田市郷土博物館は、秩父鉄道行田市駅から徒歩約15分の場所にあります。戦国時代に石田三成の水攻めに耐えた名城として知られ、映画「のぼうの城」の舞台にもなりました。再建された御三階櫓は博物館の一部として、行田の歴史を紹介しています。
埼玉古墳群(さきたま古墳公園)は、国の特別史跡に指定された5世紀から7世紀にかけての大型古墳群です。県立さきたま史跡の博物館では、国宝「金錯銘鉄剣」をはじめとする貴重な出土品を見学できます。「埼玉県」の名前の由来となった「前玉(さきたま)」の地でもあります。
足袋蔵めぐりは、日本遺産ガイダンスセンター(明治39年建設の栗代蔵を活用)を起点に、多様な足袋蔵を巡るまち歩きが楽しめます。足袋とくらしの博物館ではMy足袋づくり体験も可能です。
行田のご当地グルメとして、「ゼリーフライ」(おからを使った揚げ物)や行田名物の「フライ」(お好み焼き風の料理)が人気です。また、「うまい、うますぎる」のCMで知られる十万石ふくさやの本店も行田にあり、登録有形文化財の店舗建築も見どころです。
Q&A
- 武蔵野銀行行田支店の建物は内部を見学できますか?
- 現在も武蔵野銀行の店舗として営業しているため、営業時間中の公開エリア(銀行窓口フロア)は利用・見学が可能です。ただし専用の見学ツアーや展示はありません。スクラッチタイルやカストストンの装飾など、建築的な見どころの多くは外観から十分に楽しむことができます。
- 武蔵野銀行行田支店へのアクセスは?
- 秩父鉄道行田市駅から徒歩約10分です。JR高崎線行田駅からは市内循環バスをご利用ください。所在地は埼玉県行田市行田4-2です。周辺には忍城址や足袋蔵群など、徒歩圏内で巡れる歴史スポットが多数あります。
- スクラッチタイルとはどのような建材ですか?
- スクラッチタイルは、焼成前の粘土表面に細い溝を引っ掻いて模様をつけた無釉タイルです。大正12年(1923年)竣工のフランク・ロイド・ライト設計による帝国ホテル旧本館で採用されたことを契機に日本で広く普及しました。表面の溝が生み出す陰影により、重厚で落ち着いた印象を与えるのが特徴で、昭和初期には官公庁・大学・金融機関などの建築に多用されました。
- 行田市を訪れるのに最適な季節は?
- 行田は一年を通じて楽しめます。春(3〜4月)は埼玉古墳群の桜、夏(6〜8月)は古代蓮の里の蓮の花が見頃です。毎月開催される花手水イベントやライトアップも魅力的です。秋は気候もよく、足袋蔵めぐりのまち歩きに最適な季節です。11月には忍城時代まつりも開催されます。
基本情報
| 名称 | 武蔵野銀行行田支店店舗(むさしのぎんこうぎょうだしてんてんぽ) |
|---|---|
| 旧名称 | 忍貯金銀行(おしちょきんぎんこう) |
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成17年(2005年)11月10日 |
| 竣工 | 昭和9年(1934年)6月28日 |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造 地上2階・地下1階建、建築面積281㎡ |
| 設計・施工 | 小川組 |
| 所有者 | 株式会社武蔵野銀行 |
| 所在地 | 埼玉県行田市行田4-2 |
| アクセス | 秩父鉄道行田市駅より徒歩約10分/JR高崎線行田駅より市内循環バス利用 |
| 見学 | 外観:随時見学可。内部:営業時間中の公開エリアのみ |
参考文献
- 武蔵野銀行行田支店店舗 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/118027
- 武蔵野銀行行田支店店舗 — 日本遺産ポータルサイト
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/3010/
- 武蔵野銀行行田支店店舗 — 行田市公式サイト
- https://www.city.gyoda.lg.jp/soshiki/shougaigakusyubu/bunkazaihogo/gyomu/rekishi_bunkazai/1/2318.html
- 日本遺産「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」 — 行田市公式サイト
- https://www.city.gyoda.lg.jp/soshiki/shougaigakusyubu/bunkazaihogo/gyomu/rekishi_bunkazai/nihonisan/10389.html
- 日本遺産「足袋蔵のまち行田」ポータルサイト
- https://gyoda-kankoukyoukai.jp/nihonisan/
- スクラッチタイル — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%81%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AB
最終更新日: 2026.03.11