誠之堂:渋沢栄一の偉業を讃える大正建築の傑作

埼玉県深谷市の大寄公民館敷地内にたたずむ誠之堂(せいしどう)は、日本近代建築史における大正時代の最も優れた作品のひとつです。1916年(大正5年)、「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一の喜寿(77歳)を祝って建築されたこの煉瓦造りの建物は、2003年(平成15年)に国の重要文化財に指定されました。東西の文化が見事に融合した格調高い意匠は、訪れる人々を大正ロマンの世界へと誘います。

歴史的背景

渋沢栄一は現在の深谷市に生まれ、株式会社組織による企業の創設・育成に力を注ぎ、日本の近代経済社会の基礎を築きました。その活動の拠点が第一国立銀行(後の第一銀行)であり、栄一はその初代頭取を務めました。喜寿を迎えるにあたり頭取を辞任した栄一に対し、行員たちが自ら出資を募って建築したのがこの誠之堂です。行員たちの深い敬愛の念が込められた記念建築といえるでしょう。

誠之堂はもともと東京都世田谷区瀬田にあった第一銀行の保養・スポーツ施設「清和園」の敷地内に建てられていました。銀行関係者の集会施設として長年利用されてきましたが、1997年(平成9年)、聖マリア学園の施設拡充計画により取り壊しが検討されました。渋沢栄一生誕の地である深谷市が譲り受けに名乗りを上げ、1998年から1999年にかけて、煉瓦構造物としては日本初となる「大ばらし工法」による解体・移築・復元工事が行われ、現在地に蘇りました。

重要文化財に指定された理由

誠之堂は2003年(平成15年)5月30日に国の重要文化財に指定されました。その理由は、大正時代の建築界を代表する田辺淳吉(清水組技師長)の代表作であること、英国の田園趣味を基調とした外観に多彩な煉瓦積技法と自在な意匠を駆使して端整かつ雅趣ある建築作品に仕上げられていること、そして大正建築の特質のひとつである美術工芸運動的傾向を代表する作品であることが挙げられています。また、深谷市上敷免の日本煉瓦製造株式会社で製造された煉瓦が使用されており、郷土ゆかりの歴史的遺産としても極めて重要な存在です。

見どころ・魅力

外観の意匠

建物の外観はイギリスの農家をモデルとしています。渋沢栄一からの設計条件は「西洋風の田舎屋」で「建坪は30坪前後」というものでした。煉瓦造平屋建て、天然スレート葺きの屋根を持ち、濡縁(ベランダ)には左右にベンチが設けられ、手すりには細やかな装飾が施されています。外壁にはあえて焼き色の異なる赤・黄・黒の煉瓦をフランス積みで組み合わせ、リズミカルで装飾的な表情を生み出しています。

「喜寿」の煉瓦装飾

暖炉の背面にあたる北側の壁面には、煉瓦による朝鮮風の装飾積みで「喜寿」の文字が表現されています。建物の建築目的そのものを壁面に刻んだ、遊び心あふれるデザインです。その両脇には美しいステンドグラスがはめ込まれた窓があり、繊細な光の演出を楽しむことができます。

室内装飾の東西融合

大広間の円筒形漆喰天井(ヴォールト天井)には、雲・鶴・松葉・「寿」の文字が石膏レリーフで施され、朝鮮風の荘厳な雰囲気を醸し出しています。一方、次之間の天井は日本的な網代天井で、数寄屋造りの様式が取り入れられています。ひとつの建物の中で東洋と西洋の美意識が見事に共存している点が、誠之堂最大の魅力です。

「誠之堂」の命名

「誠之堂」の名は渋沢栄一自身が命名したもので、儒教の代表的経典『中庸』の一節「誠者天之道也、誠之者人之道也(誠は天の道なり、これを誠にするは人の道なり)」に由来します。栄一の深い教養と、誠実な経営哲学を象徴する名称です。

来訪者向け情報

誠之堂は年末年始(12月29日〜1月3日)を除き、午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)無料で公開されています。少人数の見学であれば予約不要で、現地の受付に声をかけるだけで見学できます。10名以上の団体は事前予約が必要です。見どころを解説した散策ガイド(パンフレット)が現地で配布されており、係員によるガイドを希望することもできます。

JR高崎線深谷駅北口から北へ約4km、車で約10分、徒歩で約1時間の距離にあります。深谷市コミュニティバス「くるリン」北部シャトル便で大寄公民館停留所下車すぐ。レンタサイクル「フカペダル」も利用可能です。カーナビで検索する場合は「深谷市起会84-1(大寄公民館)」で検索してください。

周辺情報

誠之堂に隣接して建つ清風亭(せいふうてい)は、1926年(大正15年)に第一銀行の二代目頭取・佐々木勇之助の古希を記念して建築されたスペイン南欧風の建物で、埼玉県指定有形文化財に指定されています。誠之堂とはまったく異なる建築様式を比較しながら楽しむことができます。深谷市内にはほかにも渋沢栄一記念館、渋沢栄一の生家「中の家(なかんち)」、日本煉瓦製造のホフマン輪窯など、渋沢栄一ゆかりのスポットが点在しており、「史跡めぐりタクシー」を利用すれば約3時間で主要スポットを巡ることができます。深谷市はネギの名産地としても知られ、ご当地グルメも楽しみのひとつです。

Q&A

Q誠之堂とはどのような建物ですか?
A1916年(大正5年)に渋沢栄一の喜寿(77歳)を祝って第一銀行の行員たちが出資し建築した煉瓦造りの記念建築です。設計は大正期の名建築家・田辺淳吉で、2003年に国の重要文化財に指定されました。
Q見学に料金はかかりますか?
A見学は無料です。年末年始(12月29日〜1月3日)を除き、午前9時から午後5時まで公開されています(入館は午後4時30分まで)。
Q深谷駅からのアクセス方法は?
AJR高崎線深谷駅北口から車で約10分、コミュニティバス「くるリン」北部シャトル便で大寄公民館下車すぐ、レンタサイクルでも訪問できます。徒歩では約1時間(約4km)です。
Qなぜ東京から深谷市に移築されたのですか?
Aもともと東京世田谷区にありましたが、1997年に取り壊しが検討されました。渋沢栄一生誕の地である深谷市が譲り受け、日本初の煉瓦建築の大ばらし工法で1998〜1999年に移築・復元されました。
Q周辺にほかの見どころはありますか?
A隣接する清風亭(埼玉県指定有形文化財)のほか、渋沢栄一記念館、渋沢栄一の生家「中の家」、日本煉瓦製造のホフマン輪窯など、渋沢栄一ゆかりの史跡が市内各所にあります。

基本情報

名称 誠之堂(せいしどう)
指定区分 国指定重要文化財(2003年5月30日指定)
竣工 1916年(大正5年)
設計 田辺淳吉(清水組技師長)
構造 煉瓦造、平屋建、天然スレート葺
建築面積 113.30 m²
所在地 埼玉県深谷市起会字唐言110番3
所有者 深谷市
開館時間 午前9時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 年末年始(12月29日〜1月3日)
入館料 無料
アクセス JR高崎線深谷駅北口より車で約10分、コミュニティバス「くるリン」北部シャトル便利用
お問い合わせ 深谷市教育委員会 文化振興課 電話:048-577-4501

参考文献

最終更新日: 2026.04.10