1合の経箱 ― 1957年に国宝

宝相華蒔絵経箱は、滋賀県の延暦寺が所有する平安時代の工芸品で、1900年(明治33年)4月7日に重要文化財となり、1957年(昭和32年)2月19日に国宝に指定された。員数は1合、所有は延暦寺である。

寸法は縦33.0センチメートル、横20.3センチメートル、高さ17.0センチメートルとされる。員数の単位は合で、蝶螺鈿蒔絵手箱や瑞龍寺の香合と同じである。

国宝となった1957年2月19日は、蝶螺鈿蒔絵手箱、太刀〈銘光世作(名物大典太)〉、薙刀〈銘備前国長船住人長光造〉と同じ日にあたる。この日の物件は4件目になる。

所在地の欄が空である

記録には、どこにあるかが書かれていない。

所有者の欄は延暦寺とする。しかし所在地の欄は空である。

これまで所在と所有が分かれる例を見てきた。線刻釈迦三尊等鏡像は所有が泉屋博古館で所在が奈良国立博物館の住所、色絵藤花文茶壺は所有が世界救世教で所在がMOA美術館だった。

それらは両方が書かれていた。本件は所在地そのものが記されていない。

薙刀〈銘備前国長船住人長光造〉では、県の欄に作者の出身地が入っていた。蝶螺鈿蒔絵手箱では、県の欄と住所が一致しなかった。誤りが入る場合と、書かれない場合がある。

本稿は所在地を示さず、所有者のみを記す。

部位によって、金と銀が使い分けられている

装飾の記述に、金属の使い分けがある。

外部は黒漆平塵地に大きく宝相華唐草の円文を研ぎ出し、華と円輪は金蒔、葉と蔓は銀蒔とする、とある。

花と円い輪は金、葉と蔓は銀である。一つの文様のなかで、部位ごとに金属が分けられている。

蝶螺鈿蒔絵手箱では、蒔絵の金色、螺鈿の白色、平文の銀色と、技法と色が対応していた。技法が違えば色も違うという書き方である。

本件は技法が同じ蒔絵でありながら、蒔く金属を部位で変えている。同じ手法のなかでの使い分けになる。

蓋の裏についても、蓋裏は淡い平塵で、その中央と四隅に唐草の一枝を描く、とされる。外と内で密度が違う。

内側に貼られた裂が後補である

内貼りについて、後から補われた旨が明記される。

見の内側には茶地牡丹唐草文金襴、内底には紫地牡丹唐草文金襴(共に後補)を貼る、とある。

茶色の地と紫の地で、貼り分けられている。そのどちらも後補とされる。

菊造腰刀では、目貫の菊花のみ後補だった。名の由来である菊の一部が後の時代のものである。浄土寺多宝塔では、高欄が1732年に初めて設けられた。

本件は、内側に貼られた布が両方とも後補になる。開けなければ見えない部分が、後の時代のものである。

蝶螺鈿蒔絵手箱では、身と懸子の内面に青地牡丹文緞子を貼るとされ、後補とは書かれていなかった。同じ牡丹唐草の裂でも、記述が違う。

鑑賞

所有は延暦寺である。寺が保管する経箱であり、常設で公開される性格のものではない。

形も記される。僅かに甲盛のある蓋に削面をとり、錫の置口を付した箱、とある。錫の置口は蝶螺鈿蒔絵手箱にも見られた造りである。

評価は、唐草文様ながら流麗な筆致に富み、その構成も優れており、平安時代における代表的な蒔絵経箱である、とされる。

唐草文様ながら、という言い方になっている。大笹原神社本殿の「小規模な神社本殿であるが」と同じく、まず条件を断ってから評価に入る書き方である。

関連作品には、宝相華銀平文袈裟箱、宝相華蒔絵宝珠箱といった同じ文様の名が並ぶ。公開の予定は変わることがあるため、訪問前に確認したい。

Q&A

Q宝相華蒔絵経箱はいつ指定されましたか。
A1900年(明治33年)4月7日に重要文化財、1957年(昭和32年)2月19日に国宝へ指定されました。員数は1合、所有は延暦寺です。
Qどこにあるのですか。
A記録の所在地の欄は空です。所有者の欄は延暦寺とされますが、どこに保管されているかは書かれていません。本稿は所有者のみを記しています。
Qどのように装飾されていますか。
A文化庁は「外部は黒漆平塵地に大きく宝相華唐草の円文を研ぎ出し、華と円輪は金蒔、葉と蔓は銀蒔とする」と記します。同じ蒔絵のなかで、部位ごとに金と銀が使い分けられています。
Q後から補われた部分はありますか。
Aあります。文化庁は内側に貼られた金襴について「共に後補」と記します。茶色の地と紫の地の二種類が貼り分けられており、そのどちらも後の時代のものです。
Q何が評価されているのですか。
A文化庁は「唐草文様ながら流麗な筆致に富み、その構成も優れており、平安時代における代表的な蒔絵経箱である」と記します。まず文様の種類を断ってから評価に入っています。

基本情報

名称宝相華蒔絵経箱(ほうそうげまきえきょうばこ)
所在地記録の所在地の欄は空。所有者は延暦寺とされる
指定区分国宝(工芸品)
指定年1900年(明治33年)4月7日 重要文化財/1957年(昭和32年)2月19日 国宝
員数1合
寸法縦33.0センチメートル、横20.3センチメートル、高さ17.0センチメートル。僅かに甲盛のある蓋に削面をとり、錫の置口を付す。黒漆平塵地に宝相華唐草の円文を研ぎ出し、華と円輪は金蒔、葉と蔓は銀蒔とする。内貼りの金襴は後補。時代は平安
所有者延暦寺
公開状況寺が保管する経箱で、常設の公開ではない

参考文献

文化遺産オンライン 宝相華蒔絵経箱
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/150091
比叡山延暦寺 国宝殿
https://www.hieizan.or.jp/keidai/kokuhoden
比叡山延暦寺 公式サイト
https://www.hieizan.or.jp/
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/

最終更新日: 2026.09.06