かぎ楼 ― 多賀大社門前町に佇む、330年の歴史を持つ登録有形文化財
滋賀県犬上郡多賀町。延命長寿・縁結びの神として全国から年間約170万人もの参拝者を迎える多賀大社の西参道沿いに、ひときわ存在感を放つ木造三階建ての建物があります。元禄2年(1689年)創業の老舗料理旅館「かぎ楼」です。
松尾芭蕉が『おくのほそ道』の旅に出発したのと同じ年に創業したこの旅館は、300年以上にわたって多賀大社への参拝者や旅人をもてなし続けてきました。明治10年(1877年)に建てられた現在の建物は、大正期に増築された三階建ての客室棟とともに、平成13年(2001年)に国の登録有形文化財として登録されています。朱色の壁面と擬宝珠風の高欄が印象的なその姿は、多賀大社門前町のランドマークとして地域の人々に長く親しまれています。
元禄から続く歴史 ― 門前町とともに歩んだ330余年
かぎ楼が創業した元禄2年(1689年)は、江戸時代の中でも特に文化が花開いた元禄文化の時代にあたります。歌舞伎や浮世絵、俳諧が隆盛を極め、町人文化が成熟した華やかな時代でした。
多賀大社は古くから「お多賀さん」の愛称で親しまれ、「伊勢へ七たび 熊野へ三たび お多賀さまは月参り」と謳われるほどの信仰を集めていました。戦国時代には豊臣秀吉が母・大政所の病気平癒を祈願して米一万石を寄進するなど、武将たちからも篤く崇敬されています。こうした参拝者の絶えない門前町において、かぎ楼は料亭旅館として参拝者をもてなす重要な役割を担ってきました。
現在の建物は明治10年(1877年)に建築され、大正元年から大正14年(1912〜1925年)にかけて三階建ての客室棟が増築されました。平成13年(2001年)4月24日に国の登録有形文化財(建造物)として登録され、その建築的・文化的価値が公式に認められています。
建築の見どころ ― 数寄屋風の意匠と擬宝珠の高欄
かぎ楼の建築は、明治期から大正期にかけての日本建築の粋を集めた見事なものです。主屋は南北に棟を通す木造二階建てで、入母屋造の瓦葺き屋根を戴いています。参道に面した堂々たるたたずまいは、門前町の格式を今に伝えるものです。
主屋の後方に接続する三階建ての客室棟は、かぎ楼の建築的なハイライトです。内部は数寄屋風にまとめられており、茶の湯の精神に根ざした洗練された美意識が随所に感じられます。数寄屋造りの特徴である自然素材の繊細な使い方、控えめながらも洗練された意匠、そして建築と自然の調和が、訪れる人に静寂と安らぎをもたらします。
外観で最も目を引くのは、三階の北面および東面に廻された擬宝珠風の高欄(手すり)です。擬宝珠は本来、神社仏閣の橋や階段の欄干に設けられる装飾であり、これが民間の建物に採用されていることは、多賀大社との深い結びつきを象徴しています。
朱色に彩られた壁面は、周囲の落ち着いた伝統的な町並みの中でひときわ鮮やかなアクセントとなっており、建築面積308平方メートルの堂々たる姿は、まさに「楼」の名にふさわしい威容を誇っています。
登録有形文化財としての価値
日本の登録有形文化財制度は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正により創設されました。急速な都市化や生活様式の変化により失われつつある近代の歴史的建造物を、緩やかな規制のもとで幅広く保護することを目的としています。
かぎ楼が登録有形文化財として評価された理由はいくつかあります。第一に、大正期に増築された客室棟が、建築当時の数寄屋風の姿をよく残しており、明治・大正期のもてなしの建築を今に伝える貴重な遺構であること。第二に、三階建ての楼閣に擬宝珠風高欄を廻した独特の外観が、多賀大社門前町の歴史的景観に欠かせない要素となっていること。そして第三に、創業以来一貫して料理旅館として営業を続け、建物が本来の用途のまま生き続けている「生きた文化財」であることです。
魅力と見どころ ― 建築・美食・宿泊の三位一体
かぎ楼の魅力は、歴史的建築、伝統的な日本料理、そして門前町ならではの静寂な滞在体験が一体となっているところにあります。
建物そのものが第一の見どころです。宿泊や食事の予約をすれば、数寄屋風の客室で木の温もりと職人の技を間近に感じることができます。上階からは門前町の甍(いらか)の波越しに、多賀大社の杜を望むことができるでしょう。
料理は懐石料理を基本とし、季節の食材を活かした繊細な味わいが楽しめます。特に名物の鯉のうす造りは、多賀の地で古くから愛されてきた淡水魚料理の真髄といえる一品です。完全予約制で、2〜3日前までの予約が推奨されています。
宿泊すれば、登録有形文化財の建物に泊まるという特別な体験が待っています。夜の門前町の静けさ、年月を経た木造建築の温かみ、そしてゆったりとした和の空間は、日常を離れた贅沢なひとときをもたらしてくれます。
多賀大社と周辺のみどころ
かぎ楼のすぐそばに鎮座する多賀大社は、伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)と伊邪那美大神(いざなみのおおかみ)を祀る、近江国一の大社です。日本最古の書物『古事記』にもその名が記され、延命長寿・縁結び・厄除けの御利益で広く信仰されてきました。
境内には、豊臣秀吉が母の病気平癒への感謝として寄進したと伝わる太閤橋や、安土桃山時代の名園として国の名勝に指定されている奥書院庭園があります。また、東大寺再建に尽力した僧・重源にまつわる「寿命石」の伝説も、この神社の歴史の奥深さを物語っています。
門前町の参道には、多賀名物の糸切餅(いときりもち)や千代結びなどの銘菓を販売するお店が並びます。春の枝垂れ桜、秋の奥書院の紅葉、夏の万灯祭(8月3〜5日)など、四季折々の風情も見逃せません。
周辺には、国宝・彦根城(車で約10分)や、湖東三山と呼ばれる三つの古刹(西明寺・金剛輪寺・百済寺)など、滋賀県を代表する文化遺産が点在しています。かぎ楼を拠点に、湖東エリアの歴史文化をじっくりと巡ることができます。
Q&A
- かぎ楼の見学は予約なしでもできますか?
- 建物の外観は参道から自由にご覧いただけます。内部の見学は、お食事やご宿泊のご予約が必要となります。お食事は2〜3日前までにお電話にてご予約ください。
- 外国人の宿泊は可能ですか?
- 宿泊は可能です。ただし、伝統的な純和風の旅館のため、主に日本語での対応となります。旅行会社やホテル予約サイトを通じたご予約、または日本語が話せる方を通じてのお電話予約をおすすめいたします。
- アクセス方法を教えてください。
- 公共交通機関をご利用の場合、近江鉄道多賀線「多賀大社前駅」から徒歩約10分です。JR彦根駅から近江鉄道に乗り換えてお越しください。お車の場合、名神高速道路彦根ICから約10分、多賀スマートICから約3分です。駐車場は普通車5台分ございます。
- おすすめの訪問時期はいつですか?
- 四季それぞれに魅力がありますが、特に春(3月下旬〜4月中旬)の桜の季節と、秋(11月中旬)の紅葉シーズンがおすすめです。夏は多賀大社の万灯祭(8月3〜5日)の時期に合わせて訪れるのも趣があります。冬は参拝客が少なく、静かな門前町の風情を楽しむことができます。
- 多賀大社と合わせて周辺で訪れるべき場所はありますか?
- 国宝・彦根城(車で約10分)は必見です。また、湖東三山(西明寺・金剛輪寺・百済寺)は紅葉の名所としても知られ、かぎ楼から車で30分圏内でアクセスできます。琵琶湖の東岸沿いには近江八幡の水郷めぐりなど、魅力的なスポットが多数あります。
基本情報
| 名称 | かぎ楼(かぎろう) |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物) ― 平成13年(2001年)4月24日登録 |
| 創業 | 元禄2年(1689年) |
| 現在の建物 | 明治10年(1877年)建築/大正元年〜大正14年(1912〜1925年)増築 |
| 構造 | 木造2階一部3階建、瓦葺、建築面積308㎡(1棟) |
| 建築様式 | 主屋:入母屋造/客室棟:数寄屋風 |
| 所在地 | 〒522-0341 滋賀県犬上郡多賀町大字多賀653 |
| 電話番号 | 0749-48-1003 |
| 交通アクセス | 近江鉄道多賀線「多賀大社前駅」下車、徒歩約10分/名神高速道路彦根ICから車で約10分/多賀スマートICから車で約3分 |
| 駐車場 | あり(普通車5台) |
| 予約 | 要予約(お食事・ご宿泊とも) |
参考文献
- かぎ楼 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/186880
- かぎ楼 — 滋賀県観光情報(公式観光サイト)
- https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/335/
- かぎ楼 — 多賀観光協会
- https://taga-kankou.sub.jp/stay/st-spot-02.php
- 多賀大社 — japan-geographic.tv
- https://japan-geographic.tv/shiga/taga-taisha.html
- 多賀大社 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E8%B3%80%E5%A4%A7%E7%A4%BE
- 国指定文化財等データベース — 文化庁
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000094
最終更新日: 2026.03.27