昭和8年、本館の背後に建てられた座敷棟

かめや旅館広間は、滋賀県犬上郡多賀町大字多賀631にある昭和8年(1933年)建築の座敷棟で、平成14年(2002年)2月14日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は25-0191である。

本館が大正13年(1924年)、広間が昭和8年。この9年の差に注目したい。宿が客用の座敷棟をわざわざ新築するのは商いが伸びている時期であり、かめやの場合その背景は門前という立地にある。延命長寿を願う参詣者が全国から多賀大社を訪れ、団体で来れば団体で食事をする。既存の本館の座敷だけでは足りなくなった、という順序である。

建物は木造平屋建、瓦葺、建築面積118平方メートル。平面は座敷棟として素直な構成で、15畳の主室と12畳半の次の間が並び、2方に縁を廻らせる。主室と次の間のあいだは襖で仕切られるので、大人数なら一室に開け放ち、少人数なら二室に分けて使えた。

「造形の規範」という別の基準

登録有形文化財の登録基準は三つある。かめやの二棟は同じ日に登録されながら、拠った基準が違う。通りに面する本館は第一基準の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、背後のこの広間は第二基準の「造形の規範となっているもの」である。事務的な区別ではない。この建物の価値は外から見た姿ではなく、どう造られたかにあると明言している。

文化庁の解説は材と仕上げを具体的に挙げる。良材を用いること、造作が丁寧であること、建具の造りが丁寧であること。この三点は襖や障子、それを受ける鴨居や敷居、天井板、あらわしの柱にそのまま及ぶ。座敷という空間では木そのものが装飾を兼ねるので、材の等級と仕口の精度が評価のほぼ全てになる。

そのうえで解説は座敷飾に触れ、その構えを「独特」かつ巧みにまとめられていると評する。この一語が指しているものがある。

床まわりと、そこにあるはずのない窓

15畳の主室は床を中心に構成される。床の脇には付書院。低い出窓状のこの造作は、中世の禅僧の書斎で明かり取りを兼ねた文机に由来し、近世以降は実用を離れて格式を示す装置となった。そしてその並びに地袋棚が置かれる。棚の下に開き戸付きの低い戸棚を組み込んだ形式である。

この地袋棚が定型を外れている。開口が花頭窓に切られているのだ。花頭窓は上部を火炎形の曲線で飾る窓で、鎌倉時代に禅宗建築とともに渡来し、本来は堂宇の壁に開くものである。寺院の窓を戸棚の扉ほどの寸法まで縮め、旅館の座敷飾に組み込む。文化庁が「独特の構え」と書いたのはこの操作を指している。次の間にも地袋棚が備わるが、そちらに花頭窓はない。語彙を共有させつつ、主室の格を上に保つ配慮である。

ここから実際的な話になるが、明るい内容ではない。かめやは旅館としての営業を終えている。多賀観光協会の宿泊・飲食の案内に現在その名はなく、近年の訪問記も建物が閉じていることを伝えている。広間は公開されておらず、しかも本館の背後に位置するため通りからは見えない。ここまで書いた床まわりを、訪問者が目にする手立ては現状ない。

できるのは、絵馬通りに立って本館の正面を眺めることである。本館も別途登録有形文化財となっている。そこから東へ徒歩3分で多賀大社の社頭、参拝時間は8時から17時。西へ戻れば徒歩7分ほどで近江鉄道多賀線の多賀大社前駅に着く。座敷そのものに関心があるなら、ほぼ斜向かいに建つかぎ楼が元禄2年(1689年)創業の登録有形文化財で、現在も宿泊を受け付けている。撮影は公道からであれば自由だが、かめやの敷地は私有地であり立ち入ってはならない。

Q&A

Qかめや旅館広間は見学できますか?
Aできません。広間は本館の背後にあるため通りからは見えず、内部も公開されていません。旅館としての営業も終了しています。
Qかめや旅館広間はなぜ登録有形文化財になったのですか?
A登録基準の「造形の規範となっているもの」に該当したためです。良材を用い、造作や建具が丁寧に仕上げられ、座敷飾の構えが独特にまとめられている点が評価されました。
Qかめや旅館広間はどのくらいの規模ですか?
A木造平屋建、瓦葺で建築面積118平方メートルです。15畳の主室と12畳半の次の間からなり、2方に縁を廻らせています。
Qかめや旅館広間の花頭窓付き地袋棚とは何ですか?
A棚の下の低い戸棚の開口を、禅宗建築由来の花頭窓の形に切ったものです。本来は寺院の窓に用いる意匠で、これを座敷飾に取り込んだ点が文化庁の解説で「独特の構え」とされています。
Qかめや旅館広間の周辺には何がありますか?
A多賀大社の表参道・絵馬通りに面した一角で、社頭までは徒歩3分、多賀大社前駅までは徒歩7分ほどです。ほぼ斜向かいには同じく登録有形文化財のかぎ楼があり、こちらは現在も営業しています。

基本データ

名称かめや旅館広間(かめやりょかんひろま)
所在地滋賀県犬上郡多賀町大字多賀631
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号25-0191/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成14年(2002年)2月14日登録、同年3月12日告示(第32回登録)
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積118平方メートル/昭和8年(1933年)建築
所有者国指定文化財等データベースに記載なし(民有)
公開状況非公開。通りからも視認できず、旅館営業は終了

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— かめや旅館広間
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002640
国指定文化財等データベース(文化庁)— かめや旅館本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002639
文化遺産オンライン — かめや旅館本館
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/193639
文化遺産オンライン — かぎ楼
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/186880
一般社団法人 多賀観光協会 — 泊まる
https://taga-kankou.com/stay/
多賀町 公式サイト
https://www.town.taga.lg.jp/
滋賀県 — 多賀町の街並み
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/shinrinhozen/323840.html

最終更新日: 2026.08.11