おっきん椋川交流館(旧栗田家住宅主屋)― 山あいの集落に息づく茅葺農家の記憶

滋賀県高島市の西部、山々に囲まれた小さな集落・椋川(むくがわ)。国道367号線から細い道を福井県境方面へ北上すると、水田や畑が広がる静かな里に辿り着きます。この集落の中心に佇むのが、明治時代に建てられた茅葺屋根の農家住宅「おっきん椋川交流館(旧栗田家住宅主屋)」です。

「おっきん」とは、この地域で古くから使われてきた「ありがとう」を意味する方言。地域の人々の感謝の心と、文化財を守り継ぐ思いが込められた名前です。2011年に国の登録有形文化財に登録され、山村の歴史的景観を今に伝える貴重な建造物として評価されています。

明治の匠が築いた茅葺農家

旧栗田家住宅主屋は、明治14年(1881年)に建てられた木造平屋建ての農家住宅です。桁行約16メートル、梁間約10メートル、建築面積179平方メートルの堂々たる規模を誇り、入母屋造の茅葺屋根が山村の風景に溶け込むように美しく佇んでいます。

建物は山を背にして南面して建てられています。これは日当たりを最大限に確保し、北からの冷たい風を山で遮るという、日本の伝統的な民家建築の知恵に基づいた配置です。地元で刈り取った茅(かや)を厚く葺いた屋根は、冬の豪雪と夏の湿気の両方から住まいを守る優れた断熱性能を持っています。

登録有形文化財としての価値

旧栗田家住宅主屋は、2011年(平成23年)7月25日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました(登録番号:25-0298)。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。

かつて日本の農山村に広く見られた茅葺民家は、近代化の進展、過疎化、茅葺屋根の維持費用の高騰などにより急速に姿を消しつつあります。旧栗田家住宅は、明治時代の山村農家の建築技法と間取りの特徴を良好に保存している希少な事例です。椋川集落の歴史的な景観を構成する重要な要素として、その存在意義が認められました。

建物の見どころ ― 暮らしの知恵が詰まった空間構成

この農家住宅の内部は、山村の暮らしの知恵を凝縮した機能的な間取りとなっています。建物の中央には入口土間が設けられ、農作業と日常生活をつなぐ作業空間として使われていました。土間の奥には約12畳規模の「ダイドコ」(台所兼居間)が広がり、囲炉裏(いろり)が据えられています。家族はこの囲炉裏を囲んで炊事、暖房、そして団欒の時を過ごしていました。

東面には3室が並び、北奥の座敷には床の間(トコ)、床脇(トコ脇)、平書院が備えられています。これらは来客をもてなすための格式ある設えで、農家でありながらも地域社会における栗田家の地位を物語っています。

煤で黒ずんだ天井や梁が残る素朴なダイドコと、格式を備えた座敷との対比は、実用性とおもてなしの精神が一つ屋根の下に共存する日本の伝統的な農家建築の特徴をよく表しています。

椋川集落 ― 時が止まったような山里

椋川集落は高島市の市街地から西へ車で約40分の山間部に位置しています。平成27年(2015年)の国勢調査によると、人口は22世帯45人。福井県との県境近くにあるこの小さな集落は、昔ながらの変わらない里の美しい景色を今に残しています。

集落内には入母屋造りの古民家が点在し、それぞれの家が「久太郎」や「四郎太夫」といった屋号を代々受け継いでいます。幹線道路から離れた突き当りに位置するこの集落では、住民自らの手で一つ一つ丁寧に形にしていく暮らしが営まれてきました。

令和2年(2020年)には、地域の活性化への取り組みが評価され、総務省のふるさとづくり大賞を受賞しました。毎年秋に開催される「手づくり収穫祭 おっきん椋川」は、農家の軒先が店舗に変わり、自家栽培の野菜や手作りの品々が並ぶ人気のイベントで、県内外から約1,200人もの来場者を集めています。

取り壊しの危機から文化財へ ― 地域の絆が紡いだ保存の物語

2000年代に入り、老朽化が進んだ旧栗田家住宅は取り壊しの危機に瀕していました。しかし2008年(平成20年)3月、集落の住民たちが中心となって「結いの里・椋川」を設立。建物は高島市に寄贈され、歴史的な特徴を活かしながら丁寧な改修が施されました。

2009年(平成21年)春、「高島市都市農村交流施設 おっきん椋川交流館」として新たな歩みを始めました。「結いの里・椋川」が指定管理者として運営を担い、かまどご飯体験や味噌づくり体験など、都市と農村をつなぐ交流の拠点として多くの方に親しまれました。

なお、2024年3月をもって交流館の一般利用は終了しています。建物自体は登録有形文化財として保存されており、外観を鑑賞することは可能です。最新の情報については、びわ湖高島観光協会(TEL:0740-33-7101)にお問い合わせください。

周辺の観光スポット

椋川への訪問は、高島市やびわ湖北西部の多彩な観光スポットと組み合わせてお楽しみいただけます。

メタセコイア並木

滋賀県を代表する景勝地の一つ。マキノピックランドを縦貫する県道沿いに、約2.4キロメートルにわたって約500本のメタセコイアが植えられています。「新・日本街路樹百景」にも選定され、春の新緑、夏の深緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季折々の絶景が楽しめます。

海津大崎の桜

「日本さくら名所100選」に選ばれた近畿随一の桜の名所。琵琶湖岸に沿って約4キロメートルにわたり、約800本のソメイヨシノが桜のトンネルを作ります。見頃は例年4月中旬頃で、湖面に映る桜の姿は息をのむ美しさです。

琵琶湖とアクティビティ

日本最大の淡水湖・琵琶湖では、カヤック、SUP、湖岸サイクリング、竹生島への遊覧船など、多彩なアクティビティが楽しめます。マキノ高原温泉さらさでは、自然に囲まれた温泉浴も堪能できます。

Q&A

Q「おっきん」とはどういう意味ですか?
A「おっきん」は椋川地域の方言で「ありがとう」という意味です。交流を通じて感謝の輪を広げたいという思いが込められています。
Q椋川集落へのアクセス方法は?
A最寄り駅はJR湖西線の近江今津駅です。駅から車で約40分、国道367号線を西へ進みます。高島市営バス今津西線(朽木支所前~椋川方面)も運行していますが、1日2往復の事前予約制のため、自家用車やレンタカーでの訪問をお勧めします。
Q建物の内部は見学できますか?
A2024年3月をもって交流館の一般利用は終了しました。建物の外観は鑑賞可能です。最新情報はびわ湖高島観光協会(TEL:0740-33-7101)にお問い合わせください。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A晩春から初秋にかけてが過ごしやすくお勧めです。特に秋の「手づくり収穫祭 おっきん椋川」の時期は、集落が最も賑わいます。近隣のメタセコイア並木と組み合わせれば、四季を通じて美しい景色をお楽しみいただけます。
Q周辺に飲食施設や宿泊施設はありますか?
A椋川集落内には飲食店や宿泊施設はほとんどありません。食事や宿泊は近江今津駅周辺やマキノ地区の施設をご利用ください。マキノ高原にはキャンプ場や温泉施設「マキノ高原温泉さらさ」があります。

基本情報

名称 おっきん椋川交流館(旧栗田家住宅主屋)
ふりがな おっきんむくがわこうりゅうかん(きゅうくりたけじゅうたくしゅおく)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)、登録番号 25-0298
登録年月日 2011年(平成23年)7月25日
建築年 明治14年(1881年)、平成21年(2009年)改修
構造 木造平屋建、茅葺、建築面積179㎡
建築様式 入母屋造茅葺、桁行16m×梁間10m
所在地 滋賀県高島市今津町椋川字尾條286
所有者 高島市
アクセス JR湖西線 近江今津駅より車で約40分
問い合わせ びわ湖高島観光協会 TEL:0740-33-7101

参考文献

おっきん椋川交流館(旧栗田家住宅主屋) - 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/224666
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008715
おっきん椋川交流館 - びわ湖高島観光ガイド
https://takashima-kanko.jp/spot/2018/06/post_120.html
村をまるごと味わう手づくり収穫祭「おっきん椋川」- 高島縁人
https://note.com/takashimaengine/n/nddaa49594e3b
おっきん椋川~集落の丁寧な暮らし①~ - 高島の食と人
http://takashimashi.com/?p=762
文化財 - 高島市公式ウェブサイト
https://www.city.takashima.lg.jp/kanko_bunka_sports/kanko_tokusan_rekishi_bunkazai/4/index.html

最終更新日: 2026.03.27