石塔寺の石造五輪塔

滋賀県東近江市、石塔寺の境内に巨大な石造三重塔がそびえる。その東側に、ふたつの五輪塔が低く据えられている。一方には「嘉元二甲辰九月五日」、すなわち嘉元2年(1304年)の刻銘があり、もう一方には貞和5年(1349年)の銘が刻まれる。鎌倉時代末から南北朝へと移る時期の石造物で、2基まとめて国の重要文化財に指定されている。

五輪塔は、下から地・水・火・風・空の五大を象った五つの石を積み上げた石塔である。方形の地輪、球形の水輪、三角の火輪、半球の風輪、宝珠形の空輪という形が、それぞれ宇宙を構成する要素を示し、全体で密教の本尊・大日如来を象徴する。平安時代後期に日本で形を整え、鎌倉時代に墓標・供養塔として各地へ広まった、日本独自の塔形である。

境内には数万基ともいわれる石塔や石仏が並ぶが、この2基が際立つのは紀年銘をもつ点にある。年号が刻まれた石造物は全国でも限られ、造立年が確定する例は石造美術の編年研究で基準資料として扱われる。1304年と1349年という二つの定点が、すぐ近くに並んで残ること自体が貴重なのである。

指定の理由と価値

2基の五輪塔は、昭和35年(1960年)2月9日に一括して重要文化財に指定された。国指定文化財等データベースでは石造物として登録され、左の塔が嘉元2年(1304年)、右の塔が貞和5年(1349年)と記録されている。

価値の中心は、この紀年銘そのものにある。中世の石塔の大半は年号を欠き、屋根石の反りや水輪の張りといった様式から造立年代を推定するほかない。刻銘があれば推定の余地は消える。1304年に確実に位置づけられる塔と、1349年の塔。この二つが編年の物差しとなり、年号をもたない他の石塔を比較・年代づけする手がかりになる。小ぶりな石塔でありながら学術的に重く扱われるのはこのためである。

貞和という年号は、南北朝期に北朝が用いたものである。二つの朝廷が並び立った動乱の只中で、年を刻んで据えられた石塔は、時代を測る確かな一点となる。

立地もまた意味を加える。2基は、寺の象徴である石造三重塔のかたわらにある。古来「阿育王塔」と呼ばれてきたこの塔は奈良時代前期の作とされ、石造層塔としては日本最古、石造三重塔としては日本最大とされる。五輪塔よりおよそ6世紀さかのぼるこの塔は、蒲生野に移り住んだ百済系渡来人の手になるとみる説が有力である。同じ地元の花崗岩を、後の世代が五輪塔として刻んだ。石を彫る営みがこの丘で数百年にわたって続いたことを示す証拠といえる。

見どころ

上の平場へは、赤松林を抜ける158段の長い石段を登る。最初に目に入るのは天を突く三重石塔である。その東へ回ると、高い塔を背に低く構える2基の五輪塔があらわれる。すぐ近くには正安4年(1302年)銘の宝塔も立つ。

五つの石を一段ずつ見上げてみたい。底の方形は地、丸い石は水、緩く傾いだ石は火、丸みを帯びた石は風、頂の宝珠は空。各段が五大の一つを名指す。五輪塔には各面に対応する梵字を刻む例が多く、石面に刻まれた年号の細い線も探してみたい。花崗岩は七百年のあいだ輪郭を保ってきたが、風雨でやわらいでいる。

一歩退いて全体を眺めると、三つの石塔のまわりに数万基の小さな五輪塔や石仏が密に広がる。無名の石塔群のなかで、造立年を残した2基は記録された例外である。かたわらの古い三重石塔と読み合わせれば、一つの場所で中世の石造信仰の造形がどう移り変わったかを、凝縮した形でたどることができる。

周辺の見どころ

石塔寺は琵琶湖の東、かつての蒲生郡にあたる地に位置する。古代から渡来系の人々と関わりの深い土地で、近隣には聖徳太子の創建伝承をもつ百済寺や長命寺などが点在する。古代仏教史に関心のある旅なら、百済寺とあわせて巡るとよい。山あいの古刹で、それぞれに深い歴史をもつ。

8月末には石塔フェスティバル(万燈祭)が催され、日が落ちると石塔や石仏のあいだに灯がともされる。本尊の聖観音は秘仏で通常は公開されない。多くの参拝者の目当てはこの石造物群で、屋外にあるため開門時間内であれば一年を通して見ることができる。参道の石段沿いの紅葉は11月の見どころとして知られる。

Q&A

Qここで重要文化財に指定されているのは何ですか。
A2基の石造五輪塔で、1960年に一括指定されました。一方が1304年、もう一方が1349年の銘をもちます。寺の三重石塔や宝塔はそれぞれ別の指定です。
Q五輪塔とはどのような石塔ですか。
A下から地・水・火・風・空の五大を象った五つの石を積んだ塔です。平安後期に日本で形が整い、鎌倉時代に供養塔・墓標として広まった、日本独自の塔形とされます。
Q刻まれた年号はなぜそれほど重要なのですか。
A中世の石塔の多くは年号がなく、様式から年代を推定します。造立年が確定する塔は、他の石塔の年代を測る基準となるため、大きさ以上に重く扱われます。
Q拝観できますか。料金はいくらですか。
A境内の屋外にあり拝観できます。拝観料は大人400円、小人100円です。開門は9時から17時で、5月から10月は18時までです。
Q公共交通機関での行き方を教えてください。
A近江八幡駅から近江鉄道バスで桜川へ向かい、日野町営バスに乗り継いで石塔口で下車、徒歩約15分です。駐車場もあります。

基本情報

名称石塔寺五輪塔(せきとうじごりんとう)
所在地滋賀県東近江市石塔町860
指定区分重要文化財(石造物)/昭和35年(1960年)2月9日指定
員数2基
年代嘉元2年(1304年)・貞和5年(1349年)
石材花崗岩
所有者石塔寺
拝観料大人400円・小人100円
拝観時間9:00〜17:00(5〜10月は18:00まで)
アクセス桜川経由で石塔口バス停下車、徒歩約15分

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース:石塔寺五輪塔
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/1481
滋賀県観光情報(びわこビジターズビューロー):石塔寺
https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/536/
ウィキペディア:石塔寺(東近江市)
https://ja.wikipedia.org/wiki/石塔寺_(東近江市)
近江の文化財ガイド(Omi-ST):石塔寺
https://omi-st1400.com/content/82

最終更新日: 2026.06.03