製糸業を興した一族の屋敷

若林家住宅は、滋賀県彦根市犬方町にある近代和風住宅の屋敷で、昭和3年(1928年)に主屋を中心とする現在の構えが整い、平成28年(2016年)11月29日に建物と門塀の8件が国の登録有形文化財に登録された。塀で囲われた広い敷地に、和風の主屋、赤い瓦屋根の洋室棟、台所棟、座敷棟、茶室棟、2棟の土蔵が寄り集まっている。

屋敷を構えたのは若林乙吉である。所有者側の案内によれば、乙吉は明治5年(1872年)に旧河瀬村の若林又三郎の四男として生まれ、河瀬村の村長と滋賀県会議員を務め、若林製絲紡績を起こした。滋賀県国登録有形文化財所有者の会(滋賀登文会)の解説も、若林家住宅を若林製絲紡績の創業者の住宅として紹介している。

乙吉は地域への寄付でも名を残した。河瀬小学校の講堂や犬方町の公民館を寄贈したと伝えられ、長男の新一郎は河瀬村の最後の村長を務めたという。

建物の年代は一様ではない。主屋・洋室棟・台所棟が昭和3年の建築で、座敷棟と茶室棟は大正13年(1924年)、北土蔵と南土蔵は大正9年(1920年)に建てられ、いずれも昭和3年に移築された。滋賀登文会の解説は、座敷棟と茶室棟が現在地の北西にあった旧宅地から移されたと伝えている。先にあった家の座敷と茶室を運び込み、新しい主屋に組み合わせたことになる。

8件の登録と二つの基準

登録は平成28年11月29日付で、登録番号は25-0384から25-0391まで続く。内訳は主屋・洋室棟・台所棟・座敷棟・茶室棟・北土蔵・南土蔵・門及び塀の8件で、彦根市の文化財一覧はこれを個人所有の8棟としてまとめて掲げている。

登録の基準は二つに分かれる。住まいの本体をなす主屋・洋室棟・台所棟・座敷棟・茶室棟の5棟は「造形の規範となっているもの」、北土蔵・南土蔵・門及び塀の3件は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。前の5棟は意匠の質が、後の3件は屋敷の構えと通りの眺めへの寄与が、それぞれ評価の軸になっている。

文化庁の解説は、主屋を豪華さと質の高さを兼ねた大型の近代和風住宅と位置づける。若林家住宅の特色は、その主屋に洋室棟を添えた和洋併置の構成と、大正期の座敷と茶室を移して一つの屋敷に編み込んだ点にある。滋賀登文会は、建設当時の状態がよく残っていることも価値として挙げている。

設計者と棟梁の名は分かっていない。所有者側の案内も、この点は明らかでないとしている。

敷地の配置

敷地の北側を道路が通る。門はその道路から少し奥まった位置に開き、主屋の玄関と正面で向き合う。門の左右からは塀が東西へ延び、角で直角に折れて敷地を囲む。塀の延長は68メートルに及ぶ。

主屋は敷地の中央やや北寄りに建つ。そこから南東へ台所棟、西へ座敷棟、さらに座敷棟の南西へ茶室棟が、角を少しずつずらしながら連なる。雁の列のように斜めに並べるこの配置を雁行と呼び、各棟の縁や座敷が庭に面する長さを稼ぐことができる。洋室棟は主屋の北東の角に接続し、和風の瓦屋根が続くなかで赤い瓦と煙突が目印になる。

敷地の東の端には、北土蔵と南土蔵が南北に並ぶ。北土蔵は敷地の北東の角にあって洋室棟と並び、道路から見た屋敷の角の景観をつくっている。

主屋の北側には前庭と北庭、南側には広い池泉回遊式の庭園がある。所有者側の案内によれば、庭は東近江市五個荘の造園業者、花文(現在の花文造園土木)の二代目山村文七郎の作で、鈴鹿山脈を借景に、南の築山のあいだから水を引き入れる構成であった。近年は池の水が涸れているという。座敷棟の北側の庭には朝鮮の石人像が並ぶ。庭は登録の対象ではないが、座敷棟と茶室棟の意匠は庭への眺めを前提に組み立てられている。

見学とアクセス

若林家住宅は個人が所有する住宅で、建物の内部は公開されていない。彦根観光協会の案内は外観のみの見学としており、滋賀登文会の目録でも非公開の住宅として扱われている。

外から見えるのは北側の道路に面した部分である。門と塀、北東の角に並ぶ北土蔵と洋室棟は道路から確かめられる。主屋の南側の庭や、座敷棟・茶室棟・台所棟は敷地の奥にあたり、外からは見通せない。

内部に入る機会は限られている。所有者側のウェブサイトによれば、住宅の一部をレンタルスペースとして貸し出しており、茶道や華道など伝統文化の催しを不定期に開いている。利用や催しについての問い合わせは、ウェブサイトからメールで受け付けている。

撮影の可否について公式の案内は見当たらない。道路から外観を撮る場合も、個人の住まいであることに配慮し、敷地の中をのぞき込むような撮り方は控えたい。

最寄り駅はJR琵琶湖線(東海道本線)の河瀬駅で、若林家住宅までは地図上の直線でおよそ2キロある。歩くなら30分前後を見込んでおきたい。見学者向けの駐車場の案内は確認できなかった。所在地は滋賀県彦根市犬方町758である。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):若林家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011335
国指定文化財等データベース(文化庁):若林家住宅洋室棟
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011336
国指定文化財等データベース(文化庁):若林家住宅座敷棟
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011338
国指定文化財等データベース(文化庁):若林家住宅北土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011340
国指定文化財等データベース(文化庁):若林家住宅門及び塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011342
彦根市の指定文化財一覧表(彦根市)
https://www.city.hikone.lg.jp/kakuka/kanko_bunka/8/2_2/4655.html
若林家住宅[住宅/非公開](滋賀県国登録有形文化財所有者の会)
https://shiga-tobunkai.org/catalogue/koto/431
国の登録有形文化財 若林家住宅(所有者によるウェブサイト)
https://shiga-bunka.com/
登録有形文化財 若林家住宅洋室棟(彦根観光協会)
https://www.hikoneshi.com/sightseeing/article/wakabayashike-jutaku-yoto

最終更新日: 2026.09.26

基本情報

名称若林家住宅
所在地滋賀県彦根市犬方町758
指定登録有形文化財 8件
座標35.23416, 136.24396