敷地の東端に建つ、樹の名を負った蔵

分銅屋はぜ蔵は、島根県鹿足郡津和野町後田にある土蔵造平屋建の蔵で、明治後期(1898〜1911年)の建築とされ、平成22年(2010年)9月10日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

本町通りから東へ細長く延びる分銅屋の敷地、その東端に位置する。桁行13メートル、梁間5.9メートル、建築面積83平方メートル。同じ敷地に登録された4棟のうち最も大きく、そして最も新しい。東西棟の切妻造で屋根は桟瓦葺、南面には間口4.2メートル、奥行1.3メートルの庇が張り出す。

「はぜ」は櫨、ウルシ科の落葉高木で、その実の外皮から搾り取られるのが木蝋である。文化庁の記録は蔵の中身に触れていないが、名称と家業は同じ方向を指している。津和野町観光協会は分銅屋を「津和野藩の八人衆」と紹介し、江戸前期から鬢付け油、和蝋燭、菜種油、香などを製造販売してきたと記す。櫨の実は、このうち二つの製品の出発点にあたる。

木蝋という原料、四棟が残す製造の順序

木蝋は蜜蝋でもパラフィンでもない。櫨の実の外皮を蒸して圧搾し、油脂分を取り出したものである。融点が低いため加工には手間がかかるが、その性質ゆえに向く用途があった。和蝋燭の炎が洋蝋燭よりも幅広く、やわらかく揺れるのはこの原料による。同じ蝋は髪型を固める鬢付け油の材料でもあり、力士の鬢付けには今も使われている。江戸期を通じて西日本各地で櫨が商品作物として植えられ、栽培を奨励した藩も少なくない。

隣の蔵が製造の流れを裏づけている。同じ日に登録された「ござ蔵及びびんつけ蔵」(32-0129)は、名称そのものに鬢付けを含む。原料は敷地の東端に納められ、製品は通りに面した店から出ていった。4棟が並んで残るということは、美しい正面が1つ残ることとは意味が違う。製造業の動線が丸ごと残っているのである。

登録は三つの登録基準のうち第二基準、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」による。登録番号は32-0130、第68回登録。周辺一帯は平成25年(2013年)8月7日に、約11.1ヘクタールが重要伝統的建造物群保存地区(種別・武家町・商家町)に選定されている。

赤・白・緑青、三つの色

文化庁の解説文は、行政のデータベースとしては珍しい一文で終わる。戸の緑青が赤瓦と白漆喰に映える、と書くのである。

この一文は開いておく価値がある。訪れた人が最初に目を留めるのは、たいていこの配色だからである。津和野の屋根は石見の石州瓦で葺かれる。鉄分を含む釉薬で焼かれ、日本の屋根に多い灰色ではなく深い赤褐色に発色する。壁は白漆喰。そして窓を塞ぐのは銅製の戸で、風雨にさらされて緑青をふいている。赤、白、緑青。いずれも塗料ではなく素材そのものの色である。

銅が選ばれた理由は色ではない。蔵の窓に金属の戸を立てるのは防火のためで、火の粉が飛ぶときに開口部を塞ぐ。緑青のほうは後から、勝手についた。

主屋寄りに建つ土蔵との違いも見ておきたい。こちらの基礎は切石ではなく石積で、腰は横板ではなく竪板張である。どちらも土蔵造で、どちらも白漆喰仕上げ。それでも同じ仕様では建てられていない。

訪問には準備がいる。はぜ蔵は敷地の最奥にあり、通りからは見えない。中庭を含む敷地の一部は事前予約により見学でき、煎茶の体験も予約制で受け付けている。店先から先を見たい場合は予約が確実である。連絡先は店舗が0856-72-0021、津和野町観光協会が0856-72-1771(9時〜17時)。営業時間・定休日はウェブ上に公開されていない。アクセスはJR山口線津和野駅から徒歩約6分、駐車場あり。

Q&A

Q分銅屋はぜ蔵の「はぜ」とは何ですか。
A櫨(ハゼ)のことで、その実から木蝋が採れます。木蝋は和蝋燭や鬢付け油の原料です。分銅屋はいずれも扱っていたため、蔵の名は中身を示していると考えられますが、文化庁の記録には収蔵物の記載はありません。
Q分銅屋はぜ蔵はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A建築年代は明治後期(1898〜1911年)とされ、分銅屋の登録4棟のうち最も新しい建物です。登録は平成22年(2010年)9月10日、登録番号32-0130です。
Q分銅屋はぜ蔵の窓に銅製の戸が使われているのはなぜですか。
A火の粉から開口部を守る防火のためで、厚い土壁と同じ考え方によります。緑がかった色は風雨によって生じた緑青で、文化庁の解説文もこの色が赤瓦と白漆喰に映えることに触れています。
Q分銅屋はぜ蔵は見学できますか。
A通りからは見えません。店舗の背後、私有地の東端に建っています。敷地の一部は事前予約により見学できますので、訪問前に0856-72-0021へ連絡してください。
Q分銅屋はぜ蔵はほかの蔵と比べてどれくらいの大きさですか。
A建築面積83平方メートル、桁行13メートルで、敷地内の登録建造物のうち最大です。ござ蔵及びびんつけ蔵は52平方メートル、主屋寄りの土蔵は38平方メートルです。

基本情報

名称分銅屋はぜ蔵(ぶんどうやはぜぐら)
所在地島根県鹿足郡津和野町後田字本町ロ190他
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号32-0130
指定年平成22年(2010年)9月10日登録
員数1棟
寸法建築面積83平方メートル、桁行13メートル、梁間5.9メートル、土蔵造平屋建・瓦葺
所有者文化庁データベースに記載なし(分銅屋の敷地内)
公開状況通りからは見えない。敷地の一部は事前予約制で見学可(電話0856-72-0021)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)分銅屋はぜ蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008338
文化遺産オンライン 分銅屋はぜ蔵
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/217720
津和野町観光協会 分銅屋
https://tsuwano-kanko.net/info/fundoya/
津和野町 津和野伝統的建造物群保存地区
https://www.town.tsuwano.lg.jp/www/contents/1464654399594/index.html
日本遺産ポータルサイト(文化庁)津和野今昔 百景図を歩く
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/special/meguri/tsuwano/

最終更新日: 2026.08.04