本町通りに西面する間口十一メートルの町家

分銅屋店舗兼主屋は、島根県鹿足郡津和野町後田の本町通りに西面する町家で、安政年間(1854〜60年)頃の建築とされ、平成22年(2010年)9月10日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

間口は約11メートル。木造平屋建、鉄板葺で、建築面積は185平方メートルを測る。旧山陰道にあたるこの通りには、間口が狭く奥に深い町家が連なるが、分銅屋の間口はその中でも広い部類に入る。

建築年代の背景には嘉永6年(1853年)の大火がある。この火事は津和野城下のほぼ全域に及び、現在の本町通りの町並みは、いずれもそれ以降に建てられた建物で占められている。津和野町の解説では、大火直後の幕末期に建てられて現存するものとして、殿町の旧津和野藩家老多胡家表門、藩校養老館の武術棟の一部、そして町家の分銅屋とささや呉服店が挙げられている。

建物より商家のほうが古い。津和野町観光協会は分銅屋を「津和野藩の八人衆」と紹介し、江戸前期から鬢付け油、和蝋燭、菜種油、香などを製造販売してきたと記す。元禄10年(1697年)の藩の絵図面にすでに現在と同じ形の屋敷が描かれ、享保2年(1717年)の記録には藩の御用商人として登場する、とも伝わる。ただしこの二点の文書は文化庁のデータベースには収録されていないため、家に伝わる由緒として受け取るのが穏当だろう。

登録の理由と、記録が示す「平屋建」の意味

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。国宝・重要文化財の指定制度に比べて要件はゆるやかで、築後おおむね50年を経ていることに加え、三つの登録基準のいずれかを満たせばよい。分銅屋店舗兼主屋が該当したのは第二基準、すなわち「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。登録番号は32-0127、第68回の登録にあたる。

この基準の言い回しは、建物の価値の置き方をそのまま示している。単体として傑出しているから登録されたのではなく、通りの一員として並んでいるから登録された。登録から3年後の平成25年(2013年)8月7日、周辺一帯は約11.1ヘクタールにわたって重要伝統的建造物群保存地区に選定された。種別は武家町・商家町。その商家町の側が今も一続きの通りとして読めるのは、分銅屋のような町家が抜けずに残ってきたからである。

記録を読むと一箇所つまずく。構造の欄には「木造平屋建」とあるのに、解説文は「当初はつし2階建」とし、2階に広く格子窓を穿つと書く。矛盾ではない。つし二階は屋根裏を利用した天井の低い中二階で、正規の階数には数えないのが慣例であり、これを備えた町家は平屋建として記録される。城下町の町人が上階をあえて低く抑えた習慣は、そうする必要のあった規制がなくなった後も長く続いた。

幕板のガラスと、屋根が語らないこと

まずガラスを見てほしい。店先の上部を横に走る幕板には、家紋をあしらったガラスがはめ込まれている。道の向かい側からでも読み取れる位置にある、控えめな看板である。

その下、1階には格子戸が立ち、上部の漆喰壁には解説文のいう広い格子窓が開く。正面には下屋庇が差し掛けられ、背面では屋根がそのまま葺き降ろされて台所や便所を覆う。奥行きの深い町家の敷地では、こうして屋根を後方へ延ばして水回りを取り込む処理がよく用いられた。

屋根については、そこに「ない」ものが目を引く。津和野は石州の赤瓦で知られ、同じ敷地の背後に建つ蔵はいずれも瓦葺である。ところが主屋の屋根は鉄板葺で、赤瓦ではない。文化庁の記録は昭和前期(1926〜45年)の改修に触れているが、現在の鉄板葺がいつ葺かれたものかまでは公表資料から確認できない。

分銅屋は現在も営業を続けている。店頭には香、手漉き和紙の製品、水引細工、香袋などが並び、香だけで100種近くを扱う。座敷の一部と中庭は事前予約により見学でき、煎茶の体験も同じく予約制で受け付けている。観光協会のページには営業時間・定休日の記載がないため、訪問前の電話連絡をすすめたい。店舗は0856-72-0021、津和野町観光協会は9時から17時まで0856-72-1771で問い合わせを受ける。

アクセスはJR山口線津和野駅から徒歩約6分。駐車場もある。外観は通りから自由に撮影できるが、内部は営業中の店舗であり住まいでもあるので、撮影の可否はその都度たずねたい。

Q&A

Q分銅屋店舗兼主屋の内部は見学できますか。
A店舗部分は営業中の商店として入店できます。座敷や中庭の見学、煎茶体験は事前予約制です。電話0856-72-0021へ問い合わせてください。
Q分銅屋店舗兼主屋はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A文化庁のデータベースは建築年代を安政(1854〜60年)頃、昭和前期に改修としています。嘉永6年(1853年)の大火の直後に建てられたと伝わります。登録は平成22年(2010年)9月10日、登録番号32-0127です。
Q分銅屋店舗兼主屋へは津和野駅からどう行きますか。
AJR山口線津和野駅から徒歩約6分です。駅から南へ、旧山陰道にあたる本町通りへ入ると、西を向いた店構えが見えます。駐車場も用意されています。
Q分銅屋店舗兼主屋は平屋建ですか、二階建ですか。
A登録上は木造平屋建です。ただし解説文は当初つし二階建であったとし、2階部分の格子窓に言及しています。つし二階は正規の階数に数えない慣例があり、両者は同じ建物を指しています。
Q分銅屋の敷地には、店舗兼主屋のほかに登録文化財がありますか。
A同じ日に3棟が登録されています。土蔵(32-0128)、ござ蔵及びびんつけ蔵(32-0129)、はぜ蔵(32-0130)です。4棟は通りから東へ細長く延びる一つの敷地に並んでいます。

基本情報

名称分銅屋店舗兼主屋(ぶんどうやてんぽけんしゅおく)
所在地島根県鹿足郡津和野町後田字本町ロ190他
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号32-0127
指定年平成22年(2010年)9月10日登録
員数1棟
寸法建築面積185平方メートル、間口約11メートル、木造平屋建・鉄板葺
所有者文化庁データベースに記載なし(分銅屋が使用)
公開状況店舗は営業中。座敷・中庭の見学および煎茶体験は事前予約制(電話0856-72-0021)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)分銅屋店舗兼主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008335
文化遺産オンライン 分銅屋店舗兼主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/146067
津和野町 津和野伝統的建造物群保存地区
https://www.town.tsuwano.lg.jp/www/contents/1464654399594/index.html
津和野町観光協会 分銅屋
https://tsuwano-kanko.net/info/fundoya/
文化庁 重要伝統的建造物群保存地区 津和野町津和野(PDF)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/94105901_82.pdf

最終更新日: 2026.08.04