堀江家住宅 ― 大広間を一室で抜く、出雲の茅葺農家
堀江家住宅は、島根と広島の県境に近い雲南市吉田町民谷にある。桁行19.2メートル、梁間8.6メートル、寄棟造の茅葺屋根を載せた一棟の主屋で、十八世紀に一般の農家のために建てられた。出雲地方の民家がどのように組み立てられていたかを知るうえで、よく残された一例として知られる。
この家の見どころは装飾ではなく、構造にある。間取りの半分は土間、残り半分はひと続きの大広間で、その大広間を柱で塞がずに支えた木組みが、大工や研究者を今も惹きつけている。
堀江家とこの住まい
堀江家は武士の出と伝える。初代清左衛門が天正2年(1574年)に吉田村中ノ迫へ移り住み、十代目其右衛門が安永年間(1772〜1781年)にこの民谷の住居へ移ったという。
建築年代には二つの見方がある。文化庁の国指定文化財等データベースは、おおよそ十八世紀前半の建立とみている。一方、オモテの鴨居のほぞには安永3年(1774年)と読める墨書が残り、これは家が同じ十年間にこの地へ移ったという言い伝えとも合う。いずれにせよ、江戸中期の建物であることは動かない。
重要文化財に指定された理由
堀江家住宅は昭和44年(1969年)6月20日に重要文化財に指定された。理由は明快で、出雲地方の農家の一般的な姿をそのまま示す典型例であり、改造も少なく、とりわけ土間部分の保存がよいという点にある。
この種の間取りは、大きな広間を中心に組む「広間型」と呼ばれる。堀江家住宅はその祖型に近い早い段階の例として評価されており、のちの農家が洗練させていく型の出発点にあたる。この年代の質素な民家で良好に残るものは数が限られ、規模に比して史料的な重みは大きい。
見どころ
主屋は西を向き、入口は北寄りの平入で、馬屋の脇の壁に大戸を構えている。内部の北半分は土間で、マヤ(かつて馬を入れた一画)と、ウスニワと呼ぶ広い作業の場に分かれる。明るい外から踏み込むと、農家がいかに多くの空間を暮らしより仕事に割いていたかにまず気づく。
床上は南側にある。ここにナンドとオモテの二室が東西に並び、その奥に建物の奥行きいっぱいを使った大広間が続く。オモテには古い形式がいくつか残る。正面側の入縁側、造り付けの押入、そして床の間へと発展していく前段階の押し板である。
大広間こそこの設計の核で、これを広く抜くのは容易な仕事ではなかった。柱を一列に立てて空間を断ち切る代わりに、上屋梁の下に棟木と同じ向きの太い梁を通し、下屋の柱からその梁へ向けて登り梁を架け渡している。この登り梁の構造が屋根を受けながら広間を空けており、この家を最も特徴づける手法になっている。
茅葺の屋根には別の見方が要る。平成の解体修理で当初の形に復元されたのち、季節の備えが加えられた。雪の深いこの山あいの冬には、軒の周りに丸太の仮設支柱を立て、積もった雪の荷重を支えるのである。一月に訪ねる姿と夏の姿は、ずいぶん違って見える。
周辺 ― たたら製鉄の本場で
吉田町は民家よりも鉄で名を知られ、そのつながりを辿る価値がある。この谷では何世紀にもわたり、砂鉄と木炭を粘土の炉で吹くたたら製鉄によって鋼がつくられてきた。その仕事の跡をこれほど豊かに見られる場所は、国内でも他にない。
車で少し走れば、昭和42年(1967年)に国の重要有形民俗文化財に指定された菅谷たたら山内がある。その高殿は全国で唯一現存する製鉄の建物で、アニメ映画『もののけ姫』のたたら場の参考にもなった。近くの鉄の歴史博物館は、二つの館にわたって道具と歴史を並べ、本町通りには地域の製鉄業を代々営んだ田部家の白壁の土蔵が今も残る。道の駅「たたらば壱番地」は、最初の立ち寄り先として便利だ。
住宅へは、松江自動車道の吉田掛合インターチェンジから車で約20分。私有の住宅であるため、訪れる前に見学の可否を確かめておくとよい。外観と大きな茅葺屋根はどの季節でも見応えがあり、周辺のたたら関連施設は一般に公開されている。
Q&A
- 堀江家住宅はいつ建てられたのですか。
- 文化庁はおおむね十八世紀前半の建立としています。オモテに残る墨書はより具体的に、江戸中期の安永3年(1774年)という年を記しています。
- 構造のどこが珍しいのですか。
- 大広間を室内の柱で塞がず、登り梁という斜めの梁を外側の柱から棟と平行な太い梁へ架け渡して支えています。この木組みがこの家の最大の特徴です。
- 内部を見学できますか。
- 私有の住宅のため、内部の見学が常にできるとは限りません。事前に雲南市観光協会などへ確認するのが確実です。外観と茅葺屋根は外から見られます。
- なぜ軒に丸太の支柱を立てることがあるのですか。
- この谷は雪が深いためです。冬に立てる仮設の支柱が、積もった雪の重さを茅葺屋根が受けるのを助けます。平成の修理のあとに加えられた備えです。
- 周辺で他に見るべき場所はありますか。
- 吉田町は日本のたたら製鉄の中心地です。全国唯一の高殿が残る菅谷たたら山内と鉄の歴史博物館が、いずれも住宅から車で少しの距離にあります。
基本情報
| 名称 | 堀江家住宅(ほりえけじゅうたく) |
|---|---|
| 所在地 | 島根県雲南市吉田町大字民谷505番地 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/昭和44年(1969年)6月20日指定 |
| 年代 | 江戸中期、おおよそ十八世紀前半(墨書には安永3年〈1774年〉とある) |
| 構造 | 主屋:桁行19.2メートル、梁間8.6メートル、寄棟造、茅葺、1棟 |
| 所有 | 私有 |
| アクセス | 松江自動車道 吉田掛合ICから車で約20分 |
参考文献
- 文化遺産オンライン(文化庁):堀江家住宅(島根県飯石郡吉田村)
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/123977
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/2970
- 全国重文民家の集い:堀江家住宅 雲南市
- https://www.jminka.com/post/shimane-horieke
- 雲南市観光協会 うんなん旅ネット:たたら
- https://www.unnan-kankou.jp/tatara/
最終更新日: 2026.06.04