竣工の年に地震が来た鉄筋コンクリート

旧三島測候所庁舎は、静岡県三島市東本町にある昭和5年(1930年)建築の鉄筋コンクリート造建築で、平成19年(2007年)5月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。平屋一部2階建、建築面積267平方メートル、所有者は三島市である。

この建物は、竣工から数か月で試された。昭和5年11月26日早朝、伊豆半島北部の丹那盆地付近を震源とするマグニチュード7.3の直下型地震が発生する。北伊豆地震である。三島市では震度6を観測した。鉄道の三島駅は崩壊し、周辺一帯で家屋の倒壊が相次いだ。三島市は、竣工したばかりのこの鉄筋コンクリート造庁舎が被害を免れたと記録している。

三島の街並みには、その経験が刻まれている。市の登録有形文化財の解説は、大正12年の関東大震災と昭和5年の北伊豆地震からの復興によって、大正末から昭和初期にかけて多くの建物が建て替えられたと述べている。測候所庁舎はその流れの先頭に位置し、しかも直後に耐震性を実証してみせた材料でつくられていた。

「造形の規範」で登録された建物

登録有形文化財の登録基準は三つある。「国土の歴史的景観に寄与しているもの」「造形の規範となっているもの」「再現することが容易ではないもの」。実際の登録件数は、圧倒的多数が一つ目の基準による。

旧三島測候所庁舎は違う。この建物の登録基準は「造形の規範となっているもの」である。静岡県内の登録有形文化財としては比較的少数派で、何を見るべきかを判断するうえで、この一点がもっとも役に立つ。

昭和5年の測候所がどういう施設だったかを考えてみたい。観測機器を収め、その脇に事務机を置く建物である。必要なのは採光と通風、そして機器を据える安定した床で、意匠に予算を割く理由は乏しい。三島市の解説はこの点を端的に書いている。実用性と機能性を重視するこの種の建築に、これだけの意匠性を持たせた例は珍しい、と。

正面で見るべきもの

建物は西を向いて建つ。三嶋大社から南へ約1キロ。正面に立つと構成がすぐに読み取れる。左右対称の立面で、中央部だけが2階建、両端部は1階建。四周には縦長の窓が規則的に並ぶ。装飾を用いずにリズムだけで面を構成する、モダニズムの手法である。

面白いのは、設計者がその規律を二か所で破っている点だ。

一つは正面2階の窓台。これが半円状に外へ張り出している。窓台は本来、雨を切るための機能的な縁でしかない。それを曲面にしても性能は上がらない。得られるのは、時間とともに変わる影の落ち方だけである。

もう一つは玄関上部の櫛形欄間。櫛の背のような扁平なアーチ形の枠に、金属のグリルとステインドグラスが嵌め込まれている。官庁の気象観測施設の入口に色ガラスが入る理由は、機能の側からは説明がつかない。

どちらも大がかりな造作ではない。しかしこの二か所があるために、この建物は景観への寄与ではなく造形の規範として登録された。歩道からでも確認できるので、立ち止まって見上げる価値がある。

訪問前に確認が必要です

最初に注意を書いておく。現在、建物内部の利用は休止している。

三島市は平成21年(2009年)4月1日から、旧測候所庁舎を「エコセンター」として一般公開してきた。測候所時代の観測機器や、富士山・環境に関する資料を展示する環境学習の拠点で、入場料は無料、駐車場は4台分が用意されていた。その後、三島市は建物緊急点検を理由に、当面の間の利用中止を告知している。静岡県の環境学習ポータルサイトも、この施設を利用休止中として掲載している。

再開時期は公表されていない。訪問を計画する場合は、三島市役所環境政策課に問い合わせるか、市の公式サイトで最新の状況を確認してから出かけてほしい。外観は道路から見ることができるので、見どころが正面の意匠に集中しているこの建物に限っては、内部に入れないことの損失は比較的小さい。

アクセスは良い。伊豆箱根鉄道駿豆線の三島二日町駅から徒歩7分。三島二日町駅は、東海道新幹線の停車する三島駅から一駅である。三嶋大社、楽寿園、三島市郷土資料館はいずれも徒歩圏にあり、三島市内には他にも8件の登録有形文化財が中心部にまとまっている。

一点、資料間の食い違いを記録しておく。文化庁データベースは構造を「鉄筋コンクリート造平屋一部2階建」とし、三島市の一覧表は「鉄筋コンクリート造2階建」と記載している。一次資料である文化庁データベースの記述が、中央部だけを高くした現地の外観とも一致する。

Q&A

Q旧三島測候所庁舎(三島市エコセンター)の内部は見学できますか。
A現在は見学できません。三島市が建物緊急点検を理由に当面の間の利用中止を告知しており、再開時期は公表されていません。静岡県の環境学習ポータルサイトも利用休止中として扱っています。訪問前に三島市役所環境政策課または市公式サイトで確認してください。外観は道路から見ることができます。
Q旧三島測候所庁舎へはどう行けばよいですか。
A伊豆箱根鉄道駿豆線の三島二日町駅から徒歩約7分です。三島二日町駅は東海道新幹線が停車する三島駅から一駅。三嶋大社から南へ約1キロの位置にあり、公開時には4台分の駐車場が用意されていました。
Q旧三島測候所庁舎は北伊豆地震の被害を受けなかったのですか。
A被害を免れました。庁舎は昭和5年(1930年)に竣工し、同年11月26日にマグニチュード7.3の北伊豆地震が発生、三島市では震度6を観測しています。三島市は、この鉄筋コンクリート造の庁舎が被害から免れたと記録しています。
Q旧三島測候所庁舎はなぜ登録有形文化財になったのですか。
A平成19年(2007年)5月15日に「造形の規範となっているもの」という基準で登録されました。登録の大多数を占める「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とは異なる基準です。三島市は、実用性と機能性を重視するこの種の建築には珍しい意匠性を持つと説明しています。
Q旧三島測候所庁舎で注目すべき意匠はどこですか。
A西面する左右対称の立面で、中央部を2階建として高くし、四周に縦長窓を並べた構成がまず目を引きます。そのうえで二か所、正面2階の窓台が半円状に張り出す点と、玄関上部の櫛形欄間に金属のグリルとステインドグラスが嵌め込まれている点に注目してください。

基本情報

名称旧三島測候所庁舎(きゅうみしまそっこうじょちょうしゃ)
所在地静岡県三島市東本町2-5-24
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 22-0121/登録基準:造形の規範となっているもの
指定年平成19年(2007年)5月15日登録/同年5月29日告示
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造平屋一部2階建、建築面積267平方メートル(昭和5年建築)
所有者三島市
公開状況建物緊急点検のため内部の利用を休止中(再開時期未公表)。従前は「三島市エコセンター」として無料公開。外観は道路から見学可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧三島測候所庁舎」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005701
文化遺産オンライン「旧三島測候所庁舎」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/196699
三島市「国の登録有形文化財」
https://www.city.mishima.shizuoka.jp/page/2116.html
ふじのくに環境ラボ(静岡県環境学習ポータルサイト)「三島市エコセンター(旧三島測候所)」
https://kankyolab.pref.shizuoka.jp/facility/detail.html?CN=361866

最終更新日: 2026.08.13