はじめに

静岡県富士市の工業地帯を走る岳南電車。その沿線にある本吉原駅のプラットホームとホーム上屋は、2021年6月24日に国の登録有形文化財に登録されました。岳南電車の施設としては初めての文化財登録です。1950年の開業当時から残る間知石積のプラットホームと、1968年に増築されたキノコ型の鉄骨上屋が織りなす独創的な景観は、製紙の街・富士市の歩みとともに70年以上にわたって地域の人々に親しまれてきました。ホームからは雄大な富士山を望むことができ、夜には周囲の工場群が幻想的な夜景を映し出します。

歴史的背景

岳南鉄道は1949年(昭和24年)11月、国鉄鈴川駅(現・JR吉原駅)から吉原本町駅間で営業を開始しました。本吉原駅は翌1950年(昭和25年)4月18日に初代「吉原駅」として開業し、岳南鉄道の最初の終着駅となりました。その後、路線は岳南江尾駅まで延伸され、1953年に全線9.2キロメートルが開通。1956年に国鉄側の駅が「吉原駅」の名称を引き継いだことに伴い、当駅は「本吉原駅」に改称されました。

プラットホームは開業時に間知石積の技法で築造されました。間知石積とは、四角錘状に加工した石を整然と積み上げる日本の伝統的な石積技法で、城郭の石垣や擁壁にも用いられてきた堅牢な工法です。約70年を経た現在もほぼ当時の姿を保っています。

ホーム上屋は1968年(昭和43年)6月、利用者から雨除けが欲しいという声を受けて増築されました。通常の直線的な柱ではなく、鋼管を湾曲させてキノコ型に溶接するという独創的な構造が採用され、全長28.8メートル・高さ3.7メートルの上屋が完成しました。この独特のデザインは、工業が盛んな富士市の風土にふさわしいものとして市民に愛されてきました。

かつて貨物輸送の拠点としても活躍した本吉原駅でしたが、貨物取扱の廃止に伴い1993年に無人化され、翌年には老朽化した駅舎が撤去されました。2013年には経営移管により岳南電車株式会社の駅となり、現在に至ります。

文化財指定の理由

本吉原駅のプラットホーム及びホーム上屋が国の登録有形文化財(建造物)に登録された背景には、二つの重要な価値が認められています。

第一に、プラットホームは開業当時の間知石積がそのまま残されており、戦後初期の鉄道インフラ建設技術を今に伝える貴重な実例です。コンクリート造の島式ホームは全長50メートルの本体と西端のスロープで構成され、側面の石積は70年以上にわたって良好な状態を維持しています。

第二に、ホーム上屋の構造が極めて独創的である点が高く評価されました。文化遺産オンラインの解説によれば、「鋼管を湾曲させた持送と、支柱及び屋根アーチを溶接してキノコ形の躯体を作る。独創的形態で市民に親しまれる」とされています。9組のキノコ型樹状トラスとその間を結ぶ桁行トラスの柱脚2本で構成されるこの上屋は、実用性と美しさを兼ね備えた昭和の産業デザインの好例です。

建築的な見どころ

間知石積のプラットホーム

プラットホームの延長は55.35メートル。側面に施された間知石積は、四角錘状に加工された石を一つひとつ丁寧に積み上げた精緻な仕上がりで、築後70年以上を経てなお堅牢な姿を見せています。島式ホーム1面2線の構造で、列車の交換(行き違い)が可能です。

キノコ型のホーム上屋

全長28.8メートル、高さ3.7メートルのホーム上屋は、屋根面積153.37平方メートルをスレート葺で覆っています。最大の特徴は、湾曲した鋼管の支柱が上部で放射状に広がるキノコ型のデザインです。9組のキノコ型樹状トラスが屋根を支え、その間を桁行トラスの柱脚2本が結んでいます。同様の上屋構造は岳南電車の10駅のうちジヤトコ前駅と神谷駅を除く8駅でも見ることができますが、文化財登録の対象となったのは本吉原駅のみです。

登録プレートと説明パネル

文化財登録を記念して、ホーム上には登録プレート(防犯上レプリカ)を埋め込んだ説明パネルが設置されました。駅の歴史、建築図面、上屋設置当時の新聞記事、岳南電車の年譜などが紹介されています。また、駅入口の駅名看板もリニューアルされ、特徴的なアーチ形の上屋柱をイラスト化したデザインが採用されています。

魅力と見どころ

本吉原駅は、産業遺産・景観美・ノスタルジックな雰囲気が融合した、鉄道ファンならずとも訪れたくなる駅です。

  • 富士山の眺望:岳南電車は「全駅から富士山が望める鉄道」として知られており、本吉原駅は沿線でも特に美しい富士山ビューポイントのひとつです。ホームに設置された「富士山ビュースポット」の足元マークに立てば、キノコ型上屋のアーチ越しに富士山を望むことができます。
  • 工場夜景:本吉原駅周辺は製紙工場が立ち並ぶ工業地帯で、夜になると工場の灯りや煙突のシルエットが幻想的な夜景を作り出します。岳南電車の名物「夜景電車」は本吉原駅にも停車し、ホームや駅の外から工場夜景を堪能する時間が設けられています。
  • 昭和の駅の風情:1994年に駅舎が撤去された後、ホームと上屋だけが残るシンプルな佇まいは、かえって昭和の鉄道風景を色濃く残しています。紙の切符、レトロな踏切警報音、二両編成の電車が醸し出す雰囲気は、訪れる人を懐かしい時代へと誘います。
  • 岳南電車の本拠地:岳南電車株式会社の本社は本吉原駅に所在しており、同社にとって象徴的な駅です。

アクセス・来訪情報

本吉原駅は無人駅であり、ホームの見学は自由です。入場料は不要ですが、電車に乗車する際は乗車券または1日フリー乗車券が必要となります。

東京方面からは、東海道新幹線で三島駅まで約50分、東海道線に乗り換えて吉原駅まで約25分です。吉原駅から岳南電車に乗車し、本吉原駅までは約7分で到着します。名古屋方面からは、東海道新幹線で静岡駅まで約1時間、東海道線に乗り換えて吉原駅まで約45分です。

お車の場合は、東名高速道路富士インターチェンジから約20分です。比奈駅前にパーク&トレインライド駐車場(1回300円・要予約)がございます。

周辺の観光スポット

  • がくてつ機関車ひろば(岳南富士岡駅):2021年にオープンした屋外展示スペースで、かつて活躍した電気機関車ED501やED291を間近で見ることができます。鉄道ファン必見のスポットです。
  • 吉原商店街(吉原本町駅):東海道の宿場町として栄えた歴史ある商店街。富士市のご当地グルメ「つけナポリタン」の名店が並び、食べ歩きを楽しめます。
  • 富士市工場夜景:富士市は全国有数の工場夜景スポットとして知られています。岳南電車の夜景電車や市主催のツアーで、製紙工場群が織りなす幻想的な夜の風景を体験できます。
  • 富士山・富士宮方面:富士山本宮浅間大社や白糸の滝など、世界遺産・富士山関連の名所へも車で約30〜40分でアクセス可能です。

Q&A

Q本吉原駅のホーム上屋のどこが特徴的ですか?
A通常の直線的な柱ではなく、鋼管を湾曲させてキノコ型に溶接した独創的なデザインが最大の特徴です。9組のキノコ型樹状トラスが屋根を支えるこの構造は全国的にも珍しく、文化財登録の大きな理由のひとつとなりました。
Q本吉原駅の見学は自由にできますか?
Aはい、本吉原駅は無人駅であり、改札やゲートはありません。ホームへは自由に入ることができ、登録有形文化財のプラットホームと上屋をいつでもご覧いただけます。電車に乗車する場合のみ、乗車券または1日フリー乗車券が必要です。
Q岳南電車の夜景電車はどうすれば乗れますか?
A夜景電車は定員制・事前予約制で、毎月第1・第3土曜日を中心に運行されています。車内の照明を消灯して工場夜景を楽しむ特別列車で、夜景観光士による沿線ガイドも行われます。最新の運行スケジュールと予約方法は岳南電車公式ウェブサイトをご確認ください。
Q間知石積とはどのような技法ですか?
A間知石積(けんちいしづみ)は、石を四角錘状に加工して整然と積み上げる日本の伝統的な石積技法です。城郭の石垣や擁壁などに広く用いられてきた堅牢な工法で、本吉原駅のプラットホームでは1950年の開業当時から70年以上にわたってその姿を保っています。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A一年を通じてお楽しみいただけますが、冬場の晴れた日は富士山の眺望が最も美しく、空気の澄んだ秋冬の夜景電車も格別です。春には沿線の桜、夏にはビール電車などのイベントもあり、季節ごとに異なる魅力があります。

基本情報

名称 岳南電車本吉原駅プラットホーム及びホーム上屋
文化財種別 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 令和3年(2021年)6月24日
建設年代 プラットホーム:昭和25年(1950年)4月 / ホーム上屋:昭和43年(1968年)6月
構造・規模 プラットホーム:コンクリート造、延長55.35m / ホーム上屋:鉄骨造、スレート葺、柱脚面積14.18㎡、屋根面積153.37㎡
所在地 静岡県富士市今泉一丁目64-1
駅番号 GD04
所有者 岳南電車株式会社 / 岳南鉄道株式会社
路線 岳南電車岳南鉄道線(吉原駅〜岳南江尾駅、全長9.2km・全10駅)
アクセス JR東海道線吉原駅より岳南電車で約7分
公式サイト https://www.gakutetsu.jp/

参考文献

岳南電車本吉原駅プラットホーム及びホーム上屋 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/597769
本吉原駅 — 岳南電車株式会社
https://www.gakutetsu.jp/station/honyoshiwara.html
本吉原駅 国登録有形文化財登録 ~登録プレート設置~ — 岳南電車株式会社
https://www.gakutetsu.jp/topics/honyoshiwara_yukeibunkazaitouroku.html
本吉原駅 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E5%90%89%E5%8E%9F%E9%A7%85
岳南電車に歴史あり!本吉原駅のプラットホームが国の登録有形文化財に — ふじ応援部
https://fuji-ohenbu.jp/4241/
国指定文化財等データベース — 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013797

最終更新日: 2026.04.12