清水港テルファー|港湾近代化を物語る巨大鉄骨クレーン

静岡県静岡市清水区、駿河湾を望む清水港の岸壁にそびえ立つ「清水港テルファー」は、昭和3年(1928年)に建設された全長110メートルの巨大な鉄骨クレーンです。シベリア材を貨物船から直接吊り上げ、待機する貨物列車へと積み込むために造られたこの装置は、それまで丸一日かかっていた1両分の積み込み作業をわずか48分にまで短縮した、当時としては最先端の機械でした。同型のテルファーは名古屋港や神戸港など全国数か所に設置されましたが、現存するのは清水港のものだけ。国の登録有形文化財、日本機械学会の機械遺産、静岡市の景観重要建造物第5号という三つの指定を受け、富士山を望む清水マリンパークのシンボルとして大切に保存されています。

そもそも「テルファー」とは何か

「テルファー」(telpher、テルハとも表記)とは、空中高架軌道を電気駆動で走る運搬車の一種を指す言葉で、いわばロープウェイ状の貨物輸送装置です。清水港テルファーは、地上から11メートルの高さに架設された幅9メートルのI型鋼桁(ガーダ)の下縁に沿って、運転手室付きの電動ホイスト台車が走行する仕組みになっています。全体は岸壁に沿って110メートルにわたり「コの字型」を描いており、貨物船から吊り上げた木材をレール上で移動させ、そのまま貨物列車に降ろすことができました。陸運と水運の結節点としての港湾機能を象徴する装置といえます。

歴史的背景|お茶と木材が支えた清水港

清水港は明治32年(1899年)8月4日に開港場に指定され、明治期から日本のお茶やみかんを北米へ輸出する国際貿易港として栄えてきました。静岡県の牧之原台地を中心に大規模なお茶の増反が行われ、大正6年(1917年)には全国茶輸出高の実に77%が清水港から積み出されるまでに繁栄しました。

大正期から昭和初期の木材輸入ブーム

大正時代に入ると清水港の貿易構造は大きく変化し、ロシアからのシベリア材輸入が急増します。とりわけ大正12年(1923年)の関東大震災後は、首都圏の復興需要によって木材の輸入量が爆発的に伸び、清水港は日本有数の木材輸入港へと成長していきました。

人力からクレーンへ|港湾作業の革新

テルファー建設以前は、沖合に運ばれた木材を筏に組んで岸壁まで運び、ベルトコンベヤーで貨物列車に積み込んでいました。この方式では1日にわずか1両分の積み込みしかできず、事故も多発していたといいます。安全性の確保と作業の合理化を目指して導入されたのが、当時最新鋭のテルファークレーンでした。新装置は1両分の積み込みをわずか48分でこなし、必要な作業員数も約3分の1に削減できたと伝えられています。

神戸の内外エレベーターが施工|昭和3年5月に運用開始

清水港テルファーは、神戸の内外エレベーターによって施工され、昭和3年5月から国鉄清水港線・清水港駅で運用が始まりました。同型のテルファーは設置当時、名古屋港や横浜の海神奈川(うみかながわ)、神戸など全国でわずか数か所にしかなかった希少な機械でした。戦後の物流の変化により他港のテルファーは順次撤去され、清水港のものは昭和46年(1971年)に役目を終えるまで木材や石炭の積み込みに使われ続けました。清水港線そのものも昭和59年(1984年)に廃止となりましたが、テルファーは平成10年(1998年)に大規模な修復を受け、清水マリンパークのシンボルとして当時の場所に保存されています。

文化財指定の理由

清水港テルファーは、平成12年(2000年)2月15日付で国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。文化庁の登録基準では「水運と陸運間の交通結節点としての港湾の近代化を物語る施設」として、その歴史的・技術的価値が高く評価されています。日本における港湾荷役の人力から機械化への転換点を、現物として今に伝える希少な遺産という点が決め手となりました。

三重の文化的評価

清水港テルファーは、日本の産業遺産としては異例の三つの指定・認定を受けています。

  • 国の登録有形文化財(建造物)|文化庁・平成12年(2000年)2月15日登録
  • 日本機械学会 機械遺産|2014年認定。日本の貨物輸送を支えた港湾機械として近代産業史的価値が認められたもの
  • 静岡市景観重要建造物 第5号|清水のまちなみを特徴づける建造物として指定

日本国内で唯一現存するテルファー式荷役機械

かつて全国の港湾に設置されていた木材積込用テルファーのうち、現存するのは清水港のものだけです。同形式の港湾荷役機械を当時の設置場所のまま見ることができるのは、世界中でこの場所だけ。産業考古学や近代日本の経済史に興味を持つ方にとっては、それだけでも訪れる価値のある稀有なスポットといえます。

魅力と見どころ

圧倒的なスケールの鉄骨構造

テルファーを目の当たりにしてまず驚くのは、そのスケールです。高さ11メートル、長さ110メートルにわたる鉄骨トラスはビル3階分以上の高さでありながら、リベット接合の繊細な造形がどこか軽やかな印象も与えます。U字型のレールに沿って運搬台車が一周できる構造で、I型鋼の下に運転手室がそのまま吊り下げられた状態で残されており、当時の作業者がまさに乗り込もうとしているかのような臨場感があります。

富士山を切り取る産業遺産

晴れた日には、テルファー越しに望む富士山の姿が絶景です。手前に並ぶリベット打ちの鉄骨と、奥にそびえる雪化粧の霊峰という対比は、産業遺産と自然美が同時に味わえる日本ならではの構図。日の出や夕暮れ時はとりわけ写真映えするため、カメラ愛好家にもおすすめのスポットとなっています。

清水マリンパークの散策と一体に

テルファーは「清水マリンパーク」の東端に位置し、城壁風の回廊に囲まれたイベント広場、ボードウォーク、ヨットハーバーなどとひとつの公園を形成しています。海風を感じながら遊歩道を歩いたり、駿河湾の眺めを楽しんだり、出入りするヨットを眺めたりと、テルファー見学とあわせて気軽な散策コースになります。春や秋には屋外コンサートやマルシェ、フリーマーケットなどの野外イベントも頻繁に開催されています。

解説プレートで深く知る

テルファーのすぐそばには日本語の解説プレートが設置されており、建設の経緯や仕組みが詳しく紹介されています。スマートフォンの翻訳アプリを併用すれば、海外からの来訪者でも観光パンフレットには載っていない深い情報を読み取ることができます。

アクセスと見学情報

アクセス

清水港テルファーは清水マリンパーク内にあり、すぐ隣にショッピング施設「エスパルスドリームプラザ」があります。JR東海道線「清水駅」(静岡駅から約12分)東口(みなと口)から、エスパルスドリームプラザ行きの無料シャトルバスが平日約30分間隔・休日約15分間隔で運行されており、所要約10分。プラザから海側に徒歩1分でテルファーに到着します。JR清水駅から徒歩でも約20分、平坦な海沿いの気持ちのよいルートで歩けます。

見学時間と入場料

テルファーは屋外の公共スペースに設置されているため、24時間いつでも無料で見学できます。建物内部や囲いはなく、近くに寄って構造を観察することができますが、登ったり立ち入ったりすることはできません。夜間にはマリンパーク周辺がライトアップされる季節もあり、季節イベント開催時は特に幻想的な雰囲気を楽しめます。

おすすめのシーズン

富士山をはっきりと望める確率が高いのは、12月から2月にかけての冬の晴天日です。春は近隣の桜、秋は穏やかな気候で港散策に最適。夏は日中こそ暑くなりますが、夕方以降は潮風が心地よく、ナイトクルーズや夜景観賞と組み合わせて訪れる方もいます。

周辺の見どころ

エスパルスドリームプラザ

テルファーのすぐ隣にある大型海辺のショッピングモール。回転寿司や有名店が並ぶ「清水すし横丁」、観覧車「ドリームスカイ」、シネコン「MOVIX清水」、地元出身の漫画家・さくらももこ氏の世界観を体験できる「ちびまる子ちゃんランド」など、家族連れにも人気の施設が揃っています。

富士山清水港クルーズ

近くの日の出のりばからは、海上から富士山を眺める観光クルーズが運航されています。三保半島へ渡る航路もあり、効率的に観光スポットをまわるのに便利です。

三保松原(ユネスコ世界文化遺産)

清水港の対岸には、世界文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産である三保松原が広がります。羽衣伝説の舞台として知られ、富士山の絶景ビュースポットとしても名高い黒松林。水上バスや路線バスでアクセス可能です。

清水すし横丁

エスパルスドリームプラザ内のすし専門エリア。マグロ漁港として名高い清水ならではの新鮮なネタを、手頃な回転寿司から本格高級店まで幅広く楽しめます。

清水魚市場「河岸の市」

JR清水駅から徒歩圏にある活気あふれる魚市場。マグロの刺身丼、海鮮丼、地元の郷土料理を気軽に味わえる人気スポットで、テルファー見学の前後に立ち寄るのにぴったりです。

Q&A

Q清水港テルファーとはどのような施設ですか?
A昭和3年(1928年)に清水港駅でシベリア材を貨物船から貨物列車へ積み込むために建設された全長110メートルの鉄骨クレーンです。日本国内で唯一現存するテルファー式の港湾荷役機械であり、国の登録有形文化財および日本機械学会の機械遺産に認定されています。
Qクレーンの内部に入ったり、稼働している様子を見たりすることはできますか?
Aいいえ、テルファーは昭和46年(1971年)に役目を終え、現在は静態保存されています。登ったり内部に立ち入ったりすることはできませんが、構造のすぐそばまで近づいて細部を観察することができ、24時間いつでも自由に見学・撮影が可能です。
Q東京から清水港テルファーへはどう行けばよいですか?
A東京駅から東海道新幹線で静岡駅まで約1時間、静岡駅でJR東海道線に乗り換え清水駅まで約12分です。清水駅東口(みなと口)からエスパルスドリームプラザ行きの無料シャトルバスで約10分、プラザから徒歩1分でテルファーに到着します。トータルで約90分の行程です。
Q入場料や開館時間はありますか?
A入場料はかかりません。清水マリンパーク内の屋外スポットのため、24時間365日いつでも無料で見学できます。隣接するエスパルスドリームプラザなどの商業施設はそれぞれ営業時間が異なるためご注意ください。
Qテルファー見学とあわせて1日で楽しめるおすすめコースはありますか?
Aテルファー見学のあと、富士山清水港クルーズで海上から富士山を望み、清水すし横丁で昼食、午後は対岸の世界文化遺産「三保松原」を訪れるコースが人気です。各スポットは水上バスや路線バスで結ばれているため、清水ベイエリアの魅力をゆったりと一日かけて満喫できます。

基本情報

名称 清水港テルファー(しみずこうてるふぁー)
所在地 静岡県静岡市清水区新港町7-7
竣工 昭和3年(1928年)5月
施工 内外エレベーター(神戸)
構造 鉄骨造、幅9m、高さ11m、延長110m、コの字型
用途 国鉄清水港線・清水港駅における木材積込用
稼働期間 昭和3年(1928年)〜昭和46年(1971年)
修復 平成10年(1998年)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)平成12年(2000年)2月15日登録/日本機械学会 機械遺産(2014年認定)/静岡市景観重要建造物第5号
所有者 静岡県清水港管理局
見学 無料・24時間見学可
アクセス JR清水駅東口から無料シャトルバスでエスパルスドリームプラザまで約10分、徒歩1分

参考文献

清水港テルファー|文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/137288
景観重要建造物第5号 清水港テルファー|静岡市
https://www.city.shizuoka.lg.jp/000_004891.html
清水港のシンボル「テルファー」|メタルワン メタルカルチャー
https://www.mtlo.co.jp/en/special/metalculture/884/
清水マリンパーク|日の出ドリームパーク
https://www.hinode-dream.jp/shimizu-marine-park
ふじのくに文化資源データベース|アーツカウンシルしずおか
https://artscouncil-shizuoka.jp/culture-resource-db/detail.php?id=1733
清水港テルファー|駿府静岡市公式観光サイト
https://www.visit-shizuoka.com/spots/detail.php?kanko=506

最終更新日: 2026.04.30