東海道名主の館(小池家住宅)— 旧東海道に残る名主の屋敷を訪ねて

静岡県静岡市清水区由比寺尾、旧東海道の由比宿と興津宿のあいだに位置する「東海道名主の館(小池家住宅)」は、地元では「小池邸」と呼ばれ親しまれている明治期の伝統的な民家です。江戸時代、寺尾村の名主を代々務めた小池家の母屋を保存・公開した施設で、1998年に国の登録有形文化財に登録されました。低い瓦葺の軒、潜り戸付きの大戸、なまこ壁、石垣など、江戸期の有力者の住まいの面影をよく残しており、旧東海道の歴史と暮らしを今に伝える貴重なスポットです。

東海道名主の館(小池家住宅)とは

東海道名主の館は、由比地区で長年名主をつとめた小池家の母屋を活用した歴史資料館です。現在の建物は明治時代に建てられた木造平屋建、瓦葺の住宅で、建築面積はおよそ131平方メートル。由比町の初代助役を務めた先々代が建てたと伝えられています。

小池家は、戦国期には甲斐武田氏に仕えた家臣の家柄とされ、江戸時代に入ると代々「小池文右衛門」を襲名し、寺尾村の名主を世襲しました。現在は静岡市が所有・管理し、「名主の館」として一般公開され、東海道を歩く旅人の休憩所も兼ねています。

江戸時代の名主の役割

江戸時代の村落行政は、名主・組頭・百姓代の「村方三役」と呼ばれる村役人によって担われていました。なかでも名主は、領主側の支配機構と百姓との接点として、もっとも重要な役割を果たしていました。東国では「名主」、西国では「庄屋」と呼ばれていたといわれます。

名主の主な仕事は、年貢の取立てや管理、戸籍事務、諸書類の作成、他村や領主との折衝など、村政全般にわたります。読み書きやそろばんといった高い知的能力と事務能力が求められ、村のなかでも家格の高い百姓が務めるのが一般的でした。役料として年貢の免除や給米を受け、絹や紬といった一般の百姓が着用を許されない衣料を身に着ける特権もあったといいます。小池家住宅は、まさにそうした地域の有力者の屋敷として、その重厚な佇まいに名主の格式をいまに伝えています。

国の登録有形文化財に登録された理由

小池家住宅は、1998年(平成10年)10月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録の理由は、寺尾地域に伝わる江戸末期から明治期の伝統的な民家の特徴をよく残す名主住宅として、文化的・歴史的な価値が高いと評価されたことにあります。

外観は切妻造、瓦葺の平屋建で、低く深い軒、正面の潜り戸付きの大戸、格子窓など、当時の寺尾地域の民家の意匠をとどめています。大戸の脇には、平瓦をならべて四隅を留め、目地に漆喰を施した「なまこ壁」が見られ、軒先は腕木を突き出して桁を外側に出した「出し桁造り」となっています。内部は、たたき土間と六畳の整形四間からなる「田の字形四つ目取り」の伝統的な間取りで、大黒柱が空間を支えています。建物の周囲には、百年前の姿をそのまま残す美しい石垣が巡らされており、2011年9月30日には静岡市の「地域景観資源」にも指定されました。

魅力と見どころ

無料で気軽に入館でき、明治期の名主屋敷の雰囲気をゆっくりと味わえる点が小池邸の最大の魅力です。建物と敷地のなかには、見逃したくないポイントがいくつもあります。

大戸となまこ壁

旧東海道に面した正面の大戸には、日常の出入りに使われた潜り戸が設けられています。その脇のなまこ壁は、平瓦を菱形に並べ漆喰で目地を仕上げた装飾性の高い意匠で、防火・防湿の役割も兼ねていました。豪農や名主の屋敷を彩る伝統的な建築美をぜひ間近でご覧ください。

たたき土間と大黒柱

大戸を入るとまず広がるのが、ひんやりとしたたたき土間です。家屋の内と外を結ぶ空間として、さまざまな作業や商いに使われました。土間の奥に立つ太い大黒柱は、家の繁栄と力強さの象徴。その周囲に田の字形に配された六畳の四間が、伝統的な民家の空間を形づくっています。

古文書と東海道資料の展示

邸内では、小池家に伝わる検地帳や古文書、東海道や由比宿に関する資料が展示されています。村方三役の一翼を担った名主の仕事ぶりや、宿場町としての由比の暮らしを知ることができ、歴史好きの方には特におすすめです。

庭園と水琴窟

母屋の奥には小さな庭園があり、運がよければ水琴窟の澄んだ音色を楽しむことができます。薩埵峠を越えてきた旅人にとって、ほっと一息つける癒やしの空間です。

周辺情報

小池邸が建つ寺尾の集落周辺は、旧東海道の面影をもっともよく残す区間のひとつです。少し東へ歩けば、東海道五十三次の十六番目の宿場である由比宿の中心部に至り、桜えびの水揚げで知られる由比漁港にも足を延ばせます。さらに東進して薩埵峠(さったとうげ)に登れば、歌川広重の浮世絵で名高い富士山と駿河湾の絶景を望むことができます。由比本陣公園や東海道広重美術館もあわせて訪ねれば、東海道の歴史と文化を一日たっぷり堪能できるでしょう。

Q&A

Q入館料はかかりますか?
A入館は無料です。静岡市が歴史資料館兼旧東海道の休憩所として一般に公開しています。
Q最寄り駅からのアクセスは?
AJR東海道本線「由比駅」から徒歩約10分です。北口を出て通りに向かい、清水方面(薩埵峠方面)に旧東海道を進みます。
Q開館時間と休館日を教えてください。
A3月~10月は午前9時30分~午後4時30分、11月~翌2月は午前9時30分~午後4時です。休館日は毎週月曜日、祝日の翌平日、年末年始(12月26日~1月5日)です。
Q見学にはどれくらい時間がかかりますか?
A館内の見学はおおむね20~40分程度です。由比宿の散策や薩埵峠へのハイキングと組み合わせれば、半日かけて旧東海道の歴史を満喫できます。
Q館内での写真撮影はできますか?
A個人で楽しむ範囲での撮影は基本的に可能ですが、フラッシュの使用は控え、念のため当日のスタッフにご確認ください。ボランティアガイドによる解説が受けられる場合もあります。

基本情報

名称 東海道名主の館(小池家住宅)/とうかいどうなぬしのやかた(こいけけじゅうたく)
所在地 静岡県静岡市清水区由比寺尾464
所有者 静岡市
文化財種別 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 1998年(平成10年)10月9日
建築年代 明治時代(1868年~1911年)
構造 木造平屋建、瓦葺、建築面積約131平方メートル、1棟
入館料 無料
開館時間 3月~10月 9:30~16:30/11月~2月 9:30~16:00
休館日 月曜日、祝日の翌平日、年末年始(12月26日~1月5日)
アクセス JR由比駅から徒歩約10分/東名清水ICから車で約15分
電話番号 054-376-0611

参考文献

文化遺産オンライン — 東海道名主の館(小池家住宅)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/136598
静岡市公式ホームページ — 国登録有形文化財 名主の館「小池邸」
https://www.city.shizuoka.lg.jp/s6725/s005266.html
日本遺産ポータルサイト — 東海道名主の館(小池家住宅)
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/5096/
駿州の旅(日本遺産) — 東海道名主の館 小池邸
https://tokaido-sunshu.jp/cultural-property/1_21.html
駿府静岡市公式観光サイト — 東海道名主の館小池邸
https://www.visit-shizuoka.com/spots/detail.php?kanko=491

最終更新日: 2026.05.06