年紀を持つ民家

旧羽石家住宅(きゅうはねいしけじゅうたく)は、栃木県芳賀郡茂木町大字牧野にある元禄2年(1689年)建立の茅葺民家で、昭和43年(1968年)4月25日に国の重要文化財に指定された。

東日本の民家研究は、建立年代の不明な遺構をどう位置づけるかという問題を長く抱えてきた。大工の署名は残らず、増改築が重なり、編年は仕口や工具痕、部材寸法の比較に頼らざるを得ない。羽石家住宅の位置がそこで変わる。棟札に「元禄二年巳歳九月十二日」の年紀があり、この一枚の板が匿名の農家住宅を編年上の定点に変えた。棟札1枚は同じ指定のもとで附として扱われている。

現在地は建立地ではない。旧宅は林村(現・茂木町大字林)に建てられ、農家として使われ続けたのち、昭和47年(1972年)3月に羽石進氏から茂木町へ譲渡された。解体・移築を経て、昭和53年8月に牧野1170番地の山林中へ復元されている。

規模は桁行16.4メートル、梁間7.9メートル。寄棟造・茅葺で、平面積は約125.67平方メートルとされる。

指定解説の含意

文化庁の解説文は二文で足りている。元禄2年の棟札があり、東日本において年代の明らかな住宅としては古い遺例であること。建立当初の形式をよく保っており、資料的価値が大きいこと。

後段の評価が実は重い。年紀があっても改造が及んでいれば編年の基準にはならない。羽石家住宅の場合、土間と3室からなる元禄期の平面がそのまま読み取れる点に価値がある。栃木県および茂木町の記録はいずれも、この間取りが建築当時の形を保つと記す。年代不詳の周辺民家を測る物差しとして機能しうる遺構は、そう多くない。

架構もその判断を裏づける。梁組は低く、二重梁を多用し、各部材の木割りは後代の民家より太い。居間と土間の境には3間半(約6.4メートル)を通す大梁が架かり、中央部で梁下の支柱が荷重を受ける。土間には独立柱が立つ。手斧削のまま仕上げられ、削り面の稜が残る。近世前期の在地大工の手わざが、意匠としてではなく構法の必然として現れている部分である。

関東地方の17世紀後半の民家は、遺例の少なさゆえに一般論で語られがちである。羽石家住宅はその一般論に実物を与える。

見学にあたって

建物は現在使用されておらず、内部は施錠されている。内部見学を希望する場合は事前に電話で申し込む必要があり、窓口は茂木町まちなか文化交流館「ふみの森もてぎ」図書文化係が担う。職員が現地で開錠する運用のため、当日の飛び込みでは対応が難しい。外観は敷地から見ることができる。

外から見ると、低い軒と厚い茅葺屋根がひとつの塊として立ち上がり、馬屋が本体から張り出す。入る前から平面の構成が読める。

内部で最初に視線を集めるのは二重梁である。二段に架かる梁材が煤で黒く、その上の小屋組が見通せる。土間の独立柱はそれに比べて目立たないが、この柱があるために広い土間を無柱に近い状態で保てている。室構成は納戸・座敷・広間の3室で、土間側に流しと馬屋を取り込む。

指定建造物内の撮影可否は所有者である町の判断による。見学予約の際にあわせて確認するのが確実である。

交通は自動車が前提となる。牧野は茂木の丘陵部にあり、真岡鐵道の終点である茂木駅から車で約25分。案内標識の整った観光ルートではなく、狭い町道を辿ることになる。予約窓口が町中心部のふみの森もてぎであることを考えると、同館を経由する行程が組みやすい。

Q&A

Q旧羽石家住宅(茂木町)の内部は見学できますか。
A事前予約制で見学できます。建物は空き家として施錠されており、茂木町は事前の電話申し込みを求めています。窓口はふみの森もてぎ図書文化係です。外観は敷地から予約なしで見ることができます。
Q旧羽石家住宅の建立年代はどのように判明したのですか。
A棟札によります。「元禄二年巳歳九月十二日」の年紀を記した棟札が伝わり、元禄2年(1689年)の建立が確定しました。この棟札1枚は建物とともに重要文化財の附として指定されています。年代の確かな民家は東日本では少なく、編年の基準資料として扱われます。
Q旧羽石家住宅は建立当初から現在地にあったのですか。
A違います。もとは林村(現・茂木町大字林)に建てられた農家住宅です。昭和47年(1972年)3月に羽石進氏から茂木町へ譲渡され、昭和53年8月に現在地の牧野1170番地へ移築復元されました。
Q旧羽石家住宅の見どころはどこですか。
A二重梁を多用した低い梁組が第一の見どころです。居間と土間の境に架かる3間半通しの大梁と、その中央を受ける支柱、そして土間に立つ手斧削の独立柱もあわせて確認したい要素です。各部材の木割りが太い点も、近世前期の民家の特徴として観察できます。
Q旧羽石家住宅へはどう行けばよいですか。
A真岡鐵道の終点・茂木駅から車で約25分です。牧野地区は丘陵の山林内にあり、公共交通で直接向かう手段は実質的にありません。レンタカーまたはタクシーの利用が必要です。内部見学は事前予約が前提となるため、予約時に交通手段も含めて相談するとよいでしょう。

基本情報

名称旧羽石家住宅(栃木県芳賀郡茂木町)
所在地栃木県芳賀郡茂木町大字牧野1170番地
指定区分重要文化財(近世以前/民家)
指定年昭和43年(1968年)4月25日/指定番号01680
員数1棟(附:棟札1枚)
寸法桁行16.4メートル、梁間7.9メートル、寄棟造、茅葺/平面積約125.67平方メートル
所有者茂木町
公開状況外観は見学可。内部はふみの森もてぎ図書文化係への事前電話予約制

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧羽石家住宅(栃木県芳賀郡茂木町)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/396
文化遺産オンライン「旧羽石家住宅(栃木県芳賀郡茂木町)」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/184546
茂木町「旧羽石家住宅」
https://www.town.motegi.tochigi.jp/motegi/nextpage.php?cd=395&syurui=2
とちぎの文化財「旧羽石家住宅」
https://bunkazai.pref.tochigi.lg.jp/cultural/【旧羽石家住宅】/
全国観るなび(日本観光振興協会)「旧羽石家住宅」
https://www.nihon-kankou.or.jp/tochigi/093432/detail/09343ae2180022462

最終更新日: 2026.08.24