間宮家住宅主屋 ― 山あいに佇む浅葱色の和洋折衷住宅
茨城県常陸大宮市の山あい、栃木県との県境に近い高部地区に、明治の薫りを今に伝える木造和洋折衷住宅「間宮家住宅主屋(まみやけじゅうたくしゅおく)」が静かに佇んでいます。明治35年(1902年)に建てられたこの建物は、伝統的な農家風の2階建和風棟と、東側に接続する3階建の洋館から成り、外観は「浅葱色(あさぎいろ)」と呼ばれる淡い緑色に塗られています。平成15年(2003年)には国の登録有形文化財に登録されました。明治期の地方建築の中でも特に異彩を放つ一棟であり、山深い宿場町に突如として現れる洋館の姿は、訪れる人すべてを驚かせます。
山里に咲いた明治の洋風建築
明治期の洋風建築といえば、横浜・神戸・函館といった港町の居留地を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし間宮家住宅主屋は、文明開化の波が地方の山里にまで届いていたことを伝える貴重な証言者です。緑濃い山並みと木造家屋が連なる景観の中に、突如として3階建の塔のような洋館が立ち上がる光景は、まさに「桃源郷で出会う異邦の建築」とでも呼びたくなる印象を残します。
この建物は、和洋折衷建築の優れた実例です。西側には、瓦葺の屋根と整った木造の軒先を持つ2階建和風棟。東側には、3階を白い漆喰壁、その下を下見板張で仕上げた洋館がそびえます。両者が一体として建てられたこと自体が、伝統と新時代を同時に受け入れようとした明治の精神そのものを形にしているといえるでしょう。
登録有形文化財に指定された理由
間宮家住宅主屋は、平成15年(2003年)7月1日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録有形文化財制度は平成8年(1996年)に設けられたもので、重要文化財ほど厳格な評価基準ではないものの、建築・歴史・景観の観点から保護すべき近代以降の建築物を後世に伝えるための仕組みです。
建築としての価値
本建築の価値は、細部に宿る本格的な意匠にあります。窓枠飾りや玄関扉の造作などは、地方の建物としては異例とも言える本格的な仕上がりであり、当時の大工が西洋建築の様式を確かに理解していたことがうかがえます。また、伝統的な農家風2階建和風棟と3階建洋館を一体として建設している点も、明治期の地方有力者が伝統と近代化をどのように受け止めたかを示す好例といえます。
景観への貢献
間宮家住宅主屋は単独の建築としてだけでなく、高部宿の町並みを形作る重要な要素でもあります。淡い緑色の外観は、周囲の蔵や山並み、白漆喰の壁と対比をなし、宿場町の景観に明るいアクセントを加えています。すぐ近くに残る旧郵便局舎と並んで、この地区の歴史的な雰囲気を象徴する存在となっています。
魅力・見どころ
浅葱色の3階建洋館
訪問者の目を最も惹きつけるのは、そのやわらかな緑色の外壁です。光の加減によって表情を変える「浅葱色」は、まさに明治の洋館らしい雅な色合い。3階部分は白漆喰、その下は濃い色の下見板張で仕上げられており、上下の対比が建物に堂々とした風格を与えています。
玄関ポーチと扉
東面の通り側には、来訪者を迎える玄関ポーチが張り出しています。文化庁の記録でも「玄関扉などが本格的」と評されており、当時の大工が西洋建築の意匠を単に模倣するのではなく、確かに理解した上で形にしたことが伝わります。窓枠を彩る装飾的なディテールも、山あいの宿場町ではきわめて珍しいものです。
和洋ふたつの棟が織りなす調和
少し離れた場所から建物全体を眺めてみてください。西側の和風棟は瓦葺の屋根と落ち着いた木造の佇まいを見せ、生活空間として用いられました。東側の洋館は、かつて1階が旧馬頭銀行の店舗、上階が住居として使われていたとも伝えられます。和風棟と洋館が同時期に建てられ、両者を含めて一体として登録されている点も、この建築の大きな特色です。
高部宿の町並みとの一体感
間宮家住宅主屋はぽつんと孤立した建築ではありません。建物の前を通る街道には、海鼠壁(なまこかべ)の蔵や古い商家、酒蔵、そして旧郵便局舎などが点在しています。鉄道が通らなかったために大規模な開発を免れ、宿場町の雰囲気が色濃く残る、関東地方でも屈指の歴史的町並みのひとつです。
訪問情報・アクセス
間宮家住宅主屋は個人所有の住居であり、内部の見学はできません。ただし、外観は前面の道路から自由に眺めることができ、淡い緑色の外壁は朝や夕方の柔らかな光のなかで特に美しく映えます。
所在地の高部地区は、旧美和村の中心部に位置し、栃木県境に近い山あいの集落です。最寄り駅はなく、水戸駅または常陸太田駅からレンタカーやタクシーで向かうのが現実的です。水戸からの所要時間はおよそ1時間ほどで、道中では久慈川流域の里山風景を楽しむことができます。
住人の方々の生活空間でもありますので、見学の際は静かに、外観のみを道路から鑑賞するようお願いいたします。
周辺情報 ― 高部・美和地域の見どころ
高部宿の町並み
間宮家住宅主屋の周辺は、北関東でも有数の歴史的町並みが残るエリアです。江戸時代の高部は、特産の和紙や葉煙草の集散地として栄え、水戸藩との結びつきも深い宿場町でした。徒歩15〜20分ほどの散策で、旧商家や酒蔵、明治20年(1887年)に建てられた木造3階建の社交場「喜雨亭(きうてい)」など、近代以前の面影をまとった建築が点在しています。
道の駅「北斗星」
高部からほど近い場所にある道の駅「北斗星」は、地域でも老舗の人気スポットで、地元の食材を使った手作り料理や農産物が並びます。間宮家住宅見学の前後に立ち寄って、ひと休みするのにおすすめです。
里山の風景と文化資源
常陸大宮市の北部一帯は、久慈川とその支流が刻む里山と森林の風景が広がります。静かな田舎道を走れば、小さな寺社や温泉宿、滝などにも出会え、関東地方の喧騒から離れて旅情に浸るには絶好の地域です。
Q&A
- 間宮家住宅主屋の内部を見学することはできますか。
- 個人所有の住居のため、内部の見学はできません。前面の道路から外観のみを自由に鑑賞することができます。
- 建物はいつ建てられたのですか。
- 明治35年(1902年)の建築で、築120年以上が経っています。平成15年(2003年)に国の登録有形文化財として登録されました。
- どのような様式の建物ですか。
- 和洋折衷の住宅です。伝統的な農家風2階建の和風棟と、白漆喰や下見板張、玄関ポーチや装飾的な窓枠飾りを備えた3階建洋館が一体となって建てられています。
- 公共交通機関で訪れることはできますか。
- 最寄りの鉄道駅はないため、水戸駅や常陸太田駅からレンタカーやタクシーを利用するのが現実的です。路線バスは本数が限られているため、事前の確認をおすすめします。
- あわせて訪ねるとよい場所はありますか。
- 周辺には旧商家や酒蔵、明治期の木造3階建社交場「喜雨亭」などが残る高部宿の町並みが広がっています。少し車を走らせれば人気の道の駅「北斗星」もあり、食事や買い物に立ち寄ることができます。
基本情報
| 名称 | 間宮家住宅主屋(まみやけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成15年(2003年)7月1日 |
| 登録番号 | 第08-0089号 |
| 建設年代 | 明治35年(1902年) |
| 構造 | 木造2階建一部3階建、瓦葺及び銅板葺、建築面積約193㎡ |
| 所在地 | 茨城県常陸大宮市高部3991 |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 外観のみ道路から見学可。内部は非公開 |
参考文献
- 間宮家住宅主屋 ― 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/116447
- 間宮家住宅主屋 ― 茨城県教育委員会「いばらきの文化財」
- https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6414/
- 間宮家住宅 ― 常陸大宮市ふるさと文化で人と地域を元気にする事業
- https://www.hitachiomiya-furusatobunka.com/文化財/建造物/間宮家住宅/
- 高部宿の町並み ― 常陸大宮市ふるさと文化で人と地域を元気にする事業
- https://www.hitachiomiya-furusatobunka.com/自然-景観/高部宿の町並み/
- 国指定文化財等データベース ― 文化庁
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003367
最終更新日: 2026.05.10