棟札が確定させた宝永七年

粟飯原家住宅(徳島県名西郡神山町)は、徳島県名西郡神山町下分字栗生野にある宝永7年(1710年)建築の民家で、昭和51年(1976年)5月20日に国の重要文化財に指定された。国指定の名称に所在地が併記されるのは、同名物件との識別による。

建物は鮎喰川上流左岸の山裾に建つ。屋敷地は広く、前面には石垣が築かれている。河岸から山腹へ一気に立ち上がる地形のなかで、この平坦地は造成によって獲得されたものである。

民家の年代は、様式や伝承に頼って推定されることが少なくない。本件は事情が異なる。建築時に記された棟札一枚が残り、宝永七年という年紀を示す。棟札は主屋の附として指定され、年代考証の根拠そのものが文化財として保存されている。

規模は桁行21.0メートル、梁間9.5メートル。寄棟造で、現状の屋根は鉄板葺、四面に桟瓦葺の庇が付く。背面には桁行0.8メートル、梁間3.8メートルの切妻造・桟瓦葺の突出部がある。鉄板葺は後年の措置で、当初は棟から軒まで一続きに流れる葺きおろしであった。

六間取りという指標

指定理由の核心は平面にある。この住宅は六間取りで、宝永年間の農家としては規格外の構成をもつ。

当該地域の一般的な農家は土間に接して二間取りないし三間取りとするのが通例で、四間取りがようやく成立しはじめた時期にあたる。六間取りは、居住者の社会的地位を平面形式そのもので示す。文化庁は本件をこの地方における六間取り平面の最古例と位置づけ、造作の質の高さもあわせて評価している。

背景には家格がある。粟飯原家は観応2年(1351年)に下総国から阿波へ派遣され、上山谷六箇村の大庄屋を務めた三日月・粟飯原家の分家と伝わる。江戸期には農林業に加えて酒造業も営んでいたとされる。なお神山町の一部資料には年号を慶応2年と記すものがあるが、1351年は観応2年にあたる。

屋敷地には主屋のほか納屋と土蔵が残り、一棟の住宅というより経営体としての屋敷構えを保っている。

訪問にあたって

栗生野は山間にある。JR徳島駅から約30キロメートル、国道438号を鮎喰川に沿って遡って車で約50分。徳島自動車道藍住インターチェンジからは約31キロメートル、高松自動車道板野インターチェンジからは約33キロメートル、いずれも約50分を見込む。道の駅「温泉の里神山」からは約4.7キロメートル、車で約8分の距離にある。

本件は現住の個人住宅である。神山町の文化財一覧は「公開(要連絡)」とし、連絡先を神山町教育委員会(電話088-676-1522)としている。一方で非公開と記す案内もあり、高い擁壁の上に建つため公道からの外観確認も容易ではない。事前に教育委員会へ連絡を取ったうえで訪ねるのが確実である。

撮影も同様に扱いたい。一律の禁止は示されていないが、生活の場であることに変わりはない。

神山町そのものが訪問先として成立している。この二十年ほどでサテライトオフィスやアーティスト・イン・レジデンスの集積地として知られるようになった谷であり、宝永年間の庄屋屋敷と数キロ下流の改修されたワークスペースが同じ川筋に並ぶ状況は、県内でも他に例を見ない。

Q&A

Q粟飯原家住宅(神山町)は見学できますか。
A現住の個人住宅のため、事前連絡が前提です。神山町の文化財一覧では「公開(要連絡:神山町教育委員会 電話088-676-1522)」と案内されています。非公開とする資料もあるため、訪問前の確認をおすすめします。
Q粟飯原家住宅への徳島駅からのアクセスを教えてください。
A車でのアクセスが基本です。JR徳島駅から約30キロメートル、鮎喰川沿いに約50分。所在地は名西郡神山町下分字栗生野125番地。道の駅「温泉の里神山」から約8分の位置にあります。
Q粟飯原家住宅の建築年代はどのように確定したのですか。
A建築時の棟札一枚が現存し、宝永七年(1710年)の年紀を記します。この棟札は主屋の附として重要文化財に指定されており、年代は推定ではなく文献的根拠に基づいて確定しています。
Q粟飯原家住宅の六間取りとはどのような平面ですか。
A床上部を六室で構成する平面形式です。同時期の一般農家は二間取りか三間取りが通例で、四間取りが成立しはじめた段階にあたります。六間取りは大庄屋家の分家という家格を平面に反映したものと理解されています。
Q粟飯原家住宅の屋根は建築当初のままですか。
A現状の主屋屋根は鉄板葺で、当初の姿ではありません。当初は棟から軒へ一続きに流れる葺きおろしでした。四面の庇は桟瓦葺です。

基本情報

名称粟飯原家住宅(徳島県名西郡神山町)/あいはらけじゅうたく
所在地徳島県名西郡神山町下分字栗生野125番地
指定区分重要文化財(指定番号02007/近世以前・民家)
指定年昭和51年(1976年)5月20日
員数1棟(附:棟札1枚)
寸法桁行21.0メートル、梁間9.5メートル/背面突出部 桁行0.8メートル、梁間3.8メートル
所有者個人(国指定文化財等データベースに記載なし)
公開状況現住の個人住宅。見学は神山町教育委員会への事前連絡が必要

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「粟飯原家住宅(徳島県名西郡神山町)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3267
文化遺産オンライン「粟飯原家住宅(徳島県名西郡神山町)」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/124074
神山町「神山町の文化財一覧」
https://www.town.kamiyama.lg.jp/docs/2025070800181/
神山町「重要文化財 粟飯原家住宅」
https://www.town.kamiyama.lg.jp/enjoy/map/docs/2025061900029/
徳島県観光情報サイト阿波ナビ「粟飯原家住宅」
https://www.awanavi.jp/spot/20389.html

最終更新日: 2026.08.23