建築面積11平方メートルの登録文化財
旧四国銀行辻支店車庫は、徳島県三好市井川町辻88-2の銀行店舗背面に建つ昭和34年(1959年)建設の木造平屋建車庫で、令和5年(2023年)8月7日に国の登録有形文化財(建造物)となった。
建築面積は11平方メートル。これが建物の全量である。鉄板葺の片流れ屋根を架け、外壁はモルタル塗リシン吹付仕上、正面に小庇を付し、引違板戸を立てる。内部に床は張らず、土間を大小二室に分ける。大きい北室が車庫、南室が倉庫である。収めたのは自動二輪であった。
この規模の付属屋が法的保護を受ける例は多くない。登録有形文化財の制度がそれを可能にしており、その理由こそがこの小屋を訪ねる値打ちをつくっている。
山間の支店はどう営業していたか
昭和34年当時、山間部の銀行業務はカウンター越しだけで完結するものではなかった。吉野川の谷筋と、そこへ落ち込む枝谷に散らばる農家や商店をまわり、預金を集め、融資の相談を受け、通帳を記帳する。その移動を担ったのが自動二輪であり、車庫はその日課の物的痕跡にあたる。文化庁のデータベースは、形式は簡素ながら当時の銀行営業の様相を示す建物として位置づけている。付属屋の解説としては踏み込んだ評価である。
仕上げを見ておきたい。外壁のリシン吹付は、昭和30年代後半以降、規模の小さな建物に広く用いられた砂粒状の塗装である。施工が安く、塗り替えなしで数十年の風雨に耐える。鉄板葺の片流れ屋根は、小さな平面から雨水を落とすうえで最も単純な解答にあたる。正面の小庇は、扉の前で車体を出し入れする人の頭上を濡らさないために付く。
洗練された造りではない。登録もそこを評価してはいない。車庫の登録基準は第一号「国土の歴史的景観に寄与しているもの」であり、前面の店舗は第二号「造形の規範となっているもの」で登録されている。同一敷地の二棟が同日に、異なる理由で登録された。登録番号は車庫が36-0223、店舗が36-0222である。
どう見るか
期待の置きどころを先に書いておく。ここは民間所有の敷地背面に建つ付属屋で、正面を構えて見せる建物ではない。街道から回り込んで探すのは、対比を見るためである。
まず伊予街道に立ち、店舗の正面を見る。モルタル洗出しに目地を切って石積を模した二階建。葉煙草の代金を持って訪れる客に対して、昭和34年の支店ができるかぎりの堅牢さと永続性を示そうとした面構えである。そのうえで背面の車庫を見る。鉄板葺、リシン吹付、引違板戸、11平方メートル。
両者の落差がそのまま論点になる。銀行が街道に見せた顔と、銀行が動くために必要としたもの。
実用情報を記す。二棟とも民間所有である。見学は公道からとし、敷地内へは立ち入らないこと。公道からの撮影に制限はない。最寄り駅はJR徳島線辻駅で、西隣の井川町御領田にあり、街道筋まで徒歩十分ほど。車では徳島自動車道井川池田インターチェンジから国道192号を辿る。町並みのガイドや特別公開の予定は三好市観光協会(0883-76-0877)で確認できる。同じ令和5年8月7日に登録された旧熊谷家住宅主屋・倉庫も井川町内にあり、四件を合わせて歩けば一時間ほどの行程になる。
Q&A
- 旧四国銀行辻支店車庫とはどのような建物ですか。
- 徳島県三好市井川町辻88-2、旧四国銀行辻支店店舗の背面に建つ昭和34年(1959年)建設の木造平屋建車庫です。建築面積は11平方メートルで、内部の土間を二室に分け、大きい北室を車庫、南室を倉庫としていました。収めたのは自動二輪です。
- 旧四国銀行辻支店車庫はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 令和5年8月7日、登録基準第一号「国土の歴史的景観に寄与しているもの」により登録されました。登録番号は36-0223です。文化庁は、形式は簡素であるものの当時の銀行営業の様相を示す建物として評価しています。
- 旧四国銀行辻支店車庫の内部を見学できますか。
- できません。民間所有の敷地背面にあり、内部公開は公表されていません。見学は公道からの外観にとどめ、敷地内へは立ち入らないでください。
- 旧四国銀行辻支店車庫と店舗はどのような関係にありますか。
- 同じ支店のために同じ昭和34年に建てられ、同じ日に登録されましたが、登録基準は異なります。店舗が第二号「造形の規範となっているもの」、車庫が第一号「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、登録番号もそれぞれ36-0222、36-0223と別に付されています。
- 旧四国銀行辻支店車庫へのアクセス方法を教えてください。
- JR徳島線辻駅から東へ徒歩十分ほど、旧伊予街道沿いの店舗背面にあたります。自動車の場合は徳島自動車道井川池田インターチェンジから国道192号を利用します。
基本データ
| 名称 | 旧四国銀行辻支店車庫(きゅうしこくぎんこうつじしてんしゃこ) |
|---|---|
| 所在地 | 徳島県三好市井川町辻88-2 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録基準第一号「国土の歴史的景観に寄与しているもの」/登録番号 36-0223 |
| 指定年 | 令和5年(2023年)8月7日登録(第105回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、鉄板葺、建築面積11平方メートル |
| 所有者 | 文化庁データベースに記載なし |
| 公開状況 | 民間所有の敷地背面に所在/内部公開は公表されていない |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧四国銀行辻支店車庫」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014681
- 文化遺産オンライン「旧四国銀行辻支店車庫」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/594143
- 徳島県「徳島県の文化財」(令和5年8月7日登録分)
- https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kyoiku/bunka/7240152/
- 文化庁「登録有形文化財(建造物)」制度解説
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧四国銀行辻支店店舗」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014680
最終更新日: 2026.08.04