八間取の本堂 ― 天保四年の再建

東福寺本堂は、徳島県美馬郡つるぎ町貞光字木屋にある真言宗御室派寺院の本堂で、天保4年(1833年)の再建、平成24年(2012年)2月23日に国の登録有形文化財となった。

桁行26.2メートル、梁間13.1メートル。建築面積374平方メートル。寄棟造本瓦葺の屋根が四方に流れ落ち、その裾を下屋が一周する。正面東面の中央には唐破風造銅板葺の玄関を構え、直線ばかりで構成された立面に一箇所だけ曲線が入る。地方寺院の本堂としては大きい部類に属し、文化庁の記載も「風格ある外観」の一語でその印象を要約している。

注目すべきは平面である。東面に広縁を通し、その奥を八間取とする。内陣は八室のうちの一室、後列南から第二間にすぎない。そして北寄りはもと庫裏であった。すなわち本堂と庫裏が一棟の屋根の下に同居し、仏堂としての格式を備えた外観の内側に、住宅的な田の字型平面が展開している。仏堂建築の類型からは外れた構成で、近世後期の在地寺院がどのように空間を経済的に処理したかを示す一例といえる。

寺伝は、この本堂が東大寺を模した裳階造として構想され、庫裏を併設したために裳階が下屋として機能することになったと伝える。文化庁の記載には該当する記述がなく、あくまで寺側の伝承として受け取るべきだが、一見不均衡に見える屋根の比例には一定の説明を与える。

登録の根拠と、その意味するところ

登録有形文化財制度は平成8年(1996年)に発足した。重要文化財が現状変更に許可を要する強い規制を伴うのに対し、登録制度は届出制を基本とし、設計監理費補助や固定資産税の減免、修理に関する技術的指導を通じて緩やかに保護を及ぼす。建築後おおむね50年を経過した膨大な建造物群を、指定制度の枠外で救い上げるために設けられた仕組みである。

東福寺本堂の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。第72回登録にあたる。基準三種のうち最も適用例の多いものだが、この本堂の場合、貞光川流域の山あいに営まれてきた集落景観のなかで、本瓦葺の大屋根が占める視覚的な比重を評価したものと読める。

文化庁の記載は年代を「天保4年(1833)/昭和40年改修」とする。一方、寺の沿革は平成16年(2004年)に本堂屋根改修を行い、あわせて鐘楼堂と庫裡を新築したと記す。中興407年記念事業の一環である。昭和40年(1965年)の改修と平成16年の改修は排他的なものではなく、両者を併記して差し支えないが、文化庁記載に平成期の工事が反映されていない点は留意しておきたい。

境内と、端四国の札所群

創建をめぐる伝承は二系統ある。ひとつは神亀元年(724年)、忌部大祭主玉渕宿祢が忌部神社の法楽として法福寺を建立し、のち東寺を東福寺と改めて忌部別当としたというもの。もうひとつは弘仁3年(812年)、巡錫中の空海が南山に宝剣の下るのを見て不動明王を刻み開創したというものである。いずれも寺伝であり、同時代史料による裏付けはない。

史実として追える範囲では、天正10年(1582年)長宗我部元親の兵火に罹り、慶長2年(1597年)僧宝光が中興して宝光院と号した。文化2年(1805年)正月に焼失、翌文化3年に吉良から現在地へ移転し、天保4年に再建されたのが現本堂である。明治7年(1874年)には境内に公立端岳小学校が置かれた。

山門は明治29年(1896年)の建立で、つるぎ町指定文化財。大工は切上(藤原)勇吉、彫刻は脇町拝原の彫師九世三宅石舟斉が手がけた。和漢折衷の入母屋楼門造、本瓦葺、間口三間・奥行二間の三間一戸形式で、随所に禅宗様の細部を含む。本堂の量感に対し、山門は装飾の密度で応じる関係にある。

本堂正面の枯山水は、本尊不動明王の種子カーン字の形に地割りされている。庭内には元禄3年(1690年)の春日灯篭、鎌倉時代の特色を示す層塔、町指定天然記念物のギンモクセイが置かれる。層塔はもと十三層で、中四層を欠く。相輪と宝珠の形状、笠の軒の反り、四方仏の大きな月輪に鎌倉期の作風がうかがえる。本堂裏には滝と池の庭、境内には樹齢300年以上と伝わる高さ3メートル・広がり5メートルのサツキがある。

東福寺は端山四国八十八ヶ所霊場の第29番札所でもある。つるぎ町端山地区を中心に巡るこの写し霊場の札所堂のうち、日浦堂(天明8年)、長瀬堂(明治30年)、吉良堂(文化7年)、皆瀬堂(文化13年)、竹屋敷堂(大正元年)、引地堂(昭和3年)、浦山堂(嘉永元年)の七棟が東福寺の所在として、平成29年(2017年)5月2日に一括して登録有形文化財となった。いずれもおおむね方三間の小堂で、三方吹放ちのもの、建具を建て込むものと形式は一様でない。本堂という中核と、山中に散在する札所堂という周縁を併せて見ることで、この寺の空間的な広がりが把握できる。

境内は開放されており拝観料はない。東福寺美術館は9時から17時まで無料で開館し、12月は休館する。駐車場は第一・第二あわせて30台。外観と庭園の撮影は自由だが、堂内の撮影は寺務所に確認されたい。毎月28日15時から護摩供養、4月10日12時から涅槃会が営まれる。JR徳島線貞光駅から車で約12分、徳島自動車道美馬インターチェンジから約20分。

Q&A

Qつるぎ町の東福寺本堂は拝観できますか。拝観料は必要ですか。
A境内は開放されており、拝観料は不要です。本堂の外観と庭園は自由に見学できます。併設の東福寺美術館は9時から17時まで無料開館、12月は休館です。堂内に立ち入る場合は事前に寺務所(0883-62-2207)へご確認ください。
Q東福寺本堂へのアクセスと駐車場を教えてください。
AJR徳島線貞光駅から車で約12分、徳島自動車道美馬インターチェンジから約20分です。直通の路線バスはないため、自動車かタクシーの利用が現実的です。駐車場は第一・第二の二か所、計30台分が無料で、第一駐車場は山門前にあります。
Q徳島県の東福寺は、京都の東福寺とどのような関係にありますか。
A同名ですが別の寺院です。京都の東福寺は臨済宗東福寺派の大本山、つるぎ町の東福寺は真言宗御室派で総本山仁和寺の末寺、正式には五剣山宝光院東福寺と称します。両者とも本堂が登録有形文化財となっているため、検索の際は所在地を添えると確実です。
Q東福寺本堂の内陣にはどの仏像が祀られていますか。
A本尊は不動明王、脇侍に地蔵菩薩と弘法大師、下段に大黒天と愛染明王を祀ります。内陣は八間取のうち後列南から第二間にあたります。なお平成24年建立の護摩堂にも不動明王を本尊とし、毘沙門天と弁財天を脇に配しています。
Q東福寺の紅葉やサツキの見ごろはいつですか。
A境内の20数本のモミジは11月中旬が見ごろです。樹齢300年以上と伝わるサツキは晩春に花をつけます。行事に合わせるなら、毎月28日15時からの護摩供養、4月10日12時からの涅槃会が該当します。

基本情報

名称東福寺本堂(とうふくじほんどう)
所在地徳島県美馬郡つるぎ町貞光字木屋341
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」
指定年平成24年(2012年)2月23日登録/第72回登録
員数1棟
寸法桁行26.2メートル、梁間13.1メートル/建築面積374平方メートル/木造平屋建、寄棟造本瓦葺
所有者宗教法人東福寺
公開状況境内公開・拝観料無料/東福寺美術館9時〜17時・無料・12月休館/堂内は要問い合わせ

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)東福寺本堂
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009222
東福寺 公式サイト 寺院案内
https://www.toufukuji.or.jp/temple
東福寺 公式サイト
https://www.toufukuji.or.jp/
つるぎ町 登録文化財-建造物
https://www.town.tokushima-tsurugi.lg.jp/docs/3508.html

最終更新日: 2026.08.23