伝染病を終わらせた赤煉瓦の建物
大正15年(1926年)より前、徳島で水を一杯飲むことには現実の危険があった。城下町は吉野川の河口に位置し、浅い井戸から汲む地下水は塩気を帯び、汚染されやすかった。大正8年(1919年)の市の調査は、6,777か所の井戸のうち、半数近くを飲料に適さないと判定している。赤痢や腸チフスが繰り返し発生した。この状況を変えたのが、佐古配水場のイギリス積みの煉瓦造の建物である。多くの市民にとって、ここは今も「佐古の浄水場」だ。
ポンプ場は配水場の中心となる建物で、大正15年、徳島市で最初の近代水道の中枢として完成した。設計は、東京帝国大学の技師で近代水道の父とも呼ばれる中島鋭治。事業費は当時の市の年間予算のおよそ3倍にのぼり、最初の調査から通水までには17年の歳月を要した。
装いをまとった実用の建物
洋風建築の少ない徳島にあって、ポンプ場は際立つ存在だ。壁は赤煉瓦をイギリス積みとし、長手の段と小口の段を交互に重ねる。パラペットや窓まわりの要所には花崗岩を配した。屋根はベルギー風の仕上げで、背の高い上げ下げ窓が一室の内部に光を入れる。産業のための施設としては、めずらしく手をかけた造りだ。
立ち止まって見たい細部は、入口の上にある。ここには市章と栗を組み合わせた紋様の浮き彫りが施され、ペディメント風の飾りとバルコニーのような意匠が添えられている。水を送り出すことを本業とする建物に置かれた、意図的で小さな市民の誇りだ。内部にはかつて、ドイツのオット社から輸入した400馬力のディーゼル発電機が据えられていた。当時としては高価な舶来品である。現在は1,000馬力の機械が、非常用の電源として控えている。
評価と登録
施設の重要性は、正式な登録より早くから認められていた。昭和60年(1985年)、佐古配水場は近代水道百選に選ばれている。そして平成9年(1997年)5月、ポンプ場は徳島県で初めて登録有形文化財に登録された。国土の歴史的景観に寄与する建物としての評価である。配水場を構成する二つの井戸、源水井と集合井は、その翌年に登録が続いた。
「県内初」という事実には意味がある。大正期の公衆衛生を支えた実用の施設が、より大きな記念物の背景としてではなく、それ自体で文化財として評価されうることを、この登録は示した。
配水場を訪ねる
ポンプ場は今も現役の水道施設に属しており、主に外観を眺めることになる。そして外観こそが見どころだ。地元がすすめる季節は春。赤煉瓦を背に桜が咲きそろい、淡い花色と暗い煉瓦の対比が、毎年多くの人にカメラを向けさせる。入口に近づいて市章と栗の浮き彫りを間近に読み、少し離れて、花崗岩の縁取りが煉瓦の壁面をどう引き締めているかを眺めたい。
建物群は現役の設備の一部であり、配水場の敷地内にまとまって建つため、内部の見学は限られ、事前の確認が確実だ。ひとまとまりとして見れば、ポンプ場と二つの井戸は、一つの近代水道の全体に共通の設計言語が用いられた様子を見せてくれる。
Q&A
- 佐古配水場ポンプ場とは何ですか。
- 大正15年(1926年)に徳島市最初の近代水道の中枢として完成した、佐古配水場の中心的な建物です。水道のためのディーゼル動力のポンプ機械が置かれていました。
- 水道は誰が設計したのですか。
- 近代日本の水道の礎を築いたとされる、東京帝国大学の技師・中島鋭治が設計しました。工事費は当時の市の年間予算のおよそ3倍でした。
- 入口の上に彫られているのは何ですか。
- 徳島の市章と栗を組み合わせた紋様の浮き彫りで、ペディメント風の飾りの下に置かれています。簡素な実用建築のなかで、最も特徴的な装飾です。
- いつ文化財になりましたか。
- 平成9年(1997年)5月に登録され、徳島県で最初の登録有形文化財となりました。施設は昭和60年(1985年)に近代水道百選にも選ばれています。
- 見学に適した時期はいつですか。
- 赤煉瓦を背に桜が咲く春が人気です。現役の水道施設の一部であるため、見学は主に外観からとなります。
基本情報
| 名称 | 徳島市水道局佐古配水場ポンプ場 |
|---|---|
| 所在地 | 徳島県徳島市南佐古6-3-11 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録年月日 平成9年(1997年)5月7日 |
| 登録番号 | 36-0001 |
| 建築年 | 大正15年(1926年) |
| 構造・員数 | 1棟/平屋建、瓦葺、建築面積約272㎡。外壁は赤煉瓦のイギリス積みに花崗岩の縁取り |
| 所有者 | 徳島市上下水道局 |
| 備考 | 近代水道百選に選定(昭和60年)。現役の水道施設で、見学は主に外観から |
References
- 文化遺産オンライン ― 徳島市水道局佐古配水場ポンプ場
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/165482
- 文化庁 ― 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000172
最終更新日: 2026.07.11