和田の屋本館下棟 ― 眉山麓に息づく老舗和菓子店の登録有形文化財
徳島市の象徴である眉山の北麓、大滝山のふもとに佇む「和田の屋本館下棟(わだのやほんかんしもとう)」は、国登録有形文化財に登録された木造2階建ての歴史的建造物です。この建物は、天正13年(1585年)から400年以上の歴史を持つ徳島名物「滝のやき餅」を今に伝える老舗和菓子店・和田の屋の一部であり、観光地に残る伝統的な店舗建築として高く評価されています。
大滝山の登り口に面するこの下棟は、眉山の豊かな自然に抱かれた寺町の一角にあります。石段や滝の音、季節の花々に囲まれたこの場所で、訪れる人々は建築の美しさとともに、徳島の歴史と食文化の奥深さに触れることができます。
歴史的背景
和田の屋の歴史は、徳島の城下町の成り立ちと深く結びついています。天正13年(1585年)、蜂須賀家政公が阿波25万石の国主として徳島城を築いた際、その祝いとして献上されたのが「滝のやき餅」の始まりです。藩主はこの菓子を大いに気に入り、ご自身が愛飲されていた眉山の名水「錦竜水(きんりょうすい)」の使用を特別に許可しました。以来、滝のやき餅は藩主の御用菓子として名声を博し、和田の屋はその伝統を現代まで受け継いでいます。
和田の屋本店が位置する大滝山一帯は、蜂須賀家政が城下町建設にあたり、6宗派24の寺院を集めて造った「寺町」の一角です。寺町は平時には宗教活動の場として、有事には眉山防衛の前線基地としての機能を兼ね備えていました。春日神社をはじめ、御嶽神社、聖観音堂、滝薬師などの神社仏閣が集まるこの地域は、藩政時代から「滝へ行こう」「滝の山へ行こう」と呼ばれ、徳島市民に最も親しまれた行楽地でした。
現在の下棟建物は昭和28年(1953年)に建てられ、昭和31年(1956年)に増築されました。昭和中期の木造建築の特徴を備えながら、江戸時代から続く和菓子店としての風格を今に伝えています。
文化財指定の理由
和田の屋本館下棟は、平成23年(2011年)1月26日に国登録有形文化財(建造物)として登録されました。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」に該当し、観光地に残る老舗店舗の一例として、その歴史的・文化的価値が認められています。
徳島市の中心市街地は、昭和20年(1945年)7月4日の徳島大空襲により、数多くの歴史的建造物が焼失しました。その中にあって、戦後間もなく建てられた本建物は、地域の文化的アイデンティティを伝える貴重な存在です。特に、複雑な屋根構造、土間を活用した1階の作業・販売空間、2階の座敷といった機能的な構成が、老舗和菓子店の建築様式を今に伝えている点が高く評価されました。
建築の見どころ
和田の屋本館下棟は、木造2階建て、瓦葺の建物で、建築面積は約91平方メートルです。大滝山山麓の登り口に北面し、東西約13メートル、南北約5.6メートルの規模を持ち、西面には昭和31年の増築部が付設されています。
最も特徴的なのは、その複雑な屋根構造です。東西棟を主棟としつつ、東端に南北方向の入母屋屋根を造り出すことで、変化に富んだ美しい屋根のシルエットを生み出しています。山麓の傾斜地に建つ立地条件を巧みに活かした設計といえます。
1階は土間で構成され、餅の焼き場や販売所として使われてきました。2階には座敷が設けられ、かつてはお見合いの場としても利用されたと伝えられています。提灯に照らされた入口と伝統的な木造の外観は、石段と緑に囲まれた大滝山の風景の中で、訪れる人に懐かしさと趣深い印象を与えます。
滝のやき餅 ― 400年の伝統
和田の屋の看板商品である「滝のやき餅」は、400年以上にわたって変わらぬ製法で作り続けられています。粳米(うるちまい)と糯米(もちごめ)を石臼で丁寧に挽き、天日で干した粉を皮とし、北海道十勝産の厳選小豆を錦竜水で炊き上げた漉し餡を包み、菊紋の押し型で模様をつけて一枚一枚手焼きで仕上げます。
「滝のやき餅」という名称は、和田の屋の裏手にある「白糸の滝」に由来しています。この焼き餅は「とくしま市民遺産」および「とくしま特選ブランド」にも選ばれ、地域の食文化を代表する存在として広く認められています。
本店では、店頭で焼き上がる様子を見学した後、抹茶とのセットで焼きたてを味わうことができます。冬季には和三盆糖と十勝小豆を使った特製ぜんざい、夏季には和三盆糖蜜と宇治抹茶のかき氷など、季節ごとの甘味も人気です。
庭園とモラエスの花
和田の屋本店の庭園には、「モラエスの花」と呼ばれる黄花亜麻(キバナアマ)が咲き誇ります。この花は、元ポルトガル神戸総領事ヴェンセスラウ・デ・モラエス(1854–1929)がこの地に植えたものです。モラエスは、亡き妻ヨネの故郷である徳島に移り住み、1913年から1929年に亡くなるまで市内で暮らしました。
焼き餅が好きだったモラエスは、手土産にもよく焼き餅を選んでいたとされています。彼が植えた黄花亜麻は、毎年11月中旬から3月上旬にかけて岩肌を覆うように黄色い花を咲かせ、白糸の滝と紅葉との競演は、徳島を代表する冬の風物詩となっています。この庭園の風景は、さだまさし氏の小説「眉山」を原作とした映画にも登場しました。
訪問案内
和田の屋本店は、JR徳島駅から徒歩約10分、車で約5分のアクセスに恵まれた場所にあります。営業時間は10:00〜17:00、木曜定休(祝日・お正月・花見期間・阿波おどり期間は営業)です。本店には駐車場も完備されています。
下棟の外観はいつでも見学可能です。本店を訪れる際は、まず下棟の特徴的な屋根と伝統的な外観を鑑賞してから、石段を上って本店へと進むのがおすすめです。店内からは庭園の滝や季節の花々を眺めることができ、カウンター席と座敷席があります。
本店のほか、徳島クレメントプラザ店(JR徳島駅そば)、阿波おどり会館内のあるでよ徳島店、イオンモール徳島店でも滝のやき餅を購入することができます。
周辺の見どころ
和田の屋周辺には、徒歩1〜2時間で巡ることができる歴史的・文化的スポットが数多くあります。
- 錦竜水(きんりょうすい) — 眉山湧水群のひとつで、歴代阿波藩主が愛飲した名水。現在も自由に水を汲むことができ、「とくしま水紀行50選」に選定されています。
- 春日神社 — 徳島城下の総鎮守で、奈良の春日大社と同じ四柱の神々を祀る由緒ある神社。桜の名所としても知られています。
- 潮音寺 — モラエスの墓所があることで知られるお寺。妻のヨネ、姪のコハルとともに静かに眠っています。
- 眉山ロープウェイ・眉山山頂公園 — 阿波おどり会館からロープウェイで山頂へ。徳島市街地、吉野川、四国山地の大パノラマが広がります。山頂にはモラエス像やパゴダ平和記念塔もあります。
- 阿波おどり会館 — 徳島の夏の風物詩・阿波おどりを年間通じて鑑賞できる施設。毎日踊り公演が行われています。
- 白糸の滝 — 和田の屋の庭園から望むことのできる繊細な滝で、滝のやき餅の名前の由来となった場所です。
Q&A
- 和田の屋本館下棟とはどのような建物ですか?
- 和田の屋本館下棟は、徳島市眉山町大滝山に位置する老舗和菓子店・和田の屋の一部で、昭和28年(1953年)に建てられ、昭和31年(1956年)に増築された木造2階建て・瓦葺の建物です。平成23年(2011年)1月26日に国登録有形文化財(建造物)に登録されており、観光地に残る老舗店舗の貴重な事例として評価されています。
- 滝のやき餅とはどのようなお菓子ですか?
- 滝のやき餅は、天正13年(1585年)に蜂須賀家政公へ献上されたことに始まる400年以上の歴史を持つ徳島の伝統和菓子です。石臼挽きの米粉と餅米粉の皮に、錦竜水で炊き上げた北海道十勝産小豆の漉し餡を包み、菊紋の押し型を施して手焼きで仕上げます。「とくしま市民遺産」にも選ばれています。
- モラエスと和田の屋にはどのような関わりがありますか?
- ヴェンセスラウ・デ・モラエス(1854–1929)は、元ポルトガル神戸総領事で、亡き妻ヨネの故郷である徳島に移住した文人です。焼き餅を好み、手土産にも利用していたと伝えられています。大滝山に黄花亜麻(キバナアマ)を植えたとされ、この花は「モラエスの花」と呼ばれ、和田の屋の庭園で毎年冬に美しく咲いています。
- 和田の屋本店へのアクセス方法は?
- JR徳島駅から徒歩約10分、車で約5分です。眉山方面の寺町エリアに向かって進み、大滝山の登り口に本店があります。駐車場も完備されています。営業時間は10:00〜17:00、木曜定休(祝日・花見期間・阿波おどり期間は営業)です。
- 訪問に最適な季節はいつですか?
- 四季それぞれに魅力があります。春(3月下旬〜4月上旬)は桜が下棟を美しく彩ります。11月中旬〜3月上旬は黄花亜麻(モラエスの花)が庭園を黄金色に染めます。夏は和三盆糖のかき氷、冬は特製ぜんざいが楽しめます。8月中旬の阿波おどり期間中も周辺が大いに賑わいます。
基本情報
| 名称 | 和田の屋本館下棟(わだのやほんかんしもとう) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物)、平成23年(2011年)1月26日登録 |
| 建築年 | 昭和28年(1953年)建築、昭和31年(1956年)増築 |
| 構造 | 木造2階建、瓦葺、建築面積約91㎡ |
| 所在地 | 徳島県徳島市眉山町大滝山5-5他 |
| 和田の屋本店所在地 | 徳島県徳島市眉山町大滝山5-3 |
| 電話番号 | 088-652-8414(本店) |
| 営業時間 | 10:00〜17:00(木曜定休、祝日・花見期間・阿波おどり期間は営業) |
| アクセス | JR徳島駅から徒歩約10分、車で約5分 |
| 公式サイト | https://wadanoya.com/ |
参考文献
- 和田の屋本館下棟 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/169758
- 滝の焼餅について — 和田の屋公式サイト
- https://wadanoya.com/yakimochi/
- 本店について — 和田の屋公式サイト
- https://wadanoya.com/about/
- 歴史散策 — 和田の屋公式サイト
- https://wadanoya.com/history/
- モラエスと黄花亜麻 — 和田の屋公式サイト
- http://wadanoya.com/wp/moraes/
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008582
- 寺町界隈を散策し、焼き餅を楽しむ — あるでよ徳島
- https://tokushima-bussan.com/archives/2337/
最終更新日: 2026.03.29