校庭に建つ本格的な芝居小屋

体育館と講堂は、たいていの高校にある。徳島県立城北高等学校にあるのは、それよりもずっと珍しい建物だ。三人遣いの人形浄瑠璃を上演するための、本式の芝居小屋である。地元では人形会館と呼ばれている。昭和40年(1965年)に校地内へ建てられたこの一棟は、授業用の簡易な舞台ではなく、実際の劇場と同じ約束事に沿ってつくられた。

背景には、この芸能の分布がある。旧阿波国にあたる徳島は、日本の人形芝居がもっとも色濃く残る土地だ。神社の境内などに設けられた野外の農村舞台は、県内におよそ80棟が現存し、その数は全国で最も多い。生徒に本格的な技を学ばせようとすれば、本物と同じように機能する建物が要る。城北高校はそれを持っている。

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人形会館は木造平屋建、瓦葺で、建築面積はおよそ282平方メートル。外観でまず目に入るのは二つの要素である。腰まわりの壁は海鼠壁で、方形の瓦を斜めに張り、目地を白く盛り上げた仕上げになっている。土蔵や城郭の壁に用いられてきた技法だ。その上、正面には朱塗りの高欄がのびる。灰白色の格子模様と赤い漆塗りの取り合わせが、決して大きくはないこの建物に、劇場らしい表情を与えている。

内部の舞台は二段構成をとる。右手前には張り出した一角があり、すべての登場人物を語り分ける太夫と、その脇に座る三味線が入る。舞台の上部には葡萄棚と呼ぶ格子状の棚が組まれ、大道具や仕掛けをここから操作する。棚の奥には控室などが配される。客席は椅子を並べた形ではなく、旧来の芝居小屋の升席とした。こうした一つひとつの選択が、実際の人形芝居の間取りを再現している。この建物が保存に値するとされた理由は、そこにある。

登録の理由

平成27年(2015年)8月、人形会館は登録有形文化財に加えられた。区分は、国土の歴史的景観に寄与しているもの、である。評価の性格はやや変わっている。古い寺院でも商家の屋敷でもなく、戦後に建てられた学校付属の建物が選ばれた。理由は二つ。県内でも数少ない本格的な芝居小屋であること、そして生きた伝統を次の世代へ手渡す拠点として働いていることだ。

その拠点には、はっきりとした担い手がいる。城北高校の民芸部は昭和31年(1956年)の創設で、県内の学校としては初めて阿波人形浄瑠璃の芝居に取り組んだ部活動だ。今もこの会館で稽古と公演を重ねている。国内外での公演を行い、卒業生の少なからぬ人々が、プロとして、あるいは愛好者として人形浄瑠璃を支えてきた。芸能そのものである阿波人形浄瑠璃は、平成11年(1999年)に国の重要無形民俗文化財に指定されている。

訪ねるときに見たいところ

阿波の人形芝居は、大阪の文楽とは目で見て分かる違いがある。人形の頭がひとまわり大きい。観客が離れて座る野外の農村舞台で演じてきたことから生まれた工夫だ。一体の人形を三人で扱う手順にも注目したい。主遣いが頭と右手を、左遣いが左手を、足遣いが足を受け持ち、三人の呼吸が合ったとき、人形は生身の役者以上に人間らしく動く。

部の活動に合わせて訪ねることができれば、細部までじっくり眺めたい建物である。葡萄棚の格子を見上げれば、素早い場面転換の仕組みが分かる。升席に腰を下ろせば、この劇場が想定した親密な広さが体で分かる。会館は観光施設ではなく現役の学校に属しているため、見学は学校の予定や公演の日程に左右される。事前の確認をすすめたい。

Q&A

Q人形会館とはどのような建物ですか。
A徳島市の城北高校の校地内に昭和40年(1965年)に建てられた、人形浄瑠璃のための芝居小屋です。同校の阿波人形浄瑠璃の部活動が、稽古と公演の拠点として使っています。
Q見学はできますか。
A現役の高校の敷地内にあるため、常設の観光施設ではありません。公演の機会や事前予約による見学が中心となります。学校や部活動の予定を前もって確認することをおすすめします。
Q阿波人形浄瑠璃は文楽とどう違いますか。
A三人遣いや義太夫節の語りは共通しますが、阿波の人形は頭が大きめです。野外の農村舞台で発達したことに由来する特徴です。
Q縞模様の壁と赤い手すりは何ですか。
A腰壁は海鼠壁で、瓦を斜めに張り目地を白く盛り上げた仕上げです。正面の高欄は朱漆で塗られています。この二つが建物の特徴的な外観をつくっています。
Qいつ文化財になりましたか。
A平成27年(2015年)8月4日に登録有形文化財として登録されました。

基本情報

名称徳島県立城北高等学校人形会館
所在地徳島県徳島市北田宮4-13-6
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録年月日 平成27年(2015年)8月4日
登録番号36-0125
建築年昭和40年(1965年)
構造・員数1棟/木造平屋建、瓦葺、建築面積約282㎡
所有者徳島県
見学現役の高校内にあり、公演や事前予約による見学が中心

References

文化遺産オンライン ― 徳島県立城北高等学校人形会館
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/280183
文化庁 ― 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010689
徳島県 ― 阿波人形浄瑠璃
https://www.pref.tokushima.lg.jp/japanese/natural_culture/traditional_culture/joruri

最終更新日: 2026.07.11