谷中の質屋が残した店構え

すぺーす小倉屋店舗は、東京都台東区谷中七丁目にある江戸末期の町家で、平成12年(2000年)4月28日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は13-0077。

建てたのは質屋である。文化庁の国指定文化財等データベースによれば、この家は享保年間(1716〜1736年)から代々質屋を営んだ商家で、感応寺、のちの天王寺の門前町に店を構えていた。屋号を小倉屋という。質屋としての営業は昭和15年(1940年)に終わっており、二百年余り続いた計算になる。

規模は小さい。木造2階建、スレート葺、建築面積は41平方メートル。間口は三間、5メートル半ほどしかない。2階は中二階で、天井の低い低層階を上に載せた江戸期の町家の形式をそのまま残している。正面から見たときの横に伸びた印象は、この中二階から来ている。

もうひとつ、通りを歩けばすぐ気づく特徴がある。この建物は道路に接していない。隣家が敷地いっぱいに建つなかで、小倉屋だけが表通りからやや後退して建つ。建物より先に、その隙間のほうが目に入る。

なお建築年について、文化庁データベースは「江戸末期」とし、西暦を1830〜1867年の幅で示している。地元の記録や二次資料では文政13年(1830年)と特定して記すものが多いが、国のデータベースは幅を持たせたままである。

登録された理由

登録有形文化財は、重要文化財や国宝とは別の制度である。平成8年(1996年)に始まった比較的新しい枠組みで、現に使われている建物を対象とし、改修にあたっては許可ではなく届出で足りる。保護の網としては緩やかだが、そのぶん適用範囲が広い。小倉屋店舗はこの登録の枠に入る建物であり、重要文化財でも国宝でもない。

適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。この文言は読み流さないほうがいい。技法の希少さでも、名のある大工の手によるものでもなく、街並みの一部を支えている点が評価されたということである。

谷中は、東京都心にあって近世以来の道筋がまとまって残る数少ない地区にあたる。関東大震災でも東京大空襲でも、東部や南部の低地に比べれば被害が小さく、木造建築が相当数生き延びた。そのおかげで町の骨格が読み取れる状態で今日まで来ている。小倉屋店舗は、地元で初音の道と呼ばれ、区が朝倉彫塑館通りと呼ぶこの道沿いで最も古い建物である。

内部では二つの要素が評価の対象になった。ひとつは大戸口。商家が夜に閉てた幅広い板戸の構えが、良好な状態で残る。もうひとつは帳場である。奥へ抜ける土間の通り庭に面して八畳の帳場があり、ここで質草の値踏みと金銭のやり取りが行われた。ギャラリーとして使われていたのはこの部屋だった。

登録は第23回登録分にあたり、告示は平成12年5月17日。隣接する蔵も同日付で別件として登録されている(登録番号13-0078)。

いま訪ねると何が見えるか

先に断っておくと、内部の見学はできない。平成5年(1993年)から令和2年(2020年)12月まで、この建物は「すぺーす小倉屋」の名でギャラリーとして開かれており、谷中を歩く人は帳場を無料で見ることができた。27年間続いた活動は2020年末で終了する。翌令和3年(2021年)、台東区が土地建物を取得した。近隣が案じていた取り壊しは避けられた。

ただし再開はすぐではない。区は令和7年度に埋蔵文化財の発掘調査を実施し、改修工事に入っている。公表されている予定表では、運営開始は令和9年(2027年)7月。設計資料によれば外壁は黒漆喰で仕上げる方針で、現状の維持ではなく以前の姿への復元が想定されている。

運営は、大丸松坂屋百貨店を代表とする朝倉彫塑館通り・未来共創コンソーシアムが区とともに担う。これまでに示された提案には、カフェと、廃材などを使ったものづくりの場が含まれる。隣の敷地では、令和3年に「地域の活性化、憩いの場となるような活用を」との遺言とともに区へ遺贈された土地が広場に整備され、「谷中ひだまりぽけっと」の愛称で令和9年3月の開設が予定されている。

それまでは、公道から外観を眺めるだけの建物ということになる。とはいえ見るものはある。後退した建ち方、スレートの屋根、低い中二階、板戸の構え。どれも歩道から十分読み取れるし、隣に立つ3階建の蔵との高さの差は、写真ではなかなか伝わらない。撮影は谷中のどこでもそうであるように公道からなら自由で、入口も料金もない。入る場所が今はないからである。

行き方は、JR山手線・京浜東北線・常磐線、京成線、日暮里・舎人ライナーが乗り入れる日暮里駅の西口から南西へ徒歩6分ほど。同じ道沿い、駅寄りに台東区立朝倉彫塑館がある。彫刻家・朝倉文夫の住居兼アトリエを公開した施設で、敷地全体が国の名勝に指定されており、開館時間も決まっている。散策の起点をここに置き、通り道で小倉屋を見るのが実際的だろう。

Q&A

Qすぺーす小倉屋店舗の内部は見学できますか。拝観料はかかりますか。
A現在は見学できません。令和2年12月にギャラリーとしての営業を終え、台東区のもとで改修工事中です。運営開始は令和9年(2027年)7月の予定。外観を公道から見るのは自由で費用はかかりません。再開後の料金の有無は公表されていません。
Qすぺーす小倉屋店舗はいつ建てられ、いつ文化財になったのですか。
A文化庁のデータベースは江戸末期、西暦1830〜1867年としています。地元では文政13年(1830年)とする記述が多く見られます。登録有形文化財への登録は平成12年4月28日、告示は同年5月17日です。
Qすぺーす小倉屋店舗へは日暮里駅からどう行けばよいですか。
A日暮里駅西口を出て、地元で初音の道と呼ばれる朝倉彫塑館通りを南西へ徒歩6分ほどです。同じ道沿いにある台東区立朝倉彫塑館が目印になります。所在地は台東区谷中七丁目です。
Qすぺーす小倉屋店舗とすぺーす小倉屋蔵は同じ文化財ですか。
A別件です。同じ敷地に並んで建ち、登録日も同じですが、登録は二件に分かれています。店舗は13-0077で江戸末期、蔵は13-0078で大正5年(1916年)の建築。適用された登録基準も互いに異なります。
Qすぺーす小倉屋店舗の写真を撮ってもよいですか。
A公道からであれば問題ありません。ただし道幅が狭い生活道路なので、引いて構えると通行の妨げになります。内部は閉鎖中のため撮影できません。

基本情報

名称すぺーす小倉屋店舗(すぺーすおぐらやてんぽ)
所在地東京都台東区谷中七丁目207-2(住居表示では谷中七丁目6番8号)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号13-0077
指定年平成12年(2000年)4月28日登録/同年5月17日告示(第23回登録)
員数1棟
寸法木造2階建、スレート葺、建築面積41平方メートル。間口三間(約5.5メートル)
所有者東京都台東区
公開状況改修工事のため内部非公開。外観は公道から見学可。運営開始は令和9年7月予定

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— すぺーす小倉屋店舗
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001562
文化遺産オンライン — すぺーす小倉屋店舗
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/166872
台東区 —(仮称)朝倉彫塑館通りふれあい広場及びすぺーす小倉屋について
https://www.city.taito.lg.jp/kenchiku/machidukuri/chikumachizukuri/yanaka/izoutioguraya.html
台東区 — 朝倉彫塑館
https://www.city.taito.lg.jp/kusei/shisetsu/bunkashisetsu/kuritsu/asakurachosokan.html

最終更新日: 2026.08.22