1口の刀 ― 1957年に国宝
刀〈金象嵌銘正宗本阿花押/本多中務所持〉(名物中務正宗)は、東京国立博物館(東京都台東区上野公園13-9)にある鎌倉時代の工芸品で、1941年(昭和16年)7月3日に重要文化財となり、1957年(昭和32年)2月19日に国宝に指定された。員数は1口、指定番号は00215、所有は国(文化庁)である。
作者は正宗と記録されている。刃長67.0センチメートル、反り1.7センチメートル、元幅2.9センチメートル、先幅2.1センチメートル、茎長15.5センチメートルである。
1941年7月3日は、紙本墨書帝系図が重要文化財となった日と同じである。所有が国(文化庁)である物件は、これで4件目になる。
銘を入れたのは刀工ではない
名称に含まれる「金象嵌銘」が、この刀の性格を示している。
文化庁は銘文について、表「本多中務所持」、裏「正宗 本阿(花押)」の金象嵌銘がある、と記す。象嵌は、彫った溝に別の金属を嵌め込む技法をいう。金で嵌められている。
刻んだのではなく、嵌めてある。しかも入れたのは刀工ではない。解説に、本阿弥光徳が正宗と極め、とある。極めるとは、鑑定して断定することをいう。
太刀〈銘備州長船師光/応永九年(以下不明)〉では、刀工自身が刻んだ銘があるため作者が確定していた。本件は違う。原銘が失われたあと、鑑定した人が正宗の名を金で入れている。
裏の銘には正宗の名と、本阿の花押が並ぶ。作った人の名と、そう判断した人の署名が、同じ面に置かれている。
茎を大きく詰めたため原銘が失われた
なぜ後から銘を入れる必要があったのか。品質・形状の欄に手がかりがある。
茎は大摺上げ、とある。茎は柄に納まる部分をいう。大摺上げは、それを大きく削り詰めることを指す。
刀工の銘は茎に刻まれる。茎を詰めれば、銘も一緒に失われる。
刃長67.0センチメートルに対し、茎長は15.5センチメートルである。削られる前の姿は分からない。
表の銘には「本多中務所持」とある。所持者の名まで嵌められている。作者名も所持者名も、後から加えられたものになる。
寸法が二つ記される
寸法の欄には、刀身のほかにもう一つの数値が入る。
(紺地立涌文金襴包半太刀拵)総長93.5センチメートル、とある。拵は刀を納める外装をいう。
刃長67.0センチメートルは刀身の長さ、総長93.5センチメートルは外装を含めた長さである。伝来・その他参考となるべき事項の欄にも、付属品として紺地立涌文金襴包半太刀拵が挙げられる。
今昔物語集では、修理で新補の表紙を付したため現寸法と本紙寸法の二つが記されていた。ここも中身と外装で二つの寸法がある。
刃紋についても細かく記される。のたれ調に互の目乱れ、小乱れ交じり、足・葉盛んに入り、沸よくつき、匂口深く、金筋、砂流しかかる、とある。彫物は表裏に棒樋を掻き通す、とされる。
鑑賞
所在は東京国立博物館で、所有は国(文化庁)である。館が保管する刀であり、常設で公開される性格のものではない。
伝来も記録されている。中務大輔を称した本多忠勝が所持し、のち徳川家康、水戸徳川家を経て徳川将軍家に伝来した、とある。
名称の「本多中務所持」は、この所持者に由来する。通称の中務正宗も同じである。名物とは、由緒のある名器に付される呼び方をいう。
展示の予定は変わることがあるため、訪問前に館の案内で確認したい。
Q&A
- この刀はいつ指定されましたか。
- 1941年(昭和16年)7月3日に重要文化財、1957年(昭和32年)2月19日に国宝へ指定されました。員数は1口、指定番号は00215、所在は東京国立博物館、所有は国(文化庁)です。
- 銘は誰が入れたのですか。
- 刀工ではありません。文化庁は「本阿弥光徳が正宗と極め」と記します。極めるとは鑑定して断定することをいい、その結果として正宗の名が金で象嵌されています。裏の銘には正宗の名と本阿の花押が並びます。
- なぜ原銘がないのですか。
- 品質・形状の欄に「茎は大摺上げ」とあります。茎は柄に納まる部分で、刀工の銘はそこに刻まれます。大きく削り詰めたため、銘も一緒に失われました。
- 寸法が二つあるのはなぜですか。
- 刃長67.0センチメートルは刀身の長さ、総長93.5センチメートルは紺地立涌文金襴包半太刀拵という外装を含めた長さです。付属品として拵が記録されています。
- 中務という名の由来は何ですか。
- 中務大輔を称した本多忠勝が所持したことによります。表の銘にも「本多中務所持」と金象嵌されており、のち徳川家康、水戸徳川家を経て徳川将軍家に伝来したと記録されています。
基本情報
| 名称 | 刀〈金象嵌銘正宗本阿花押/本多中務所持〉(名物中務正宗)(かたな めいぶつなかつかさまさむね) |
|---|---|
| 所在地 | 東京国立博物館 東京都台東区上野公園13-9 |
| 指定区分 | 国宝(工芸品)/指定番号00215 |
| 指定年 | 1941年(昭和16年)7月3日 重要文化財/1957年(昭和32年)2月19日 国宝 |
| 員数 | 1口 |
| 寸法 | 刃長67.0センチメートル、反り1.7センチメートル、元幅2.9センチメートル、先幅2.1センチメートル、茎長15.5センチメートル。紺地立涌文金襴包半太刀拵を含む総長は93.5センチメートル。鎬造で庵棟、茎は大摺上げ。作者は正宗、時代は鎌倉 |
| 所有者 | 国(文化庁) |
| 公開状況 | 館が保管する刀で、常設の公開ではない |
参考文献
- 文化遺産オンライン 刀〈金象嵌銘正宗本阿花押/本多中務所持〉
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/189046
- 文化庁 国指定文化財等データベース 同物件
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/511
- 東京国立博物館 公式サイト
- https://www.tnm.jp/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.05