所有者の名を冠した正宗の刀
この刀の茎(なかご)には、鍛えた刀工の銘がない。かわりに金象嵌で「城和泉守所持 正宗磨上 本阿(花押)」と記されている。鎌倉時代末期の相模国で活動した正宗の作と極められた一刀で、現存する正宗作の中でも最も正宗らしい代表作と評されてきた。
所有者の名から「城和泉正宗」、のちに伝来した大名家の名から「津軽正宗」とも呼ばれる。刃長は70.8センチ、反りは2.2センチ。現在は東京国立博物館が収蔵している。
正宗という刀工
正宗は、相州伝を完成させた名工として知られる。鎌倉に生まれ育ち、相州鍛冶の祖とされる新藤五国光に学んだとされ、五箇伝のひとつ相州伝を頂点へと押し上げた。生没年は明らかでなく、五郎入道正宗、岡崎正宗などとも称される。
その門からは多くの刀工が育ち、後世に「正宗十哲」と呼ばれる高弟の名が挙げられる。ただしこの呼称は後代の刀剣書に基づく伝承で、列挙された刀工の中には正宗と直接の師弟関係を結べない者も含まれる。実子のなかった正宗は、貞宗を養子に迎えて相州伝を継がせた。在銘の作が少ないため、正宗の刀は後代の鑑定家によって極められたものが多い。
金象嵌の極めが記すもの
古い鑑定記録『埋忠銘鑑』によれば、慶長十四年(1609年)六月、埋忠寿斎がこの刀を磨上げ、本阿弥光徳が正宗と極めて金象嵌の銘を入れた。光徳は江戸時代初期を代表する刀剣鑑定家で、銘末の花押は光徳その人を示す。
もとはより長い刀身で、茎の下部にあったはずの作者銘は、大きく磨上げた際に切り落とされている。こうした刀を大磨上(おおすりあげ)という。無銘の名刀にとって、信頼の置ける鑑定家が施した金象嵌の極めは、鑑定書であると同時に格式の証でもあった。
国宝指定の理由
この刀は昭和11年(1936年)に重要文化財、昭和26年(1951年)に国宝へ指定された。文化庁の解説は、同門の則重に通じるところがありながら、一段と地刃が晴れやかで大らかであり、正宗の特色をよく示すと評している。
見どころは地鉄と刃中の働きにある。板目鍛えの地肌には地景が交じり、地沸が頗る厚くつく。指表には湯走りが見られ、刃文は湾れに小乱れを交えて足や葉が入り、沸は深く凝って、ところどころに金筋がかかる。切れ味そのものよりも、この鋼の景色こそが正宗の名を高からしめた。
刀を巡った武将たち
金象嵌に記された城和泉守とは、戦国武将の城景茂を指す。景茂は武田信玄に仕え、のちに徳川家康に従って七千石の旗本にまで昇った。しかし慶長十九年(1614年)の大坂冬の陣で軍令を犯し、所領を没収されて蟄居したという。ある事典は、この頃に刀を手放したのではないかと推測している。
刀はその後、陸奥弘前藩主の津軽家へと伝わった。いつ津軽家の所蔵となったのかは明らかでないが、同家の刀剣台帳から見てかなり早い時期と考えられている。多くの正宗の名刀が載る『享保名物帳』にこの刀の名はなく、それだけに来歴をめぐる記録が貴重な手がかりとなっている。
上野で刀に出会う
刀を収蔵する東京国立博物館は、明治5年(1872年)創立の日本最古の博物館で、上野公園の一角に建つ。日本刀は本館の金工・刀剣の展示室で公開されるが、収蔵品は定期的に入れ替えられるため、特定の国宝刀が並ぶのは限られた期間に限られる。この刀を目当てに訪れるなら、事前に展示予定を確かめておきたい。
この刀が収蔵庫に控えている時期でも、本館では他の名刀や、絵画・彫刻・漆工・陶磁といった各時代の日本美術を見ることができる。周囲の上野公園には複数の美術館や動物園が集まり、春には桜の咲く散策の地となる。
Q&A
- なぜ作者の銘がないのですか。
- 慶長十四年に大きく磨上げられた際、正宗が銘を切るはずの茎の下部が切り落とされたためです。かわりに鑑定家の本阿弥光徳が正宗と極め、金象嵌の銘を入れています。
- 「城和泉正宗」「津軽正宗」という別名の由来は何ですか。
- いずれも所有者にちなみます。金象嵌に名のある城和泉守(城景茂)と、のちに代々所蔵した弘前藩の津軽家に由来します。
- この刀はいつでも見られますか。
- いいえ。東京国立博物館は刀剣を定期的に入れ替えるため、この国宝が公開されるのは限られた期間です。来館前に博物館の公式サイトで展示情報を確認してください。
- 正宗の刀はなぜ高く評価されるのですか。
- 正宗は相州伝を大成し、明るい沸や地景、金筋といった刃中・地鉄の働きの妙で知られます。この刀は現存する正宗作の中でも、最も特色をよく示す一振りとされています。
- 東京国立博物館へのアクセスは。
- 上野公園内にあり、JR上野駅公園口から徒歩約9分です。開館は9時30分から17時まで(金・土は夜間延長あり)、月曜が休館です。
基本情報
| 名称 | 刀〈金象嵌銘城和泉守所持/正宗磨上本阿(花押)〉 |
|---|---|
| 作者 | 正宗(極め) |
| 時代 | 鎌倉時代 |
| 指定区分 | 国宝(工芸品・刀剣) |
| 重要文化財指定 | 昭和11年(1936年)9月18日 |
| 国宝指定 | 昭和26年(1951年)6月9日 |
| 員数 | 1口 |
| 寸法 | 刃長70.8cm/反り2.2cm/元幅2.6cm/先幅1.5cm/鋒長3.0cm |
| 所有者 | 独立行政法人国立文化財機構 |
| 所在地 | 東京国立博物館(東京都台東区上野公園13-9) |
| 公開状況 | 展示替えあり(常設展示ではない) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/308
- 東京国立博物館
- https://www.tnm.jp/
- WANDER 国宝:刀 金象嵌銘城和泉守所持/正宗磨上本阿(東京国立博物館)
- https://wanderkokuho.com/201-00308/
- 刀剣ワールド:津軽正宗(城和泉守正宗)
- https://www.touken-world.jp/search-noted-sword/tengasansaku/56572/
最終更新日: 2026.06.12