戦後の本所に建てられた昭和28年の住宅

照田家住宅主屋(てるたけじゅうたくしゅおく)は、東京都墨田区緑にある昭和28年(1953年)建築の木造住宅で、平成20年(2008年)7月8日に国の登録有形文化財に登録された。木造平屋建で一部が2階建、屋根は瓦葺、建築面積は150平方メートルである。

この年代には少し立ち止まりたい。緑一帯はかつての本所にあたり、昭和20年3月の空襲でとりわけ大きな被害を受けた地域である。焼け野原からこの住宅の完成までは8年しかない。木造、瓦、茶室、庭。ここで選ばれたのは、急ごしらえの都市の選択ではなかった。

建物は敷地の中央に建ち、南側に庭園を構える。平面は一体的というより付加的で、入母屋造2階建の座敷棟を中心に、平屋建の茶室棟、玄関・応接間棟、風呂・厨房棟などが取り付く構成をとる。

銘木と細部の意匠が評価された登録

文化庁が適用した登録基準は「造形の規範となっているもの」で、登録の三基準のひとつにあたる。解説文が挙げるのは二点。座敷や茶室に銘木を多用していることと、その意匠が繊細にまとめられていることである。

銘木という語は、日本の建築で具体的な意味を持つ。木目や節、皮つきの縁など材そのものの表情を見込んで選ばれ、部屋のなかの決まった位置のために用意される木のことをいう。しばしば周囲の構造材より高価につく。座敷まわりにこれを通して使った住宅は、施主が何を注文しているか承知していた住宅である。

応接間だけは流儀が異なる。床は寄木張、柱は名栗仕上げ、脇にはタイル貼のベランダが付く。名栗は手斧で削り、浅い削り跡を残す仕上げで、数寄屋の茶室建築に属する手法である。寄木張の床とタイルのベランダはそこには属さない。両者を一室に同居させたのは意図的な操作だろう。昭和25年前後の質の高い住宅作品に見られる融合のしかたで、和と洋を別棟に分けず、ひとつの住まいの平面に組み込もうとした時期の産物といえる。

所有はその後、積水ハウス信託株式会社に移っている。現在は家族の住まいとしてではなく、維持管理される建物として扱われている。重要文化財の指定と違い、登録は規制がゆるやかで、所有者が変わりながら手入れが続けられてきた背景にはこの制度の性格がある。

原則非公開、年に一度の特別見学会

この住宅は一般に公開されていない。敷地は公道に面しているが、境界にコンクリート塀が回り、道路から見えるのは塀の上に出る2階部分だけである。この建物を目当てに平日訪ねても見るものはほとんどない。先に知っておいたほうがよい。

入る道はひとつある。墨田区が、毎年秋に非公開の文化財を開く都の事業「東京文化財ウィーク」の企画事業として、照田家住宅の特別見学会を実施している。近年は土曜日の1日に2回、各回2時間ほどの日程で行われ、区の専門職員が各部屋の建具や照明器具の意匠を解説しながら案内する。

定員は少ない。近年の回は各回5名から6名の抽選で、費用は少額、申込みは開催の数週間前に締め切られる。専用の申込フォームか往復はがきで、墨田区地域教育支援課文化財担当あてに送る方式である。日程も条件も年によって変わるため、夏の終わりごろから区のイベント情報を見ておくとよい。

日程が合わなくても、周辺を歩く価値はある。北へ歩けば両国で、江戸東京博物館の一帯や国技館が徒歩圏にある。緑周辺の本所の街路には戦後の建物が点々と残り、この住宅が建った文脈を読み取る手がかりになる。

Q&A

Q照田家住宅主屋は見学できますか。
A通常は見学できません。原則非公開の住宅です。秋の東京文化財ウィークの期間中に墨田区が特別見学会を行うことがあり、内部を見られるのはその機会にほぼ限られます。
Q照田家住宅の特別見学会にはどう申し込みますか。
A墨田区地域教育支援課文化財担当あてに、専用の申込フォームか往復はがきで申し込みます。締切は開催の数週間前です。近年は各回5名から6名の抽選で、少額の費用がかかります。
Q照田家住宅主屋はいつ登録されましたか。文化財の区分は何ですか。
A平成20年(2008年)7月8日に登録有形文化財(建造物)として登録され、同月23日に告示されました。登録番号は13-0233、登録基準は「造形の規範となっているもの」です。重要文化財の指定より規制のゆるやかな区分にあたります。
Q照田家住宅主屋は道路から見えますか。撮影してもよいですか。
A見えるのは一部です。敷地はコンクリート塀に囲まれており、公道から確認できるのは2階部分にとどまります。私有地であり周辺は住宅地ですので、撮影は控えめにお願いします。
Q照田家住宅主屋の建築上の見どころはどこですか。
A座敷や茶室に銘木を多用した点と、応接間の意匠です。応接間は寄木張の床、名栗仕上げの柱、タイル貼のベランダを組み合わせています。昭和28年の建築として、和室と洋室をひとつの住まいの平面に収めた戦後まもない時期の考え方が読み取れます。

基本情報

名称照田家住宅主屋(てるたけじゅうたくしゅおく)
所在地東京都墨田区緑2-8-4
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 13-0233/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成20年(2008年)7月8日登録、同年7月23日告示
員数1棟
寸法木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積150平方メートル。昭和28年(1953年)建築
所有者積水ハウス信託株式会社
公開状況原則非公開。東京文化財ウィークの企画事業として墨田区が特別見学会を実施(事前申込・抽選)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 照田家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007192
文化庁 文化遺産オンライン — 照田家住宅主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/120064
墨田区 — 文化財の保護・普及
https://www.city.sumida.lg.jp/kosodate_kyouiku/tiiki_kyouiku_shien/bunkazai_hogo/index.html
東京都教育委員会 — 東京文化財ウィーク
https://www.syougai.metro.tokyo.lg.jp/sesaku/week.html

最終更新日: 2026.08.23