品川キャンパスに残る明治42年の練習船

東京水産大学雲鷹丸(うんようまる)は、東京都港区港南の東京海洋大学品川キャンパスに保存される明治42年(1909年)建造の鋼製帆船で、平成10年(1998年)12月11日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。文化庁の台帳は、平成15年に東京商船大学と統合して現在の大学となる以前の名称「東京水産大学雲鷹丸」で記載している。

長さ41.2メートル、最大幅8.7メートル。船の記録には総トン数444.25トン、収容人員81名とある。建造したのは大阪鉄工所桜島工場、のちの日立造船にあたる造船所で、発注者は農商務省水産講習所だった。

発注には事情がある。水産講習所の初代練習船・快鷹丸が明治40年に朝鮮半島の迎日湾で遭難しており、雲鷹丸はその代船として建造された。

バーク型とは、前檣と主檣に横帆、後檣に縦帆を張る帆装をいう。雲鷹丸はこの帆装に補助の蒸気機関を組み合わせた、帆と石炭が同じ甲板を分け合っていた時代らしい構成をとる。価値の中心は船体そのものにある。鋼製で、しかも国産。国内で建造された鋼製船舶のなかで、現存する最古の一隻である。

国の登録有形文化財となった理由

登録有形文化財の制度は平成8年に始まった。重要文化財の指定に比べて規制がゆるやかで、所有者の自由度を残したまま価値を認める仕組みである。登録には三つの基準があり、雲鷹丸は三番目、「再現することが容易でないもの」に該当するとして登録された。

この基準は雲鷹丸の来歴とよく噛み合う。就役当時、日本の漁船の多くは無甲板の木造船で、遠方への出漁には向かなかった。政府は西洋形漁船の新造に奨励金を出して遠洋漁業を後押ししており、雲鷹丸はその転換期に置かれた一隻にあたる。同時期の国産鋼製船で残るものは、ほかにない。

稼働したのは明治42年5月から昭和4年8月まで。大学の公式サイトによれば、20年間で36回の航海を行った。夏は北のカムチャッカ方面へ、冬は南へ。乗り組んだ学生は捕鯨実習を受け、漁具や漁撈技術の試験を重ね、新漁場の調査にあたった。大正15年には工船組合とともに東カムチャッカ沖で蟹刺網漁業と缶詰製造の試験を行い、船上でのカニ缶詰製造に成功している。のちの大型蟹工船は、この試みの延長線上に生まれた。

大正12年の関東大震災では、月島の岸壁に停泊していた雲鷹丸が漂流してきた焼船からの類焼を防ぎながら、500人あまりの市民を救助したと伝えられる。昭和4年に任務を後継の白鷹丸へ引き継いだのち、雲鷹丸は係留練習船として帆走訓練に使われ、その役目を終えた。

陸に上がったのは昭和37年、東京水産大学70周年記念事業としてであった。喫水線から下は残さず、上部だけを切り離して越中島から品川へ運び、陸上に据えて復元整備した。以来この姿で立っている。

見学の手引きと注目したい細部

キャンパスは港区港南4-5-7、JR品川駅の港南口から東へ徒歩10分から15分ほど。守衛所で記帳して構内に入る。船は漁業機械学実験実習棟の脇、高浜運河に面したキャンパスの水際近くに据えられている。

門をくぐらなくても見える。高浜運河沿いの遊歩道がキャンパスの境に沿って走っており、金網越しにマストがよく見える。東京モノレールの車窓や首都高速羽田線からも同じ姿が視界をよぎる。地上からなら遊歩道のほうが角度がよく、午後遅く斜めの光が当たる時間帯に鋼板の表情が出る。

内部は公開されていない。老朽化のため長く外観のみの見学に限られている。外からの撮影に制限はない。

同じ構内で足を止める価値のある施設が二つある。マリンサイエンスミュージアムには水産資料や漁具、歴代練習船の模型が並び、隣接する鯨ギャラリーにはセミクジラとコククジラの全身骨格が展示されている。入館無料、開館は平日のみで、見学には事前予約が必要とされているので、訪問前に大学のページで確認しておきたい。

もう一点、比べておきたいことがある。江東区の越中島キャンパスには明治8年建造の鉄製灯台巡視船・明治丸があり、こちらは昭和53年に重要文化財に指定されている。明治丸は「指定」、雲鷹丸は「登録」。同じ保護制度のなかで段階の異なる二つの区分である。二隻を続けて訪ねると、日本の造船が輸入された鉄から国産の鋼へ移っていく道筋が短時間でつかめる。

Q&A

Q雲鷹丸は東京海洋大学品川キャンパスで見学できますか。料金はかかりますか。
A見学できます。守衛所で記帳すれば構内に入ることができ、外観の見学は無料です。高浜運河沿いの公共の遊歩道からも見えるため、手続きなしで眺めることもできます。
Q雲鷹丸の船内に入ることはできますか。
Aできません。老朽化のため見学は外観に限られており、内部を定期的に公開する取り組みは行われていません。
Q雲鷹丸の文化財としての区分と登録年はいつですか。
A登録有形文化財(建造物)で、登録番号は13-0042。平成10年(1998年)12月11日に登録され、同月25日に告示されました。重要文化財の「指定」とは別の、よりゆるやかな区分にあたります。
Q品川駅から雲鷹丸までどう行きますか。
A港南口から東へ、高浜運河を渡って徒歩10分から15分ほどです。東京モノレール天王洲アイル駅からは徒歩20分前後、りんかい線の同駅からは25分前後かかります。
Q雲鷹丸は撮影できますか。近くにあわせて見られるものはありますか。
A外観の撮影に制限はありません。同じ構内のマリンサイエンスミュージアムと鯨ギャラリーは無料ですが平日のみの開館で、事前予約が必要とされています。江東区の越中島キャンパスには重要文化財の明治丸(明治8年建造)が保存されています。

基本情報

名称東京水産大学雲鷹丸(とうきょうすいさんだいがくうんようまる)
所在地東京都港区港南4-5-7(東京海洋大学品川キャンパス)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 13-0042/登録基準「再現することが容易でないもの」
指定年平成10年(1998年)12月11日登録、同年12月25日告示
員数1隻
寸法鋼製帆船、長さ41.2メートル、最大幅8.7メートル(総トン数444.25トンと記録される)
所有者国立大学法人東京海洋大学
公開状況構内で外観のみ見学可(無料、守衛所で記帳)。内部非公開。高浜運河沿いの遊歩道からも見学可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 東京水産大学雲鷹丸
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000951
文化庁 文化遺産オンライン — 東京水産大学雲鷹丸
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/138221
東京海洋大学 — 学内共同利用施設等
https://www.kaiyodai.ac.jp/overview/facility/
東京海洋大学 — アクセス
https://www.kaiyodai.ac.jp/overview/access/
港区観光協会 — 東京海洋大学マリンサイエンスミュージアム
https://visit-minato-city.tokyo/ja-jp/places/2633

最終更新日: 2026.08.23