三つめの時計台、最もゴシックから遠い一棟 ― 東京大学先端科学技術研究センター十三号館

東京大学先端科学技術研究センター十三号館(旧東京帝国大学航空研究所本館)は、東京都目黒区駒場の駒場Ⅱキャンパスに建つ研究棟で、昭和4年(1929年)に完成し、平成12年(2000年)9月26日に国の登録有形文化財となった。

東京大学には三つの時計台がある。本郷の安田講堂、駒場Ⅰキャンパスの旧一高本館、そしてこの建物である。いずれも内田祥三の設計によるもので、内田は建築学科の教授を務めるかたわら営繕課長として、関東大震災後の再建を主導した。三つを並べたとき、異質なのはこの一棟である。

この建物のために置かれた組織、東京帝国大学航空研究所は、もともと東京の東部、越中島にあった。関東大震災を受けて駒場へ移転してくる。1920年代の日本の航空研究は急速に規模を拡大しており、新しい敷地には衝撃に耐える中心施設が必要だった。耐震・耐火が仕様を規定し、その結果として構造は鉄骨鉄筋コンクリート造、すなわちコンクリートの躯体に鉄骨を組み込む工法となり、外装にはスクラッチタイルが用いられた。設計は内田祥三と清水幸重、施工は大倉土木である。

コンクリートによる表現派

この建物を他の二つの時計台から分けるのは、造形の出どころである。安田講堂と駒場Ⅰの本館はゴシックの語彙による。こちらは表現派である。

建築における表現派は、第一次大戦後のドイツに源を持ち、大正末の日本に伝わって昭和初期まで続いた。歪んだ比例、可塑的に扱われた量塊、押し縮められたかのような形態を志向する。ここでは二つの特徴が影響をはっきり示している。まず塔の上方がややつぼまり、本郷の塔のまっすぐな立ち上がりとは似ない、圧し詰めたようなシルエットになる。次に1階の入口に、上部の構成と釣り合わないほど太い石の円柱が据えられている。この不均衡は構造上の必要ではなく、表現派の手法である。

そして帯である。建物の全体に九本の水平帯が周り、最上層は縦縞状に処理される。下は水平に巻かれ、上は垂直に割られる。二つの方向が競合する構成で、両キャンパスのゴシック系の建物はこれを試みていない。

登録上の構造は鉄骨鉄筋コンクリート造3階建、建築面積735平方メートル、塔屋付。文化庁の解説文はこれに地下1階を加え、地上3階地下1階建と記している。適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」である。

登録有形文化財は、日本の二つの文化財保護制度のうち緩やかなほうにあたる。平成8年(1996年)に築およそ50年以上の建造物を対象として発足し、所有者は大きな改変の前に届け出を行い、それ以外は建物を使い続ける。この建物では今も研究が続いている。担う分野は航空から先端科学技術全般へ移ったが、研究棟としての機能は昭和4年から途切れていない。

九件のうち最も見に行きにくい建物

東京大学の登録有形文化財を撮り歩こうとする人には、この一棟が最も準備を要することを先に伝えておきたい。駒場Ⅱキャンパス、正式には駒場リサーチキャンパスと呼ばれ、生産技術研究所と共有されているこの敷地は、年に一度のキャンパス公開時を除いて一般公開されていない。遠慮を促す表現ではなく、明確な制限である。平日に門へ行っても入れない。

その年に一度の機会が「駒場リサーチキャンパス公開」である。例年、初夏の二日間程度にわたって開催される。普段は立ち入ることのできない研究室の内部が見学でき、講演や体験型の企画も行われる。入場を円滑にするため、来場前の事前登録が推奨されている。日程は年によって動くので、公開の公式サイトを早めに確認しておきたい。この建物を間近で見たいという問いへの実務的な答えは、これに尽きる。

公開日以外は、周囲の街路から部分的に眺めることになる。キャンパスは京王井の頭線の駒場東大前駅と東京メトロ千代田線の代々木上原駅の間の閑静な住宅地にあり、外周のいくつかの地点から塔屋が敷地境界の上に見える。限られた眺めであり、そこは現実的に見積もっておいたほうがよい。

周辺が埋め合わせてくれる。日本民藝館がすぐ近くにあり、旧前田家本邸のある駒場公園までは歩いてすぐ、同じ公園内に日本近代文学館も建つ。いずれもキャンパス外周の散策と組み合わせられ、それぞれの日程で一般公開されている。建築を目当てに駒場まで足を運ぶなら、時計台と駒場博物館に自由に近づける駒場Ⅰキャンパスに一日の大半を充て、この建物はキャンパス公開の週末に照準を合わせるのが賢明だろう。

Q&A

Q東京大学先端科学技術研究センター十三号館を間近で見学することはできますか。
A年に一度の「駒場リサーチキャンパス公開」の期間に限られます。駒場Ⅱキャンパスはそれ以外の日は一般公開されていないため、平日に門を訪ねても入構できません。外周の街路からは塔屋を部分的に望むことができます。
Q東京帝国大学航空研究所とはどのような組織で、なぜ駒場へ移ったのですか。
A東京帝国大学の航空分野の研究組織で、もとは東京東部の越中島にありました。大正12年(1923年)の関東大震災を受けて駒場へ移転し、その中心施設として昭和4年(1929年)にこの建物が建てられました。耐震・耐火が設計の前提とされています。
Q十三号館は東京大学の他の二つの時計台とどう違いますか。
A三棟とも内田祥三の設計ですが、安田講堂と駒場Ⅰの旧一高本館がゴシックの造形によるのに対し、この建物は表現派の影響が濃く出ています。塔の上方がややつぼまること、1階入口に不釣り合いなほど太い石柱が立つこと、全体に九本の水平帯が周り最上層が縦縞状であることが特徴です。
Q十三号館の構造と登録年を教えてください。
A鉄骨鉄筋コンクリート造3階建、建築面積735平方メートル、塔屋付です。文化庁の解説文はこれに地下1階を加えています。登録は平成12年(2000年)9月26日、告示は同年10月11日で、登録番号は13-0088です。
Q駒場Ⅱキャンパスの周辺で、あわせて訪ねられる場所はありますか。
A日本民藝館がすぐ近くにあり、駒場公園には旧前田家本邸と日本近代文学館があります。時計台と駒場博物館のある駒場Ⅰキャンパスも徒歩圏で、こちらのほうがはるかに立ち入りやすくなっています。

基本データ

名称東京大学先端科学技術研究センター十三号館(旧東京帝国大学航空研究所本館)
所在地東京都目黒区駒場4-5
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 13-0088/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成12年(2000年)9月26日登録、同年10月11日告示
員数1棟
寸法鉄骨鉄筋コンクリート造3階建、建築面積735平方メートル、塔屋付
所有者国立大学法人東京大学
公開状況駒場Ⅱキャンパスはキャンパス公開時を除き一般公開なし。公開日以外は外周からの遠望のみ

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/東京大学先端科学技術研究センター十三号館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001762
文化遺産オンライン/東京大学先端科学技術研究センター十三号館(旧東京帝国大学航空研究所本館)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/167072
東京大学/国の登録有形文化財 登録
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/b07_04_b.html
東京大学駒場リサーチキャンパス公開
https://komaba-oh.jp/
東京大学 先端科学技術研究センター/アクセス
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/access.html
東京大学/キャンパスの見学について
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/public02_05.html

最終更新日: 2026.07.29