工期18か月、五輪39日前の竣工
代々木競技場は、東京都渋谷区神南にある昭和39年(1964年)竣工のスポーツ施設で、第一体育館と第二体育館の2棟が令和3年(2021年)8月2日に国の重要文化財に指定された。通称は国立代々木競技場、竣工時の名称は国立屋内総合競技場である。
敷地はもともと、占領期に米軍関係者の住宅として造成されたワシントンハイツだった。返還交渉に約2年を要し、ここに選手村と水泳競技場を建設すると決まったのは昭和36年(1961年)10月のことである。設計者が正式に決まったのは翌37年に入ってから。建築・総合意匠を丹下健三(1913-2005)、構造を坪井善勝(1907-1990)、設備を井上宇市が担当した。開会式まで3年を切っていた。
着工から竣工まで許された期間は18か月。
施工は清水建設。完成は昭和39年8月31日で、五輪開幕の39日前だった。10月、第一体育館では競泳と飛込、第二体育館ではバスケットボールが行われている。それから57年後、2021年に開催された東京2020大会では第一体育館がハンドボール、車いすラグビー、パラバドミントンの会場となった。二度の五輪を経験した競技施設は世界でも数えるほどしかない。
指定の理由は「意匠」と「技術」の二つ
文化庁が挙げた指定基準は、(一)意匠的に優秀なもの、(二)技術的に優秀なもの、の二つである。指定番号は2723。どちらの基準も、結局は屋根を指している。
第一体育館では、高さ約40メートルの鉄筋コンクリート製主柱2本が約120メートルの間隔で立ち、その間に吊橋とまったく同じ要領でメインケーブルが架け渡される。屋根はそのケーブルから吊り下げられ、引張力は両端のアンカレッジへ流れていく。坪井は昭和37年に完成した若戸大橋(支間367メートル)を参照したと伝わる。土木の技術をこの規模の建築に持ち込んだ例は、当時世界のどこにもなかった。
当初案は全体をワイヤーロープで構成するものだった。それでは設計者が求める屋根の曲線が出ない。そこで吊り材をあらかじめ成型した鉄骨に置き換え、「セミリジッド(半剛性)吊り屋根構造」と呼ばれる形式が生まれた。台風時の屋根の揺れを抑えるため油圧ダンパーも組み込まれており、制震を目的とした油圧ダンパーの採用は国内の建築で初めてだったとされる。昭和37年当時、これらをコンピューターで解析する手段はない。計算は手回し計算機で行われた。
訪れた人が実際に体感するのは、その工学の結果として現れた「柱が1本もないアリーナ」と、二つの半円形をずらして組み合わせた平面である。この形を日本語では巴形という。太鼓の革や瓦にある、あの渦を巻いた紋のことだ。半円をずらすことで出入口が生まれ、動線が整理される。1万人を超える観客が滞留せずに出入りできるのは、この平面のおかげである。
文化庁データベースによれば、第一体育館は鉄筋コンクリート造一部鉄骨造、吊屋根構造、建築面積22,258.42平方メートル、二階建・地下二階、鉄板葺。原宿口および渋谷口の石敷、東方プロムナード、南方石敷通路が附属として指定範囲に含まれる。第二体育館は建築面積4,708.06平方メートル、平屋建・地下一階、鉄板葺で、正面入口の石敷が附属する。指定が告示された時点で、この2棟は重要文化財建造物のなかで最も竣工年が新しい建物だった。
どこから見るか、どうすれば中に入れるか
原宿駅の改札を出ると、建物より先に屋根が木立の上に現れる。金属の長い曲線は、体育館というより吊橋の桁に近い見え方をする。第一体育館の東側に伸びる石敷のプロムナードが、いちばん構造の分かる場所だ。ここに立つと主柱2本、メインケーブル、屋根裏面のリブが一直線に揃う。夕方近く、低い日射しがリブを斜めに舐めるとき、屋根が滑らかな殻ではなく骨組みに張られた薄い皮であることが見えてくる。アリーナ上部、二つの屋根面のあいだに走る細い採光帯は外からは気づきにくいが、内部に入れば見逃しようがない。
中にあるのは構造だけではない。第一体育館には岡本太郎の陶製作品《眼》《手》《競う》《足》の4点が据えられ、志水晴児《岩》、篠田桃紅《水冠》も置かれている。第二体育館には水井康雄《余韻の化石》、外構にはA.カルデナス《真鶴の夏の蝶》がある。
内部を見るには段取りが要る。ここは年間300日以上稼働している現役の施設で、日本スポーツ振興センターによる定例の建築見学会は行われていない。現実的な方法はチケットを買うこと。Bリーグの試合、バレーボールやフィギュアスケートの大会、あるいは1980年代から続くコンサートのいずれかである。室内水泳場は団体利用と女性水泳教室のみで、個人利用者への一般公開は行っていない。
外観は無料で、時間の制約もない。園地、プロムナード、石敷の通路はいずれも自由に歩ける公共空間で、外観の撮影に制限はない。館内の撮影可否は各イベント主催者の規定によるが、コンサートではほぼ禁止と考えてよい。アクセスはJR山手線原宿駅、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅からいずれも徒歩約5分、渋谷駅からは徒歩約15分。平成29年(2017年)から耐震改修のため閉鎖され、令和元年(2019年)11月に使用を再開した。道路を挟んで明治神宮と代々木公園があるため、10分で終わるはずの見学が半日仕事になりやすい。
Q&A
- 代々木競技場はどこにありますか。最寄り駅からの所要時間は?
- 東京都渋谷区神南二丁目一番にあります。JR山手線原宿駅、東京メトロ千代田線・副都心線の明治神宮前駅からいずれも徒歩約5分、渋谷駅からは徒歩約15分です。
- 代々木競技場は見学できますか。館内に入る方法は?
- 定例の建築見学会はありません。館内に入るには、試合・大会・コンサートなどのチケットが必要です。園地とプロムナード、石敷の通路は時間の制限なく自由に歩けるので、外観はいつでも見られます。
- 代々木競技場はなぜ重要文化財に指定されたのですか。
- 文化庁は「意匠的に優秀なもの」「技術的に優秀なもの」の二つを指定基準に挙げています。吊橋の技術を建築に応用した吊り屋根構造、その結果生まれた無柱の大空間、二つの半円形をずらした巴形の平面が、戦後モダニズム建築の到達点として評価されました。
- 代々木競技場の設計者は誰ですか。
- 建築・総合意匠を丹下健三、構造を坪井善勝、設備を井上宇市が担当しました。施工は清水建設です。設計は昭和37年(1962年)に始まり、昭和39年8月31日に完成しています。
- 代々木競技場ではどの五輪競技が行われましたか。
- 昭和39年(1964年)の東京オリンピックでは第一体育館で競泳と飛込、第二体育館でバスケットボールが行われました。2021年の東京2020大会では第一体育館がハンドボールの会場となり、パラリンピックでは車いすラグビーとパラバドミントンが実施されています。
基本情報
| 名称 | 代々木競技場(よよぎきょうぎじょう)/通称 国立代々木競技場 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都渋谷区神南二丁目一番 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 指定番号2723 |
| 指定年 | 令和3年(2021年)8月2日 |
| 員数 | 2棟(第一体育館・第二体育館) |
| 寸法 | 第一体育館:建築面積22,258.42平方メートル、二階建・地下二階/第二体育館:建築面積4,708.06平方メートル、平屋建・地下一階。いずれも鉄筋コンクリート造一部鉄骨造、吊屋根構造、鉄板葺 |
| 所有者 | 独立行政法人日本スポーツ振興センター |
| 公開状況 | 園地・プロムナードは常時無料開放。館内はイベント開催日のチケット所持者のみ。定例の見学会なし |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「代々木競技場 第一体育館」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00005355
- 文化庁 国指定文化財等データベース「代々木競技場 第二体育館」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00005356
- 文化遺産オンライン「代々木競技場 第一体育館」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/551965
- 文化遺産オンライン「代々木競技場 第二体育館」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/581576
- 日本スポーツ振興センター 国立代々木競技場 公式サイト
- https://www.jpnsport.go.jp/yoyogi/
- 日本スポーツ振興センター 国立代々木競技場 施設案内
- https://www.jpnsport.go.jp/yoyogi/sisetu/tabid/64/Default.aspx
- 日本スポーツ振興センター 国立代々木競技場 アクセス
- https://www.jpnsport.go.jp/yoyogi/access/tabid/88/Default.aspx
- 文化庁「国宝・重要文化財(建造物)」
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/kokuho_bunkazai.html
最終更新日: 2026.08.22
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