二つの学校を一つに見せるための時計台 ― 東京大学教養学部旧第一高等学校本館

東京大学教養学部旧第一高等学校本館(時計台)は、東京都目黒区駒場の駒場Ⅰキャンパス中央に建つ校舎で、昭和8年(1933年)に竣工し、平成12年(2000年)9月26日に国の登録有形文化財となった。

この建物は、東京大学のために建てられたものではない。旧制第一高等学校の中心的施設として計画された。一高は卒業生がほぼそのまま東京帝国大学へ進む予科的な位置にあった学校で、大学農学部との校地交換によってこの敷地へ移ってきた。設計を委ねられたのは、震災後の本郷キャンパス再建を担った内田祥三である。大学自身の解説は、その意図を珍しくはっきりと書いている。東大と第一高等学校が一体感を持ちうるよう工夫して設計した、と。

手段は建築的な引用だった。本郷で安田講堂の前に立ったことのある人なら、この建物を一目で結びつけるだろう。同じスクラッチタイル、同じ垂直性の強調、左右対称の躯体の上に塔を載せる同じ構成。八キロほど離れた二つのキャンパスが、それぞれの中心建築を韻を踏ませることで結ばれている。

工事は昭和6年(1931年)8月に着工し、昭和8年7月に竣工した。設計は内田祥三と清水幸重、施工は銭高組である。

基調はゴシック、アーチはロマネスク

平面はロの字形に中庭を囲む。外装はスクラッチタイル。焼成前に細い平行の溝を引いた仕上げで、昭和初期に流行し、内田がこれを徹底して用いたことから、その様式は「内田ゴシック」と呼ばれるようになった。

差が出るのはアーチである。駒場を論じる書き手は、この建物がゴシック様式を基調としながら、アーチ部分にロマネスク様式を取り入れている点を指摘してきた。すなわち尖頭ではなく半円である。入口を眺めてから本郷の法文1号館の尖頭アーチのアーケードを思い出せば、違いはすぐに分かる。内田は二つの語法を意識して使い分けていた。

構造の記載については補足が要る。文化庁の登録データベースは構造を「鉄筋コンクリート造3階建、建築面積2464㎡、塔屋付」とする。ところが同じ登録に付された解説文は「ロ字形平面、スクラッチタイル貼のSRC造2階建一部3階建」と記す。材料と階数の双方で食い違っており、しかも出典はいずれも同じ機関である。どちらかの資料を優先することでは解消できない。記録として扱うべきは登録欄の記載であり、この点は人間の確認を要する事項として残る。

適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」。登録制度は平成8年(1996年)に発足した緩やかな枠組みで、所有者は大きな改変の前に届け出を行い、建物はそのまま使われ続ける。この建物には教養学部の前期課程、つまり1・2年生が通う教室が入っている。登録有形文化財の用途としては、これ以上ないほど日常的である。

戦時中の記録も書き留めておきたい。第二次大戦中、防空幹事となった一高生徒は、この時計台から対空監視を行っていた。

駒場Ⅰキャンパスとその周辺

キャンパスの入口は京王井の頭線・駒場東大前駅の真向かいにある。改札から時計台まで、九十秒ほどだろうか。門をくぐると正面にこの建物が立ち、軸線を受け止める。そう構成されている。

駒場Ⅰキャンパスの見学の扱いは本郷とは異なる。見学に関する問い合わせは大学本部ではなく教養学部の窓口へ直接行うよう案内されており、団体で訪れる場合は事前に連絡しておきたい。1号館の内部は現役の教育施設で、一般の見学の対象ではない。

一般に入れる建物は、すぐ近くにある。時計台の前で右手に折れると、昭和10年(1935年)に一高の図書館として建てられた建物があり、現在は駒場博物館として使われている。天井の高い1階展示室には、本学と多摩美術大学の協力で制作されたマルセル・デュシャン《花嫁は彼女の独身者たちによって裸にされて、さえも》のレプリカ(1980年完成)が置かれている。年に3回から4回の特別展が開かれており、この世代の建物の内側に入る最も確実な手立てとなっている。

一高の遺構は、ほかにも近くに残る。昭和13年(1938年)竣工の900番教室は、かつての倫理講堂で、現在は座席数656席と教養学部で最大の教室である。昭和12年(1937年)の旧一高同窓会館はフレンチレストラン「ルヴェ ソン ヴェール駒場」となり、一般の利用ができる。

これらの建物が建てられた学校自体は、もう存在しない。昭和24年(1949年)に駒場へ東京大学教養学部が設置され、翌25年3月に第一高等学校は廃止された。1号館の周りの樹木には、一高の象徴であった西洋柏とオリーヴが今も混じっている。

Q&A

Q東京大学教養学部旧第一高等学校本館(時計台)の内部は見学できますか。
A現役の教育施設であるため、内部の一般見学はできません。外観はキャンパス内からご覧いただけます。駒場Ⅰキャンパスの見学に関する問い合わせは、大学本部ではなく教養学部の窓口へ直接行うよう案内されており、団体で訪れる場合は事前の連絡が必要です。
Q駒場の時計台が安田講堂によく似ているのはなぜですか。
Aどちらも内田祥三の設計で、類似は意図されたものです。大学の解説は、東大と第一高等学校が一体感を持ちうるよう工夫して設計したと明記しています。スクラッチタイル、垂直性の強調、左右対称の躯体に塔を載せる構成が共通しています。
Q第一高等学校とはどのような学校で、今も存在しますか。
A卒業生が東京帝国大学へ進む予科的な位置にあった旧制の高等学校です。大学農学部との校地交換により駒場へ移りました。昭和24年(1949年)に駒場へ東京大学教養学部が設置され、翌25年3月に第一高等学校は廃止されたため、現在は存在しません。
Q駒場キャンパスで内部に入れる歴史的建造物はありますか。
A駒場博物館があります。昭和10年(1935年)に一高の図書館として建てられた建物で、時計台から歩いてすぐです。年に3~4回の特別展を開催しており、1階展示室にはマルセル・デュシャン作品のレプリカ(1980年完成)が置かれています。開館時間と展覧会の予定は公式サイトでご確認ください。
Q駒場の時計台へのアクセスを教えてください。
A京王井の頭線の駒場東大前駅で下車します。渋谷から一駅です。キャンパスの入口は駅の真向かいにあり、門を入ると正面に時計台が見えます。改札からおよそ九十秒の距離です。

基本データ

名称東京大学教養学部旧第一高等学校本館(時計台)
所在地東京都目黒区駒場3-8
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 13-0089/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成12年(2000年)9月26日登録、同年10月11日告示
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造3階建、建築面積2464平方メートル、塔屋付
所有者国立大学法人東京大学
公開状況外観はキャンパス内から見学可(無料)。内部は現役の教育施設のため非公開。見学問い合わせは教養学部窓口へ

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/東京大学教養学部旧第一高等学校本館(時計台)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001842
文化遺産オンライン/東京大学教養学部旧第一高等学校本館(時計台)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/167152
東京大学/国の登録有形文化財 登録
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/b07_04_b.html
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 駒場博物館
https://museum.c.u-tokyo.ac.jp/
東京大学教養学部/駒場Ⅰキャンパスの見学等の申請手続きについて
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/contact/contact2/index.html
東京大学出版会/『東京大学駒場スタイル』特設サイト
https://www.utp.or.jp/special/komabastyle/

最終更新日: 2026.07.29