赤碕の街道に北面する廻船問屋の本宅

塩谷定好写真記念館主屋(しおたにていこうしゃしんきねんかんしゅおく)は、鳥取県東伯郡琴浦町赤碕にある明治39年(1906年)建築の町屋建築で、平成27年(2015年)11月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

建てたのは塩谷家5代目の久次郎。海運業の本店として街道沿いに構えた建物である。塩谷家は江戸中期から赤碕に住み、屋号を「塩屋」といった。4代目孫平は菊港を母港として蛭子丸を持ち、北前船の航路で米や海産物を商い、やがて北海道豊頃町に漁場を持つまでになる。久次郎はその跡を継いで米の仲買を営む塩谷商店を起こし、第4代赤碕町長を務め、赤碕駅の設置にも中心となって関わった。

構造は木造2階建、瓦葺、建築面積192平方メートル。棟は海岸沿いを東西に走る街道に沿って東西にのび、正面は北を向く。目を引くのは格子である。上下階の正面に、幅広で目の細かい格子が並ぶ。外壁は漆喰塗で、白い壁面と格子の対比が街道側の表情をつくっている。文化庁の解説も、この正面を町並景観の重要な存在として挙げる。

内部は商家としてかなり手が込んでいる。1階だけでなく2階にも座敷を多数配し、造作には銘木や螺鈿を用いる。塩谷家に伝わる記録では、1階と2階の双方に十畳の客間を置いており、この地方では珍しい構成だという。

登録が評価したもの

登録番号は31-0205、第82回登録である。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。この文言には意味がある。日本の建造物保護には二つの制度が並んでおり、両者は別物だからだ。

重要文化財や国宝の指定は、芸術上・歴史上とくに価値の高いものを選び出し、所有者に厳しい現状変更の制限を課す。一方の登録有形文化財は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた、より緩やかな制度である。原則として建設後50年を経た建物を対象とし、使いながら守ることを前提に設計されている。修理も改修も、活用も可能である。この建物は、その想定どおりに使われてきた。

同じ11月17日、この一区画にある5棟が同時に登録された。並べると年代の順序が見えてくる。

  • 米蔵 明治5年(1872年)
  • ギャラリー棟 明治7年(1874年)/もとは土蔵
  • 質蔵 明治12年(1879年)
  • 新蔵 明治35年(1902年)
  • 主屋 明治39年(1906年)

主屋がいちばん新しい。久次郎がこれを建てたとき、敷地を囲む土蔵群はすでに30年を経ていた。海の商いで蓄えた家が、最後に街道側の顔をつくった、という順番である。文化庁の解説は当初形式をよく残す点を評価しており、平成26年(2014年)の改修も、その姿を損なわずに建物を現役に戻した。

現地に向かう前に一つ。国の登録原簿の所在地は「大字赤碕1561」だが、記念館が公表する住所は「赤碕1568」となっている。いずれも赤碕商店街の同じ一角を指す。

写真家を育てた家

塩谷定好は明治32年(1899年)にこの家で生まれた。塩谷家7代目にあたる。彼は家業の経営権を関係者に譲り、写真に専念した道を選んでいる。愛用したのは大正期に流行した単玉レンズの小型カメラ「ヴェスト・ポケット・コダック」、通称ベス単。フードを外して軟調に描く手法は「ベス単のフードはずし」と呼ばれた。昭和元年(1926年)、『アサヒカメラ』創刊号の第1回月例コンテストで、作品《漁村》が1等に選ばれる。

海外での評価は遅れてやってきて、そして一気に高まった。昭和57年(1982年)、西ドイツ・ケルンの「フォトグラフィ1922-1982」展に出品してフォトキナ栄誉賞を受ける。没年である昭和63年(1988年)には、アメリカのヒューストンフォトフェストで個展が開かれ、全米各地を巡回した。作品はフランス国立図書館、ハンブルク工芸美術館、東京都写真美術館、横浜美術館などに収蔵されている。平成22年(2010年)に琴浦町名誉町民となり、生家は平成26年(2014年)4月26日、写真記念館として開館した。

階段を上がると、部屋ごとに使う木を変えていることに気づく。螺鈿を用いた床の間の前に立つと、この家の理屈が見えてくる。ここは商いにとって大切な相手を通す部屋だった。

開館時間は9時から16時と公表されているが、当面9時から14時に短縮された状態が続いている。遠方から向かうなら事前確認をおすすめしたい。休館日は火曜。入館料は一般300円、中学生以下無料、15名以上の団体200円、会員無料で、年間パスポートもある。館内の撮影可否は公表されていないため、受付で確認してからカメラを向けてほしい。開館時間内は米蔵でカフェが営業している。

行き方は簡単だ。JR山陰本線の赤碕駅から徒歩約20分。車なら菊港の「波しぐれ三度笠」像前にある琴浦町駐車場が使え、そこから徒歩約30秒で着く。大型バスは乗り入れできないため、事前に相談が必要になる。最寄りのバス停は荒神町。

Q&A

Q塩谷定好写真記念館主屋はどこにあり、見学できますか。
A鳥取県東伯郡琴浦町赤碕、旧街道沿いの赤碕商店街にあります。塩谷定好写真記念館として一般公開されており、火曜休館、入館料は一般300円です。
Q塩谷定好写真記念館主屋はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A明治39年(1906年)に塩谷家5代目久次郎が海運業の本店として建てました。平成27年(2015年)11月17日、登録番号31-0205で国の登録有形文化財(建造物)に登録されています。
Q塩谷定好写真記念館主屋は重要文化財や国宝とは違うのですか。
A違います。登録有形文化財は重要文化財・国宝の指定とは別の、より緩やかな制度です。原則50年を経た建物を対象とし、使いながら残すことを前提とするため、修理や改修の自由度が高くなっています。
Q塩谷定好写真記念館主屋へのアクセスと駐車場を教えてください。
AJR山陰本線赤碕駅から徒歩約20分です。車の場合は菊港の「波しぐれ三度笠」像前の琴浦町駐車場を利用でき、徒歩約30秒。大型バスの乗り入れはできないため事前相談が必要です。
Q塩谷定好写真記念館主屋の見どころはどこですか。撮影はできますか。
A上下階の正面に並ぶ格子、2階まで座敷を配した構成、部屋ごとに変えた銘木、螺鈿を用いた床の間などです。館内撮影の可否は公表されていないため、受付でご確認ください。

基本情報

名称塩谷定好写真記念館主屋(しおたにていこうしゃしんきねんかんしゅおく)
所在地鳥取県東伯郡琴浦町大字赤碕1561(記念館の公表住所は赤碕1568)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号31-0205
指定年平成27年(2015年)11月17日登録
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積192平方メートル 明治39年(1906年)建築、平成26年(2014年)改修
所有者特定非営利活動法人塩谷定好フォトプロジェクト
公開状況公開(塩谷定好写真記念館)。9時から16時、当面9時から14時に短縮。火曜休館、一般300円

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「塩谷定好写真記念館主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010882
塩谷定好フォトプロジェクト「塩谷定好写真記念館」登録有形文化財一覧
https://teiko.jp/museum.php
塩谷定好フォトプロジェクト「塩谷定好について」略歴・塩谷家
https://teiko.jp/profile.php
鳥取県 とっとり文化財ナビ「塩谷定好写真記念館」
https://db.pref.tottori.jp/bunkazainavi.nsf/bunkazai_web_view/FF1DA5EDF799B4BE49257F6C001B6120
琴浦町観光協会「塩谷定好写真記念館」
https://www.kotoura-kankou.com/art/shiotani_teiko/

最終更新日: 2026.08.21