塩谷定好写真記念館ギャラリー棟:明治の土蔵から芸術写真の殿堂へ
鳥取県東伯郡琴浦町の赤碕商店街のほぼ中央に位置する「塩谷定好写真記念館ギャラリー棟」は、明治7年(1874年)に建てられた土蔵を起源とする登録有形文化財です。かつて廻船問屋として栄えた塩谷家の蔵として使われていたこの建物は、昭和初期の「芸術写真」の巨匠・塩谷定好(しおたに ていこう)によって写真スタジオ兼店舗に改修され、現在は同氏の作品を展示するギャラリーとして公開されています。明治期の商家建築の趣を残しながら、日本の写真芸術の歴史を伝える唯一無二の空間です。
写真家・塩谷定好とは
塩谷定好(1899年~1988年)は、鳥取県東伯郡赤崎村(現・琴浦町)に生まれた写真家です。生家は菊港を母港とする廻船問屋を営む裕福な家庭で、幼少期に父から贈られたベスト・ポケット・コダックのカメラをきっかけに写真の世界へ入りました。大正8年(1919年)には地元赤碕で写真愛好家グループ「ベストクラブ」を創設し、88名もの会員を集めるなど、早くから山陰地方の写真文化を牽引する存在でした。
塩谷の作風は「芸術写真(ゲイジュツシャシン)」と呼ばれるピクトリアリズムの流れに属し、レンズフードを外したベスト・ポケット・コダックによるソフトフォーカス効果や、印画紙を湾曲させて現像する「デフォルメ」技法、油彩や顔料で印画を修正する独自の手法を駆使しました。山陰の海岸線や田園風景、子どもたちの姿を、絵画のような幻想的な写真作品に昇華させたその才能は、日本全国のみならず海外でも高く評価されました。
塩谷の影響を直接受けた写真家には、「砂丘の写真家」として世界的に知られる植田正治がいます。植田は塩谷のことを「神のような存在」と称えました。1979年以降、塩谷の作品はヨーロッパやアメリカを巡回する展覧会で紹介され、1982年には世界最大の写真展「フォトキナ」で名誉賞を受賞。現在、その作品はフランス国立図書館、ハンブルク美術工芸博物館、東京都写真美術館、スミソニアン国立アジア美術館など世界各地の著名な機関に収蔵されています。
ギャラリー棟の建築的特徴
ギャラリー棟は、主屋の東側に隣接して建つ木造2階建ての土蔵造建築です。切妻造妻入、桟瓦葺の屋根を持ち、外壁は漆喰塗りで仕上げられています。正面には吹放しの下屋(庇)が通り沿いに設けられ、主屋との調和のとれた外観が赤碕の町並み景観に重要な役割を果たしています。
明治7年(1874年)に蔵として建築され、戦後に塩谷定好自身の手により1階が写真店兼茶舗の店舗に、2階が写真スタジオに改修されました。小屋組には登梁(のぼりばり)形式が採用されており、山陰地方の伝統的な蔵建築の構造技法を今に伝えています。内部には昭和前期の写真スタジオの雰囲気が残されており、定好が作品制作に没頭した当時の空気を感じることができます。
登録有形文化財としての価値
平成27年(2015年)11月17日、ギャラリー棟は記念館の他の4棟(主屋・米蔵・質蔵・新蔵)とともに国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録にあたっては、主屋と調和した外観を持ち町並み景観に寄与する点が特に評価されました。
この建物は、明治初期に蔵として建てられ、戦後に店舗兼写真スタジオへと用途を変えながらも、基本的な構造と外観を維持してきた点で、建築の時代的変遷を物語る貴重な存在です。登録有形文化財制度は、平成8年の文化財保護法改正により、建設後50年以上を経過し、地域の歴史的景観に寄与する建造物を保存・活用するために設けられた制度であり、この建物はその趣旨に見事に合致しています。
見どころと魅力
ギャラリー棟では、塩谷定好の写真作品の企画展示が行われています。展示は年に約2回入れ替えられ、季節に合わせたテーマで構成されるため、訪れるたびに新たな作品との出会いがあります。白を基調とした和モダンな展示空間は、塩谷の幻想的な作品世界を引き立てる落ち着いた雰囲気に満ちています。
記念館全体としては、明治39年築の主屋も必見です。銘木や螺鈿細工を用いた座敷飾りなど、廻船問屋の繁栄を物語る質の高い意匠が随所に見られます。また、塩谷定好の生前の愛用品や生活道具も展示されており、芸術家としてだけでなく一人の人間としての定好の人柄に触れることができます。米蔵を改装したコミュニティカフェでは、落ち着いた雰囲気の中でコーヒーを楽しむことができ、ゆったりとした時間を過ごすことができます。
周辺情報
記念館が位置する赤碕地区は、江戸時代に北前船の寄港地として栄えた港町の面影を残すエリアです。記念館のすぐ近くにある菊港は、かつて年貢米の積み出しや廻船業の拠点として賑わった歴史ある港で、現在は世界的彫刻家・流政之氏による石彫「波しぐれ三度笠」が日本海を望んで立っています。
海岸沿いにある「鳴り石の浜」は、波の満ち引きに合わせて丸石が「カラコロ」と音を立てる全国的にも珍しい自然海岸です。「よく鳴る=良くなる」という語呂合わせから縁起の良い場所として知られ、石に願い事を書いて海に投げ込むと願いが叶うと言われています。国道9号線沿いの「道の駅ポート赤碕」では、赤碕漁港で水揚げされた新鮮な海の幸や、鳥取県中部名物の牛骨ラーメンを楽しむことができます。
歴史愛好家には、白鳳時代(7世紀)の寺院跡である国指定特別史跡「斎尾廃寺跡」がおすすめです。また、近隣の北栄町は漫画「名探偵コナン」の作者・青山剛昌氏の出身地で、「青山剛昌ふるさと館」やコナンのブロンズ像が点在する「コナン通り」など、ユニークな観光スポットが充実しています。
Q&A
- 開館時間と入館料を教えてください。
- 開館時間は9:00~17:00(最終入館16:30)です。入館料は一般300円、団体(15名以上)200円、中学生以下は無料です。休館日がありますので、訪問前に公式サイトまたは電話での確認をおすすめします。
- アクセス方法を教えてください。
- JR山陰本線「赤碕駅」から徒歩約20分(約2km)です。赤碕駅からバスを利用し「赤碕地区コミュニティセンター」バス停で下車することもできます。お車の場合は「琴浦町駐車場(三度笠前広場)」をご利用ください。なお、大型バスは乗り入れ不可のため、大型バスでのご来館は事前にご相談ください。
- 海外からの観光客でも楽しめますか?
- 館内の案内は主に日本語ですが、塩谷定好の写真作品は言葉を超えた芸術的な魅力を持っています。写真愛好家の方であれば、ヴィンテージプリントの美しさや歴史的なスタジオの雰囲気を存分にお楽しみいただけます。スタッフも海外からのお客様を温かくお迎えしています。
- おすすめの訪問時期はありますか?
- 一年を通じてお楽しみいただけますが、展示は年2回程度入れ替えがあり、季節ごとに異なる作品に出会えます。春や秋は赤碕の町歩きに最適な気候です。冬の日本海は荒々しい表情を見せ、塩谷定好が多くの名作を撮影した情景そのものを体感することができます。
- 館内での写真撮影は可能ですか?
- 撮影の可否は展示内容により異なる場合がありますので、ご来館時にスタッフにご確認ください。建物の外観や周辺の歴史的な町並みは、いつでも素晴らしい撮影対象となります。
基本情報
| 名称 | 塩谷定好写真記念館ギャラリー棟 |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物) 平成27年(2015年)11月17日登録 |
| 建築年 | 明治7年(1874年) |
| 構造・形式 | 木造2階建、土蔵造、切妻造妻入、桟瓦葺、外壁漆喰塗、小屋組は登梁形式 |
| 所有者 | 特定非営利活動法人塩谷定好フォトプロジェクト |
| 所在地 | 鳥取県東伯郡琴浦町大字赤碕1561 |
| 入館料 | 一般:300円/団体(15名以上):200円/中学生以下:無料 |
| アクセス | JR山陰本線「赤碕駅」より徒歩約20分、またはバス「赤碕地区コミュニティセンター」下車 |
| 駐車場 | 琴浦町駐車場(三度笠前広場)を利用 ※大型バス乗り入れ不可 |
参考文献
- 塩谷定好写真記念館ギャラリー棟 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/236498
- 塩谷定好写真記念館 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/塩谷定好写真記念館
- 塩谷定好 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/塩谷定好
- 塩谷定好写真記念館 — NPO法人塩谷定好フォトプロジェクト
- https://teiko.jp/museum.php
- 塩谷定好写真記念館 — 琴浦町観光協会
- https://www.kotoura-kankou.com/art/shiotani_teiko/
- 塩谷定好写真記念館 — とっとり文化財ナビ(鳥取県公式)
- https://db.pref.tottori.jp/bunkazainavi.nsf/bunkazai_web_view/FF1DA5EDF799B4BE49257F6C001B6120
- 「塩谷定好写真記念館」が登録有形文化財(建築物)へ登録されました! — 鳥取県琴浦町
- https://www.town.kotoura.tottori.jp/docs/2015071700023/
- Teikō Shiotani — Wikipedia (English)
- https://en.wikipedia.org/wiki/Teikō_Shiotani
- Teiko Shiotani Memorial Photo Gallery — Japan National Tourism Organization
- https://www.japan.travel/en/spot/2293/
- The experimental fine-art photographer from Japan's Tottori Prefecture — SIGMA SEIN
- https://www.sigma-global.com/en/our-community/sein/curator/TeikoShiotani/
最終更新日: 2026.03.03