住宅の顔をした銭湯

大社湯(第三鶴の湯)浴場及び主屋は、鳥取県倉吉市新町三丁目にある明治後期の公衆浴場建築で、平成22年(2010年)4月28日に国の登録有形文化財に登録された。

白壁土蔵群から本町通りを西へ進むと、観光地の密度がほどけて、ふつうの住宅が並ぶ通りに変わる。大社湯はその通り沿いに建っている。正面から見上げても煙突は目に入らず、東京の銭湯が二十世紀に取り入れたような唐破風の大屋根もなければ、間口いっぱいの庇もない。桟瓦葺の切妻屋根、控えめな間口、漆喰と木部。予備知識がなければ町家として通り過ぎてしまう。

その素っ気なさこそが登録の理由になっている。文化庁の記録は、住宅風の外観が周囲の景観と調和している点を、明治後期の公衆浴場の形態をよく保持していることと並べて記している。

建物は東西に棟を通し、切妻造桟瓦葺、建築面積は137平方メートル。構造欄には「木造平屋一部2階建」とあり、解説文は「木造2階建」と記す。二階が平面の一部にのみ載る建て方を、それぞれ別の側面から書いたものと読める。一階の西半部が浴場で、内部はさらに東西に分けて男湯と女湯とし、東半部と二階が住まいにあてられていた。

倉吉に最後まで残った銭湯

開業は明治40年(1907年)頃、当初の屋号は「第三鶴の湯」だった。南隣に出雲大社倉吉分院があることから、客のあいだで「大社湯」と呼ばれるようになり、通称がやがて正式な屋号となる。登録名称に二つの名が併記されているのはそのためである。

鳥取県内に現存する最古の銭湯であり、末期には倉吉市内で営業する唯一の銭湯でもあった。大正期には増築が行われ、昭和中期にも改修の手が入っている。平成28年(2016年)10月の鳥取県中部地震では倉吉の歴史的建造物が数多く被災したが、この建物は持ちこたえた。

営業を終えたのは令和4年(2022年)11月30日である。

建物は解体されず、登録有形文化財としての地位も保たれている。その価値は、珍しい建築形式にあるのではない。地方都市の銭湯が規格化される以前の姿が、まとまった形で残っている点にある。浴室の腰部には煉瓦が用いられ、内部はタイルで覆われる。営業していた頃の記録は、番台や床板、天井板の多くが当初のままだったと伝えている。

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号31-0157、第67回登録。告示は同年5月20日付である。所有者名は国のデータベースには記載されていない。

訪ねるときに

入浴はできない。内部に立ち入ることもできない。閉業以降、内部が一般公開された例はなく、建物は個人の所有と考えられる。訪問者に開かれているのは通りからの外観だけだが、この建築の要点を確かめるにはそれで足りる。

道の反対側に立って、まず屋根の線を追ってほしい。切妻の棟は通りに正対せず、通りと平行に走る。軒は低く下り、建物全体が隣家と同じ距離感で歩道に接している。そのうえで、住宅ではない痕跡を探す。入口の間口の広さ、西半分の壁面に開口が少ないこと。家族の住まいなら、そこに窓が欲しくなるはずの位置である。

公道からの外観撮影に問題はない。敷地内への立ち入り、窓からの覗き込み、近隣の住民が写り込む撮影は避けたい。生活の続いている通りである。

JR倉吉駅からは路線バス市内線の西倉吉方面行きで約12分、「赤瓦・白壁土蔵」下車。そこから白壁土蔵群まで徒歩約5分、大社湯はさらに西へおよそ100メートル、出雲大社倉吉分院の先にある。江戸期の豪商屋敷である重要文化財・倉吉淀屋も近い。打吹玉川重要伝統的建造物群保存地区は東へ歩いてすぐである。

単独で足を運ぶより、白壁土蔵群の散策に二十分ほど足すつもりで組み込むのがよい。

Q&A

Q大社湯(第三鶴の湯)は今も入浴できますか。
Aできません。令和4年(2022年)11月30日をもって営業を終了しました。建物は現存し、登録有形文化財としての登録も継続していますが、公衆浴場としての営業は行われていません。
Q大社湯が「第三鶴の湯」とも呼ばれるのはなぜですか。
A明治40年(1907年)頃の開業当初の屋号が「第三鶴の湯」でした。南隣に出雲大社倉吉分院があることから客が「大社湯」と呼ぶようになり、通称が正式な屋号に変わりました。文化財の登録名称には両方が併記されています。
Q大社湯はどこにありますか。倉吉駅からのアクセスは。
A倉吉市新町3-2293ほか、本町通りの西側にあります。JR倉吉駅から路線バス市内線西倉吉方面行きで約12分、「赤瓦・白壁土蔵」下車、白壁土蔵群まで徒歩約5分、そこからさらに西へ約100メートルです。
Q大社湯(第三鶴の湯)は建物のどこが評価されて登録されたのですか。
A住宅風の外観が周囲の景観と調和している点と、明治後期の公衆浴場の形態を保持している点です。一階西半部を浴場とし内部を男湯と女湯に二分、東半部と二階を居住部分とする構成が残っており、平成22年に「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録されました。
Q大社湯の内部見学や撮影はできますか。
A内部は公開されておらず、建物は個人の所有と考えられます。公道からの外観撮影は差し支えありませんが、敷地内への立ち入りはご遠慮ください。生活の場が続く住宅街です。

基本情報

名称大社湯(第三鶴の湯)浴場及び主屋
所在地鳥取県倉吉市新町3-2293他
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 31-0157(第67回登録)
指定年平成22年(2010年)4月28日登録(告示 同年5月20日)
員数1棟
寸法木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積137平方メートル
所有者国のデータベースに記載なし
公開状況非公開(2022年11月30日営業終了。外観のみ公道から見学可)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)大社湯(第三鶴の湯)浴場及び主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008160
文化遺産オンライン 大社湯(第三鶴の湯)浴場及び主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/168881
倉吉観光情報 白壁土蔵群・円形劇場周辺
https://www.kurayoshi-kankou.jp/kurayoshi_area/shirakabedozogun/
倉吉文化財さんぽ(PDF)倉吉観光MICE協会
https://www.kurayoshi-kankou.jp/wp-content/uploads/2024/07/bunkazai_sanpo.pdf

最終更新日: 2026.08.21