建築面積1.9平方メートルの文化財

丸井家住宅待合及び塀・袖垣は、鳥取県倉吉市越中町にある大正5年頃(1916年頃)の茶庭の建築で、平成29年(2017年)10月27日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。待合そのものの建築面積は1.9平方メートルしかない。

畳一畳よりわずかに広い、といった程度の広さである。

この登録は三つの要素をひとまとめにしている。敷地東辺の中央、茶室の東南に、木造平屋建・鋼板葺の待合が建つ。そこから南北へ、瓦葺の木造の塀が延長11メートル分延びる。北の端には竹製の袖垣が3.8メートル。袖垣とは、塀や建物から袖のように短く突き出す仕切りのことを指す。この三点で一件の登録物件を構成しているため、物置より小さい建物が国のデータベースに名を連ねることになった。

北から順に並びを追うと、袖垣、腰掛待合、雪隠となり、いずれも同じ鋼板葺の屋根の下に収まる。茶の湯を知る人であれば、この配列に見覚えがあるはずだ。装飾のための配置ではなく、茶事の道具立てそのものだからである。

待合という装置

正式な茶事で、客はいきなり茶室へ上がるわけではない。まず外露地に入って待ち、亭主の迎付を受け、露地を通り、蹲踞で手を清め、そのうえで躙口から身をかがめて入る。待合はその「待つ」時間の場所である。腰掛は客が庭に向かって並んで座るように据えられ、袖垣が先の景色を遮る。隣の雪隠も同じ段取りに属していて、多くの茶庭では飾雪隠として清められたまま使われず、亭主の準備が整っていることを示す役割を負う。

粗い材を、意図して選ぶ

文化庁の解説は小屋の構法を名指ししている。野地板は杉皮。垂木は皮を付けたままの丸太。その間に渡す小舞も製材した細木ではなく丸太を使う。小さな附属屋で予算を切り詰めるときに大工が選ぶ手ではない。山中の庵を思わせる風合いを狙うときに、茶の心得のある造り手が指定する材である。

登録は三つの基準のうち第一、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」による。登録番号は31‐236、第88回登録にあたる。同じ日に、同じ屋敷の主屋、離れ、土蔵、茶室、そして街路に面する別の塀が、あわせて登録されている。

倉吉の茶と丸井家

倉吉市の資料は、丸井家を大正から昭和初期にかけて市内の茶道の中心をなした家として記録している。大正5年建築の主屋は、南北に長い長方形敷地の西北隅を占める木造二階建・瓦葺で、建築面積は93平方メートル。西側と東側で棟の位置をずらしてあるため、正面は二つの塊が重なったように見える。内部は数奇屋風の繊細な意匠でまとめられている。

茶室は京都の茶人・平井仁兵衛の茶室の写しと伝えられるが、これは記録として確定した事実ではなく、伝承として受け継がれてきたものである。外壁を赤く塗った草庵茶室で、この赤は、敷地北面の街路側に立つ別登録の塀の赤色と呼応している。要約のなかで混同されやすい点なので断っておくと、街路側の赤い塀と、本件に含まれる塀は別の構造物である。前者は公道に面し、後者は庭の内側、敷地の東辺に沿う瓦葺の11メートルを指す。

庭の背後には打吹山が控える。倉吉の市街を南から抱え込む山で、かつては打吹城が置かれていた。庭園はこの山を借景として構成されており、視線は塀で終わらず、1キロ先の稜線まで抜けていく。

越中町を歩く

丸井家住宅は個人の所有で、庭園・茶室・待合を含む内部は公開されていない。倉吉市も公開状況を「内部非公開」と明記している。訪問者にできるのは、屋敷の北側の街路を歩いて正面の景観を眺めることである。腰を焼杉の竪板張とし、上部を赤い真壁とした塀に、貫格子を入れた菱形の窓が開き、中央に潜戸がつく。倉吉のなかでも印象に残る街路の一角だ。公道からの撮影は差し支えないが、庭には入れないため、この記事で扱った待合は「読んで知る」対象にとどまる。

越中町は倉吉の旧商家町の東寄りに位置する。JR倉吉駅から市内線バスで「福吉町」まで約14分、下車後徒歩6分。車の場合は赤瓦・白壁土蔵群の駐車場が使いやすい。

周辺で公開されているもの

徒歩5分で、倉吉市打吹玉川伝統的建造物群保存地区に入る。平成10年(1998年)選定、平成22年(2010年)に範囲を拡大した商家町で、玉川の水路沿いに白壁の土蔵が続き、屋根には赤い石州瓦がのる。店やカフェとして開かれている建物も多く、水路に架かる石橋は鳥取県内でもよく撮影される場所である。

この庭が借景に取り込む打吹山の麓には打吹公園があり、4月の桜と11月の紅葉で知られる。仲ノ町の倉吉博物館には伯耆国庁跡の出土資料や、国の登録有形民俗文化財である倉吉の千歯扱き関連資料が収められている。茶の湯という切り口に関心があれば、倉吉観光マイス協会が刊行する文化財の散策地図が便利で、数ブロックの範囲にどれだけの登録建造物が残っているかが一目でわかる。

Q&A

Q丸井家住宅待合及び塀・袖垣は見学できますか。
Aできません。丸井家住宅は個人所有で、庭園と内部は非公開です。倉吉市も公開状況を「内部非公開」としています。待合は庭の内側にあるため外からは見えませんが、敷地北面の街路に面した赤い塀は公道から眺められます。
Q丸井家住宅待合及び塀・袖垣には具体的に何が含まれますか。
A三つの要素が一件として登録されています。木造平屋建・鋼板葺、建築面積1.9平方メートルの待合。その南北に延びる木造瓦葺の塀、延長11メートル。そして竹製の袖垣、延長3.8メートル。いずれも敷地東辺の中央に位置します。
Q丸井家住宅の茶庭にある待合は、何のための建物ですか。
A茶事で客が亭主の迎付を待つための腰掛です。客は外露地の待合に座って待ち、迎えを受けてから露地を進み、蹲踞で清めて茶室に入ります。袖垣が先の眺めを遮り、隣接する雪隠とあわせて露地の設備一式を構成します。
Q丸井家住宅待合及び塀・袖垣はいつ登録され、同時に何が登録されましたか。
A平成29年(2017年)10月27日、登録番号31‐236、第88回登録です。同じ日に丸井家住宅の主屋、離れ、土蔵、茶室、および街路側の塀が登録され、屋敷全体で六件が国の登録有形文化財となりました。
Q丸井家住宅のある越中町へは倉吉駅からどう行きますか。
AJR倉吉駅から市内線バスで「福吉町」下車、所要約14分。停留所から徒歩6分ほどです。旧商家町の東端にあたり、打吹玉川伝統的建造物群保存地区までは徒歩5分の距離です。

基本情報

名称丸井家住宅待合及び塀・袖垣(まるいけじゅうたくまちあいおよびへい・そでがき)
所在地鳥取県倉吉市越中町2149
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号31‐236
指定年平成29年(2017年)10月27日登録(第88回登録)
員数1棟
寸法待合=木造平屋建、鋼板葺、建築面積1.9平方メートル/塀=木造、瓦葺、延長11メートル/袖垣=竹製、延長3.8メートル
所有者個人(国のデータベースには所有者名の記載なし)
公開状況内部非公開。庭園への立ち入り不可。街路側の塀のみ公道から見学可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「丸井家住宅待合及び塀・袖垣」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012017
文化遺産オンライン「丸井家住宅待合及び塀・袖垣」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/245738
文化遺産オンライン「丸井家住宅主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/222844
倉吉市「上灘・成徳・明倫地区の文化財」
https://www.city.kurayoshi.lg.jp/gyousei/div/kyouiku/bunkazai/1/1/5/
倉吉市「国登録文化財」
https://www.city.kurayoshi.lg.jp/4237.htm
倉吉観光マイス協会「倉吉文化財さんぽ」(PDF)
https://www.kurayoshi-kankou.jp/wp-content/uploads/2024/07/bunkazai_sanpo.pdf

最終更新日: 2026.08.21