淨願寺鐘楼 ― 総ケヤキで組んだ村の鐘の楼

和歌山県紀の川市東国分、淨願寺の本堂の南西に、切石を積んだ基壇の上へ小さな鐘楼が立ち上がる。面積はわずか9.0平方メートル。それでも、この鐘楼は六棟の登録建造物のなかでもとりわけ丁寧に造られた一棟である。理由は材にある。骨組みも装飾も、楼の全体がケヤキで仕上げられているのだ。堅く、木目の詰んだケヤキは、強さと温かな杢目ゆえに大工が珍重してきた材である。

鐘楼は寺の梵鐘を吊る建物で、淨願寺ではその鐘が今も公の役割をもつ。地域に開かれた寺を掲げるこの寺院は、夏になると人々をここに集めて平和の鐘つきを行う。建物は遺物ではなく、一年の節目に働く一部なのだ。平面は方一間、四方それぞれ一間で、切妻造本瓦葺の屋根を載せる。

近くで見る木組み

鐘楼は、ゆっくり一周して見たい。切石を組んだ基壇に据えられ、四本の角柱が礎盤の上から四方へわずかに開いて立つ。四方転びと呼ぶこの技法は、揺れに対して骨組みを踏ん張らせる。腰貫、飛貫、虹梁形の頭貫という三段の貫が柱を固め、継ぎ目には大斗肘木が載る。妻飾には虹梁・大瓶束・笈形を組み、軒は二軒の疎垂木で、垂木をゆったり並べる。

彫刻は、空を背に見える位置に集められている。蟇股と懸魚はともに彫りで飾られ、虹梁には形のある絵様が刻まれる。簡素な切石の基壇に対して、その上の杢目あるケヤキは、小さな楼に思いがけない豊かさを与えている。

登録と注目点

鐘楼は令和6年(2024年)12月、登録有形文化財となった。歴史的景観への寄与で認められた淨願寺の六棟の一つである。江戸後期という年代は境内でも古い部類に入り、その質の高さは、寺が小さな堂宇にまで注いだ手間を示している。本堂が量塊で集落を束ねるのに対し、鐘楼は音と造作で寄与する。

訪れる人には、下から見上げる楽しみがある。基壇のまわりを歩き、四方転びの柱や組物が光のなかでどう見え方を変えるかを追い、妻に目を上げて彫られた蟇股と懸魚を探す。切石の基壇と杢目あるケヤキの骨組みは境内から容易に味わえ、夏の鐘つきに居合わせれば、本来の姿で鳴る鐘を聞くこともできる。

Q&A

Q材の特徴は何ですか。
A楼の全体がケヤキで造られています。堅く木目の詰んだケヤキは強さと杢目で珍重される材で、骨組みも彫刻もケヤキで通すことが上質の証です。
Q柱が外へ傾いているのはなぜですか。
A四本の柱を四方へわずかに開いて立てる四方転びという技法です。骨組みを踏ん張らせ、細く高い建物を安定させます。
Q鐘は今も使われますか。
Aはい。地域に開かれた寺として、夏に人々を集めて平和の鐘つきを行っており、鐘楼は現役で使われています。
Qいつ頃の建築ですか。
A江戸後期、およそ1751年から1830年の建立で、境内に残る建物のなかでも古い部類に入ります。
Qどの彫刻を見ればよいですか。
A妻の蟇股と懸魚、そして軒の絵様を施した虹梁です。いずれも杢目あるケヤキで彫られています。

基本情報

名称淨願寺鐘楼(じょうがんじしょうろう)
所在地和歌山県紀の川市東国分812他
指定区分登録有形文化財(建造物)/令和6年(2024年)12月3日登録(登録番号 30-0382)
年代江戸後期(1751〜1830年頃)
構造木造(総ケヤキ造)、切石積基壇上、瓦葺、面積9.0平方メートル/1棟
所有者宗教法人淨願寺
公開状況境内に所在。外観は見学可、鐘は夏の鐘つき行事で撞かれる

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)淨願寺鐘楼
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015221
淨願寺 公式サイト
https://www.joganji.org

最終更新日: 2026.06.25