石と瓦と土による総延長46メートル
和田家住宅塀は、和歌山県和歌山市和歌浦中にある明治38年頃(1905年頃)築造の土塀で、平成19年(2007年)7月31日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。同じ敷地の土蔵を基点として南側へ17メートル、北側へは折れ曲がりながら29メートル、あわせて総延長46メートルが延び、高さは約2.3メートルを測る。
塀が単独で文化財台帳に載る例は多くない。この塀は主屋・土蔵と並んで固有の登録番号を持つ。理由は歩けば判る。訪れた者が実際に長く接するのは主屋の正面ではなく、街区に沿って延びるこの壁面のほうだからである。
和歌の浦は神亀元年(724年)の聖武天皇行幸以来の名勝であり、地域の文化財といえば社殿や石橋、干潟といった対象が想起される。商店街に面する住宅の塀はそれらとは性格を異にする。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。景観への寄与という一点で、この塀は主屋と同格に扱われている。
石材が土地のものであること
構築材は結晶片岩と瓦、そして土。頂部には桟瓦を載せて雨仕舞とする。結晶片岩は紀伊半島を東西に走る三波川変成帯の岩石で、和歌山では緑灰色の色調から青石と呼ばれる。片理に沿って板状に割れる性質があり、そのまま積石として使いやすい。石の割れ方が、そのまま塀の表情を決めている。
同じ石は近隣にも見える。和歌浦天満宮の石垣と石段はこの青石を用いており、その色を一度覚えると、周辺の宅地の塀や畑の境にも同じ石が使われていることに気づく。和田家の塀は、地域に共有された石積みの作法を住宅規模で実践したものといえる。通りに対して違和感なく収まっているのは、その素性による部分が大きい。
石に瓦と土を交ぜる手法にも意味がある。焼成された瓦片は硬く平坦で寸法が揃うため、不定形な片岩の隙間を埋め、積みの水平を整える役割を果たす。土がそれらを繋ぐ。結果として、灰色の石と赤みを帯びた瓦が縞状に入り混じる壁面が生まれる。単一材料では得られない肌合いである。
端から端まで歩いて見る
国指定文化財等データベースの解説文は、この塀について「石の積み方に変化を持たせ、意匠的にも工夫が見られる」と評価する。46メートルを同一のパターンで通さず、区間ごとに積み方を変えている。記載はこれを不揃いではなく設計上の判断として扱っている。
実際に確かめるなら、南側17メートルから土蔵の脇を抜けて北側へ歩くとよい。石材の大きさと向きが区間によって移り変わる。ほぼ水平の層をなして平積みする箇所があれば、より不定形に据えて瓦片で目地を詰める箇所もある。高さ2.3メートルは目線を越えるため、塀は立体ではなく一枚の面として認識され、積み方の変化は織物の柄が変わるように読める。
北側の折れも見どころとなる。屈曲部では二面が角度をもって取り合い、片岩を用いた石積みでは処理の難しい部分にあたる。直進部の要領がそのままは通用しないため、施工者の技量が最も表れる箇所である。
これらはすべて公道から観察できる。和田家住宅は現在も個人の住宅として使われており、主屋・土蔵・塀のいずれも内部公開はなく、拝観料・拝観時間の設定もない。そのなかで塀だけは間近で見られる唯一の対象である。午後の斜光が当たる時間帯は片岩の面が陰影を拾い、積みの変化が判りやすい。撮影は公道上から行い、敷地内に立ち入らないこと。道幅が狭いため三脚は避けたい。
交通は、JR和歌山駅または南海和歌山市駅から和歌山バスの新和歌浦行・雑賀崎方面行で20〜25分ほど、「権現前」または「不老橋」下車。敷地は両停留所の間の明光通りに面する。玉津島神社、不老橋、和歌浦天満宮、紀州東照宮はいずれも徒歩圏で拝観可能であり、一帯を一時間ほど歩く行程が組みやすい。
Q&A
- 和田家住宅塀は間近で見ることができますか。
- 公道から見学できます。塀は敷地境界として道路沿いに延びているため、私有地に立ち入らずに近距離で観察できます。ただし和田家住宅そのものは個人の住宅で、主屋・土蔵・塀のいずれも内部は非公開、拝観料・拝観時間の設定もありません。
- 和田家住宅塀は何でできていますか。
- 結晶片岩と瓦、土で構築され、頂部に桟瓦を載せています。結晶片岩は三波川変成帯の岩石で、和歌山では緑灰色の色調から青石と呼ばれます。同じ石材は近隣の和歌浦天満宮の石垣にも用いられています。
- 和田家住宅塀の長さと高さはどのくらいですか。
- 総延長46メートルです。内訳は土蔵の南側へ17メートル、北側へ折れ曲がりながら29メートル。高さは約2.3メートルです。
- 和田家住宅塀のような塀が登録有形文化財になるのはなぜですか。
- 登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」に該当するためです。国指定文化財等データベースは、石の積み方に変化を持たせた意匠上の工夫と、街路景観を構成する存在としての価値を指摘しています。登録番号は30-0118、登録年月日は平成19年7月31日で、主屋・土蔵と同日です。
- 和田家住宅塀の周辺で拝観できる場所はありますか。
- 玉津島神社、不老橋、和歌浦天満宮、紀州東照宮がいずれも徒歩圏にあり、拝観できます。和歌の浦の干潟や片男波も近接しています。一帯は平成29年(2017年)に日本遺産「絶景の宝庫 和歌の浦」として認定されています。
基本情報
| 名称 | 和田家住宅塀(わだけじゅうたくへい) |
|---|---|
| 所在地 | 和歌山県和歌山市和歌浦中1-2-20 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 30-0118、第55回登録 |
| 指定年 | 平成19年(2007年)7月31日登録 |
| 員数 | 1棟(国指定文化財等データベースの表記による) |
| 寸法 | 土塀、瓦葺、総延長46メートル(南側17メートル、北側折曲り29メートル)、高さ約2.3メートル/明治38年頃(1905年頃)築造 |
| 所有者 | 個人(国指定文化財等データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開。塀は前面公道から間近に見学可 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「和田家住宅塀」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006246
- 文化庁 国指定文化財等データベース「和田家住宅土蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006245
- 和歌山県教育委員会「国登録有形文化財」
- https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/500700/mokuroku/d00155458.html
- 文化庁 日本遺産ポータルサイト「絶景の宝庫 和歌の浦」
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story046/
- 和歌山市 日本遺産「絶景の宝庫 和歌の浦」
- https://www.city.wakayama.wakayama.jp/kankou/kankouspot/1003249.html
最終更新日: 2026.08.10