旧農林省蚕糸試験場新庄支場とは

旧農林省蚕糸試験場新庄支場は、山形県新庄市十日町にある昭和9年(1934年)開設の蚕糸試験施設で、庁舎や蚕室など10件が平成25年(2013年)3月29日に登録有形文化財(建造物)に登録された。

敷地は約10ヘクタール。南端の表門をくぐると、正面に玄関ポーチを構えた庁舎が建ち、その左右に蚕種検査及び催青発蛾促進室と蚕種冷蔵室及び蚕種保護室が対をなして並ぶ。庁舎の背後には木造二階建の蚕室が4棟、北へ向かって連なる。棟と棟のあいだは、屋根と外壁で囲われた渡廊下がつなぐ。南端の門から北端の第五蚕室まで、直線にしておよそ150メートルである。

建物の間にはクワ、ケヤキ、サクラが植わっている。試験場の桑園に由来する木が多く、平成26年(2014年)1月には「原蚕の杜のクワの大木」が新庄市の天然記念物に指定された。

現在の所有者は新庄市で、施設は「新庄市エコロジーガーデン『原蚕の杜』」として開かれている。令和7年(2025年)1月31日に道の駅の登録を受け、同年11月に道の駅新庄エコロジーガーデン原蚕の杜としてリニューアルした。登録有形文化財を10件そのまま使っている道の駅は、全国でもほとんど例がない。

雪国に置かれた蚕糸試験場 ― 沿革

昭和9年(1934年)12月、農林省の蚕業試験場福島支場新庄出張所として開設された。建物の整備が進んで昭和11年(1936年)から事業を始め、昭和12年(1937年)2月に蚕糸試験場福島支場新庄出張所、同年5月に蚕糸試験場新庄支場と改称している。3か月で名称が二度変わったのは、出張所から支場へ格が上がったためである。

昭和33年(1958年)10月に蚕糸試験場新庄原蚕種製造所、昭和43年(1968年)4月に蚕糸試験場新庄原蚕種試験所と改称した。原蚕種とは、養蚕農家に配る蚕の卵をつくる、もとになる親の系統をいう。新庄支場の主な仕事は、この原蚕種を寒冷地で安定して維持すること、そして雪の下で越冬する桑の栽培試験だった。新庄の人が長らくこの施設を「原蚕種」と呼びならわしてきたのは、その時期の名残である。

昭和58年(1983年)の行政改革で研究室へ改組され、その後も組織改編が続いた。「東北農業試験場畑地利用部畑作物栽培生理研究室」を最後の名称として、平成12年(2000年)3月に閉所している。

跡地は平成14年(2002年)2月に国から新庄市へ譲与され、同年9月に新庄市エコロジーガーデン「原蚕の杜」として開園した。譲与の対象が土地と建物だけでなく樹木を含んでいたことが、敷地の風景をそのまま残す結果になっている。

10件が登録有形文化財になるまで

新庄市は平成22年度(2010年度)から登録の準備を進め、平成24年(2012年)2月22日に文化庁へ書類を提出した。同年7月20日に文化審議会文化財分科会へ諮問され、8月2日の第2専門調査会を経て、9月21日に答申が行われている。登録されたのは翌平成25年(2013年)3月29日で、第74回登録にあたる。登録番号は庁舎の06-0135から表門及び塀の06-0144まで連番で振られた。

10件の内訳は、事務と蚕種を扱う4棟(庁舎、蚕種検査及び催青発蛾促進室、蚕種冷蔵室及び蚕種保護室、宿直及び小使室)、蚕を飼った4棟(第一蚕室、第二蚕室、第四蚕室、第五蚕室)、それらを結ぶ渡廊下及び便所、そして敷地の正面を構成する表門及び塀である。

適用された登録基準は、いずれも第一号の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」だった。個々の建物が突出して凝った造りだから登録されたのではない。蚕糸試験場が発足した時期の主要な建物が、配置と樹木ごとまとまって残っている点が評価されている。全国に10か所あった国の蚕糸試験場の跡地のうち、建物群と当時の環境が揃って残るのはここだけとされる。

敷地の歩き方

見学は南の表門から入るのが分かりやすい。門柱の胴に張られたスクラッチタイルを確認してから北へ進むと、正面に庁舎が現れる。庁舎の展示室には蚕の標本と飼育道具、新庄出身の農学博士で新庄市名誉市民でもある平塚英吉に関する資料が置かれている。

庁舎の西隣が蚕種検査及び催青発蛾促進室、東隣が蚕種冷蔵室及び蚕種保護室。この2棟は屋根も外壁も庁舎とよく似ていて、正面の景観をひとまとまりに見せている。庁舎の裏手へ回ると、宿直及び小使室、そこから北へ4棟の蚕室が続く。

蚕室の棟には換気塔が乗っている。4棟とも建築面積は約300平方メートルで、外から見ると同じ形に見えるが、暖房の有無や地下貯桑室の位置が棟ごとに違う。差が分かるのは、換気塔の形と、一階の外壁の仕上げである。

渡廊下は建物をつなぐ通路でありながら、外壁で囲われている。雪の日でも棟から棟へ濡れずに移動できる造りで、この敷地が雪国にあることを最もはっきり示す部分といえる。

見学案内

開園時間は午前9時から午後5時。入園料は無料で、駐車場も無料である。休園日は火曜日と年末年始(12月29日から1月3日)。道の駅としての休憩・情報発信施設とトイレは24時間利用できる。駐車場は小型145台(冬期は102台)、大型11台を備える。

JR新庄駅からは車でおよそ7分。東北中央自動車道(尾花沢新庄道路)の新庄北インターチェンジからは10分ほどである。駅からレンタサイクルを使う人もいる。徒歩で向かうには距離があるので、車か自転車を勧めたい。

敷地内は自由に歩けるので、10件すべての外観を近くから見ることができる。ただし内部に入れるかどうかは棟ごとに違う。庁舎の展示室は無料で公開されている。第一蚕室、第四蚕室、第五蚕室は貸室や店舗として使われていて、営業時間内であれば内部に入れる。蚕種検査及び催青発蛾促進室と宿直及び小使室は申込制の貸室で、利用者以外は内部に立ち入れない。蚕種冷蔵室及び蚕種保護室と渡廊下及び便所は通常非公開である。

貸室の使用料は1時間あたり、宿直及び小使室の研修室が110円、第一蚕室の多目的ホールが270円、同2階の文化交流スペースが340円、蚕種検査及び催青発蛾促進室の食品加工研修室が250円。いずれも事前の申し込みが必要で、問い合わせは電話(0233-29-2122)で受け付けている。

撮影は屋外では自由にできる。貸室や店舗の内部を撮る場合は、その場の利用者や店舗に一声かけてほしい。料金と時間は変わることがあるので、訪問前に新庄市または施設の公式サイトで確認することを勧める。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 旧農林省蚕糸試験場新庄支場庁舎
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009415
文化庁 国指定文化財等データベース 旧農林省蚕糸試験場新庄支場表門及び塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009424
新庄市 登録有形文化財について
https://www.city.shinjo.yamagata.jp/k001/020/010/030/030/9635.html
新庄市 沿革
https://www.city.shinjo.yamagata.jp/k001/020/010/030/020/6467.html
新庄市 新庄市エコロジーガーデン「原蚕の杜」
https://www.city.shinjo.yamagata.jp/g/kanko/020/010/010/
新庄市 施設概要
https://www.city.shinjo.yamagata.jp/k001/020/010/030/010/6468.html
山形県 やまがた景観物語 人と農の融合 エコロジーガーデン「原蚕の杜」
https://keikan.pref.yamagata.jp/vp_041/
道の駅新庄エコロジーガーデン原蚕の杜 施設概要
https://michinoeki-eg.jp/facility/

最終更新日: 2026.09.14

基本情報

名称旧農林省蚕糸試験場新庄支場
所在地山形県新庄市十日町字上トウメキ6000-1
所有者新庄市
指定登録有形文化財 10件
座標38.78109, 140.31054