龍王を祀る殿堂
善寳寺のもっとも奥、本堂の背後の小高い地に龍王殿が立つ。ここは、この寺が寺としてある理由の核心にあたる。山形県鶴岡市の西に開く曹洞宗の善寳寺は、幾世紀にもわたって龍神様の寺であり、日本海沿岸の船乗りや漁家の信仰を受けてきた。その信仰を納めるのが、この殿である。
建物は独特な平面を持つ。龍王殿と開山堂を横に並べ、そのあいだに、皇族の一家である有栖川宮家に連なる霊牌所をつくる。構造の中心は江戸時代末期の天保4年(1833年)にさかのぼり、昭和後期のおよそ1966年から1989年にかけて大きな改修が行われた。
登録の理由
龍王殿は国の登録有形文化財で、平成27年(2015年)11月17日に善寳寺の5棟とともに登録された。登録基準は「造形の規範となっているもの」である。
屋根は入母屋造で、茅葺形に仕上げた銅板で葺く。正面には軒唐破風付の向拝を設け、その上に千鳥破風を二連並べる。内外ともに彫刻と彩画で飾る。二棟を並べた平面、特色ある屋根、そして密な装飾。この組み合わせが、境内の他の堂宇からこの殿を際立たせ、他に類を見ない華やかな性格を与えている。その点が登録の評価につながっている。
意匠は装飾であると同時に意味を担う。この殿は海底の龍宮を模したと伝えられ、屋根は海のうねりを思わせる形にかたどられる。組物には、龍になろうと滝を登る鯉、鯱、波しぶき、雲、草花が彫られ、海が建物そのものを貫いている。
見どころ
下から近づき、屋根の稜線が周囲の緑に映える様子を眺めてほしい。その曲線は動く水を思い起こさせるために生まれ、軒の組物に彫られた鯉は登りの途中の姿で示される。滝を登りきった鯉は龍になるという古い言い伝えを踏まえた造形である。海と、その変化のさまが、岸から遠く離れた丘の上の殿に組み込まれている。
龍王殿には、その歴史の大半を通じてもうひとつの特色があった。内部の尊体が長く閉ざされていたことである。平成28年(2016年)、寺の開基とされる妙達上人の生誕1150年を記念して、内部の尊体が史上初めて開帳された。その機を境に内部が拝観できるようになり、いまの参詣者は、かつて外からしか知られなかった殿にまで足を運べる。
Q&A
- この殿の平面はどこが独特なのですか。
- 龍王殿と開山堂を横に並べ、そのあいだに有栖川宮家に連なる霊牌所を設けます。この三つを組み合わせた構成が、境内の建物のなかでも際立っています。
- なぜ屋根が波のように見えるのですか。
- 海底の龍宮を模したと伝えられ、屋根は海のうねりを思わせる形にかたどられています。龍になろうとする鯉や波しぶき、雲の彫刻が、海の意匠を建物に広げています。
- 内部を見ることはできますか。
- 内部の尊体は平成28年(2016年)、寺の開基とされる妙達上人の生誕1150年に際して初めて開帳され、以後拝観できるようになりました。訪問前に、現在の拝観条件を寺へご確認ください。
- 殿は境内のどこにありますか。
- 本堂の背後の小高い地、境内でもっとも奥まった高い場所に建ちます。門をくぐり、石段を上った先にあたります。
基本情報
| 名称 | 善寳寺龍王殿(ぜんぽうじりゅうおうでん) |
|---|---|
| 所在地 | 山形県鶴岡市下川字関根100-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(平成27年〔2015年〕11月17日登録) |
| 登録基準 | 造形の規範となっているもの |
| 年代 | 天保4年(1833年)。昭和後期(1966〜1989年頃)に改修 |
| 構造 | 木造平屋建、銅板葺、建築面積約90㎡ |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | 宗教法人善寳寺 |
References
- 文化庁 国指定文化財等データベース:善寳寺龍王殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010728
- 曹洞禅ネット(曹洞宗公式):善寶寺 龍王殿ご開帳のご案内
- https://www.sotozen-net.or.jp/gyojiannai/20160805
- 鶴岡市観光協会:龍王尊 善寳寺
- https://www.tsuruokakanko.com/spot/310
最終更新日: 2026.07.11