建築面積36平方メートルという規模 ― 洋館が担った役割
周南市市長公舎洋館は、山口県周南市慶万町にある大正15年(1926)竣工の木造平屋建で、平成20年(2008)10月23日に国の登録有形文化財に登録された建造物である。現在は市の呼称に合わせて「旧市長公舎」と称され、建設当初は徳山海軍燃料廠の廠長官舎として建てられた。
登録上の建築面積は36平方メートル。内部は玄関、応接間、便所からなる。生活の場は一切含まれていない。
居室のすべては東に続く和館側にあり、そちらは建築面積238平方メートルで、同じ日に別番号で登録されている。つまりこの洋館は住宅の一部というより、住宅が来客に向ける顔の部分だけを切り出した構成物と考えたほうが実態に近い。
竣工は大正15年2月24日。発注者にあたる徳山海軍燃料廠は、明治38年(1905)に徳山へ誘致された海軍煉炭製造所を前身とし、大正10年(1921)に燃料廠へ改組されている。周南市の解説は、この改組と官舎新築を結びつけて説明する。廠長職が少将の任にあたることとなり、将官級にふさわしい官舎が必要になったためと考えられる、という理路である。周辺には将校官舎や集会所といった海軍関連施設が配されていたが、現在それらの痕跡はない。
設計者は特定されていない。山口県の文化財データベースは海軍呉鎮守府建築課の手によるものと考えられる、と記すにとどまる。
ひとつづきの建物が二件に分かれた理由
登録有形文化財は、平成8年(1996)の文化財保護法改正で創設された制度である。国宝・重要文化財の指定が強い規制と厚い保護を伴うのに対し、登録は届出制を基本とし、外観を変更する際に届け出れば足りる。おおむね築50年以上の建造物を広く対象とし、使い続けることを前提に設計された仕組みといってよい。
平成20年の登録にあたり、審査は連続する一棟の建物を二件に分けて扱った。西側の洋館部分が登録番号35-0062、登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。東側の和館部分が35-0063、基準は「造形の規範となっているもの」。周南市は、洋館部分と和館部分でそれぞれ特徴が異なるため二つに分けて登録を受けた、と説明している。
洋館に与えられた景観基準の重みは、昭和20年(1945)の徳山空襲を踏まえると見えてくる。5月10日、B29の編隊が燃料廠を集中的に攻撃した。7月27日には市街地が標的となった。この二度の空襲で旧徳山市の市街地は主要な建物のほとんどを失っている。細長い敷地の奥に建つ廠長官舎は、そこから外れた。前庭の洋館前あたりには六畳ほどの防空壕が掘られていたと伝わるが、現在その面影はない。
市街の大半が焼けた都市に、大正期の洋館が一棟残った。登録基準はその一点を評価している。
三層に分かれた外壁と、御影石のトスカーナ式円柱
西側の道路から門を入り、ロータリー状の車寄せを回って正面に立つと、急勾配の切妻屋根の妻壁が真正面に来る。日本の在来の屋根勾配とは明らかに異なる角度である。その北側には南北棟の切妻屋根が二段に設けられ、小規模ながら街路からの見えを意識した屋根構成となっている。
外壁は水平に三分される。腰に煉瓦、その上に黄土色の化粧タイル、上部は淡色の壁面に濃色の木部を見せるハーフティンバー風の意匠。16世紀のイギリス建築に由来する手法で、大正期の日本ではチューダー様式の翻案として受容された。構造材としてではなく装飾として扱われる例がほとんどで、この建物も例外ではない。
玄関ポーチの円柱に目を留めたい。屋根を支えるトスカーナ式の円柱は、徳山産の御影石を用いる。舶来石材を使う選択肢もあったはずのところで、地元の花崗岩を古典オーダーに削り出している。二十年にわたって町の産業構造を変えてきた海軍施設の官舎として、素材の選び方に一定の含意を読むことはできるだろう。
内部で費用が集中しているのは応接間である。天井は折上げ格天井。日本建築の格式序列で最上位に置かれる形式を、洋室に転用している。格縁の内側が湾曲した支輪で持ち上げられ、天井面が壁から離れて見える。内壁は木摺下地の白漆喰塗り。天井板、腰板、扉にはベニヤが用いられており、大正15年の時点でこれは安価な代用材ではなく新しい工業製品であった。正面と南面には二連の上げ下げ窓が入り、日中の大半を二方向からの採光が支える。
外へ出て前庭を見る。心字池が配されているが、現在水は張られておらず輪郭だけが残る。仕立松、山モモ、ソテツが建物の周囲を囲む。敷地面積1,685.21平方メートルに対し、建物の延床面積は273.70平方メートル。市はこの庭を市内でも有数のものと位置づけている。
建物に入る方法
常設公開の施設ではなく、拝観券の窓口もない。令和6年(2024)4月から周南市が時間帯単位で貸付を行っており、内部に入る通常の手段はこの貸付である。
貸付料は一区分1,500円、消費税と光熱費込み。区分は午前9時から13時、午後13時から17時、夜間17時から21時の三つで、最大連続7日間、12月29日から1月3日は貸付を行わない。貸付範囲は公邸部分に限られる。延床273.70平方メートルのうち150平方メートル、敷地1,685.21平方メートルのうち900平方メートルである。私邸部分は対象外で、私邸側の便所も使用できない。
申込は市の施設マネジメント課(0834-22-8281)。仮予約は借受希望日の6か月前の日が属する月初めから可能で、申込は1週間前まで。鍵は借受日の3日前から当日までの間に市役所本庁舎4階で受け取る。写真や動画の撮影は市が想定する用途に明記されており、登録有形文化財の内部としてはかなり自由度が高い。
使用条件には注意すべき点がある。市は、本物件が耐震診断を実施していない大正15年の建築物であることから耐震性が不足しているものとして扱い、使用前に避難経路を確認するよう求めている。飲食は可能だが飲酒を伴う宴会は不可。敷地内は全面禁煙、宿泊不可、大音量の機材や楽器は使用不可。粘着テープやピンで建物に直接工作することも禁じられている。18歳未満のみで構成された団体は借受できない。
無料開放の機会もある。毎年1月の「二十歳の記念式典」開催日には、記念撮影用として公邸部分が無料で開放され、箏の演奏も行われる。申込は不要。ただしこの日は敷地内に駐車できず、徒歩2分の御弓丁公園が駐車場となる。
アクセスはJR徳山駅から北へ徒歩20分ほど。防長交通の「慶万町」バス停が近い。貸付利用者は正門前に数台、敷地内に4〜5台の駐車が可能である。
Q&A
- 周南市市長公舎洋館は見学できますか。方法と申込先は?
- 令和6年4月から周南市が時間帯単位で貸付を行っており、内部に入るにはこの貸付を利用します。個人・法人・団体のいずれも借受可能で、申込先は市の施設マネジメント課(0834-22-8281)です。貸付範囲は公邸部分のみで、私邸部分は対象外となります。
- 周南市市長公舎洋館の利用料金と時間区分は?
- 一区分1,500円(消費税・光熱費込み)です。区分は午前9時から13時、午後13時から17時、夜間17時から21時の三つで、最大連続7日間まで。12月29日から1月3日は貸付を行いません。仮予約は6か月前の月初めから、申込は借受希望日の1週間前までです。
- 周南市市長公舎洋館の内部で写真撮影はできますか?
- 写真や動画の撮影は市が想定する用途に含まれており、折上げ格天井と上げ下げ窓のある応接間は撮影場所として利用されています。無料開放日については商用撮影が除外されます。粘着テープやピンによる建物への工作は禁止、敷地内は全面禁煙です。
- 周南市市長公舎の洋館と和館が別々に登録されているのはなぜですか?
- 連続する一棟でありながら、洋館部分と和館部分で特徴が異なるため、平成20年の登録時に二件に分けて扱われました。洋館は登録番号35-0062で基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、和館は35-0063で「造形の規範となっているもの」です。建築面積は洋館36平方メートル、和館238平方メートルと大きく異なります。
- 周南市市長公舎洋館へのアクセスと駐車場は?
- JR徳山駅から北へ徒歩20分ほど、防長交通の「慶万町」バス停が最寄りです。徳山駅には山陽新幹線が停車します。貸付利用者は正門前に数台、敷地内に4〜5台駐車できますが、1月の無料開放日は敷地内駐車が不可となり、徒歩2分の御弓丁公園を利用します。敷地への進入は西側の道路からです。
基本データ
| 名称 | 周南市市長公舎洋館(しゅうなんししちょうこうしゃようかん) |
|---|---|
| 所在地 | 山口県周南市慶万町1821-2(住居表示は慶万町3-15) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号35-0062/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 平成20年(2008)10月23日登録、同年11月10日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積36平方メートル(公舎全体の延床273.70平方メートル、敷地1,685.21平方メートル) |
| 所有者 | 周南市 |
| 公開状況 | 令和6年4月から公邸部分の有料貸付(一区分1,500円)。私邸部分は非公開。1月に無料開放日あり |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/周南市市長公舎洋館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007403
- 文化遺産オンライン/周南市市長公舎洋館
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/154005
- 山口県の文化財/周南市市長公舎洋館
- https://bunkazai.pref.yamaguchi.lg.jp/sp/bunkazai/summary.asp?mid=110220
- 周南市/旧市長公舎について
- https://www.city.shunan.lg.jp/soshiki/5/2689.html
- 周南市/旧市長公舎を使ってみませんか
- https://www.city.shunan.lg.jp/soshiki/5/105669.html
- 周南市/「海軍燃料廠」および「周南市市長公舎」のストーリー
- https://www.city.shunan.lg.jp/site/sengo80/130730.html
最終更新日: 2026.08.10