建築面積238平方メートル ― 公舎の実体はこちら側にある

周南市市長公舎和館は、山口県周南市慶万町にある大正15年(1926)竣工の木造平屋建で、平成20年(2008)10月23日に国の登録有形文化財に登録された建造物である。西に接続する洋館と合わせて「旧市長公舎」と呼ばれ、当初は徳山海軍燃料廠の廠長官舎として建てられた。

写真に撮られるのはたいてい洋館の側である。急勾配の切妻とハーフティンバーは絵になる。ただし建築面積で比べると洋館は36平方メートル、和館は238平方メートル。六倍半の差がある。食事も入浴も就寝も、畳の上での接客も、すべてこちら側で行われた。

竣工は大正15年2月24日。令和8年(2026)2月で建設から100年を数えたことになる。

戦後の経緯は次のとおりである。昭和20年8月28日の閣議決定により管理が海軍省から大蔵省へ移り、昭和21年2月、旧徳山市が大蔵省から一時使用の許可を得て3代目の玉野市長が入居した。昭和25年4月28日に払い下げを受け、以後は旧徳山市、そして平成15年(2003)の合併後は周南市の歴代市長が住まいとした。公舎としての役割を終えたのは平成23年(2011)である。

「造形の規範」という登録基準が指しているもの

登録有形文化財の登録基準は三つある。国土の歴史的景観に寄与しているもの、再現することが容易でないもの、造形の規範となっているもの。和館は三番目の基準で登録番号35-0063として登録された。同日に別件として扱われた洋館は、一番目の景観基準による。

造形の規範、という語の含意は、希少性でも設計者の著名さでもない。ある型の完成度の高さである。文化庁の解説は和館を良質な近代和風住宅と評価しており、ここでいう型とは明治後期から昭和戦前期にかけて成立した近代和風住宅、そのなかでも中廊下型の平面を指す。

平面を追うとその型がよく見える。西側に接客のための座敷を置き、東側には中廊下を通して浴室、台所、私的な居室を並べる。廊下が接客空間と生活空間を分離し、家人や使用人が座敷を横切らずに移動できる。大正期の住宅で急速に普及した構成で、この建物ではそれが改変を受けずに残る。

周南市の解説はこの分割を歴史的な用途で説明している。洋館と繋がる部分は廠長官舎当時の公的空間であり、その奥、東側の棟が生活の場であった。現在の貸付が公邸部分に限られ私邸部分に及ばないのは、この当初の区分をそのまま踏襲したものである。

設計者は判明していない。山口県の文化財データベースは海軍呉鎮守府建築課によると考えられる、と記す。

変化に富む屋根、装飾的な欄間、丸太一本の桁

南側の庭から屋根を見上げるところから始めたい。主棟は東西棟の寄棟造。そこから落棟の切妻屋根が下り、寄棟屋根が続き、さらに両下屋根が架かる。両下屋根は妻面をもたず二方向にのみ勾配をとる形式で、棟と棟が取り合う箇所に用いられる。数メートル進むごとに屋根の形が変わっていく。

座敷は西側にある。十畳の座敷にはトコ、棚、平書院が揃う。平書院は書院窓を壁面と同一面に納める形式で、外部へ張り出す付書院に対して簡素な構えとなる。その隣に次の間の十畳が並び、建具を外せば二十畳の一室となる。玄関はこの棟から突出する。

十畳二間の境に入る欄間を、市は装飾的と記述している。鴨居と天井のあいだという限られた面積が、官舎の予算のなかで職人の技量が現れる場所になっている。採光と通風を担う部材でありながら、施主の姿勢がそのまま出る部位でもある。

南側廊下の桁は見逃せない。縁側に架かる長い丸太が、角材に製材されず丸いまま使われている。これだけの長さの通直な丸太は現在では入手が難しく、市の解説もその点を明記している。

中廊下の東側には浴室、台所、居室が置かれる。この一帯は非公開である。

洋館と和館を合わせた延床面積は273.70平方メートル、敷地面積は1,685.21平方メートル。南には池のある和風庭園が広がり、前庭には心字池が配される。ただし現在は水が張られていない。平成19年度、市は建設以来初の大規模な改修に着手し、平成20年3月に完了した。登録はその年の10月である。

座敷を借りる

令和6年(2024)4月から、周南市が公邸部分を時間帯単位で貸し付けている。座敷に上がる通常の方法はこの貸付である。

貸付料は一区分1,500円、消費税と光熱費込み。区分は午前9時から13時、午後13時から17時、夜間17時から21時で、最大連続7日間、12月29日から1月3日は貸付を行わない。対象は個人、法人、団体。貸付範囲は建物273.70平方メートルのうち150平方メートル、敷地1,685.21平方メートルのうち900平方メートルで、私邸部分と私邸側の便所は含まれない。

茶会は市が想定した用途のひとつで、設備もそれに沿う。和室にはお茶用の電気式炉が据えられ、和室2台・洋室2台のエアコン、家庭用IHヒーターと冷蔵庫を備えたキッチン、座卓2台、細長い座机9台、丸椅子8脚が用意されている。

申込先は市の施設マネジメント課(0834-22-8281)。仮予約は借受希望日の6か月前の日が属する月初めから、申込は1週間前まで。鍵は借受日の3日前から当日までに市役所本庁舎4階で受け取る。撮影が明示的に認められている点は、登録建造物の内部としては珍しい。

条件面では二点に注意したい。市は耐震診断が未実施であることを明示したうえで、大正15年の建築物として耐震性が不足しているものとして扱い、使用前の避難経路確認を求めている。飲食は可、飲酒を伴う宴会は不可。敷地内は全面禁煙、宿泊不可、大音量の機材や楽器は使用できず、粘着テープやピンで建物に工作することも認められない。

毎年1月の「二十歳の記念式典」開催日には、記念撮影のため公邸部分が無料開放される。申込不要、箏の演奏あり。この日は敷地内に駐車できず、徒歩2分の御弓丁公園を利用する。

アクセスはJR徳山駅から北へ徒歩20分ほど。防長交通の「慶万町」バス停が近い。貸付利用者は正門前に数台、敷地内に4〜5台の駐車が可能で、敷地への進入は西側の道路からとなる。

Q&A

Q周南市市長公舎和館は見学できますか。どの部屋に入れますか?
A令和6年4月から公邸部分が時間帯単位で貸し付けられており、十畳の座敷、次の間、南側廊下などに入ることができます。中廊下の東側にある浴室・台所・居室といった私邸部分は貸付対象外で公開されていません。申込先は市の施設マネジメント課(0834-22-8281)です。
Q周南市市長公舎和館で茶会を開くことはできますか?
Aできます。茶会は市が貸付にあたって想定した用途のひとつで、和室にはお茶用の電気式炉が備えられています。ほかに座卓2台、細長い座机9台、丸椅子8脚、和室2台・洋室2台のエアコン、IHヒーターと冷蔵庫のあるキッチンが利用できます。貸付料は一区分1,500円です。
Q周南市市長公舎の和館と洋館はどう違いますか?
A連続する一棟の東西の別で、平成20年に二件として登録されました。洋館は建築面積36平方メートルで玄関・応接間・便所からなり、和館は238平方メートルで座敷と生活空間を収めます。登録基準も異なり、洋館は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、和館は「造形の規範となっているもの」です。
Q周南市市長公舎和館はいつ建てられ、誰が住んでいたのですか?
A大正15年(1926)2月24日に徳山海軍燃料廠の廠長官舎として竣工し、令和8年2月で100年を迎えました。終戦まで歴代の廠長が居住し、昭和21年2月から旧徳山市の市長が入居、昭和25年に市が払い下げを受けて以降は徳山市および周南市の歴代市長が住まい、平成23年に公舎としての役割を終えています。
Q周南市市長公舎和館の内部で写真撮影はできますか?
A貸付利用者には写真・動画の撮影が明示的に認められており、座敷や長い南側廊下は撮影に用いられています。1月の無料開放日については商用撮影が除外されます。敷地内は全面禁煙で、建物への直接の工作や宿泊は認められていません。

基本データ

名称周南市市長公舎和館(しゅうなんししちょうこうしゃわかん)
所在地山口県周南市慶万町1821-2(住居表示は慶万町3-15)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号35-0063/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成20年(2008)10月23日登録、同年11月10日告示
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積238平方メートル(公舎全体の延床273.70平方メートル、敷地1,685.21平方メートル)
所有者周南市
公開状況令和6年4月から公邸部分の有料貸付(一区分1,500円)。私邸部分は非公開。毎年1月に無料開放日あり

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/周南市市長公舎和館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007404
文化遺産オンライン/周南市市長公舎和館
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/183616
山口県の文化財/周南市市長公舎和館
https://bunkazai.pref.yamaguchi.lg.jp/sp/bunkazai/summary.asp?mid=110221
周南市/旧市長公舎について
https://www.city.shunan.lg.jp/soshiki/5/2689.html
周南市/旧市長公舎を使ってみませんか
https://www.city.shunan.lg.jp/soshiki/5/105669.html
周南市/「二十歳の記念式典」開催日に記念写真撮影用に旧市長公舎を開放します
https://www.city.shunan.lg.jp/soshiki/5/124047.html

最終更新日: 2026.08.10