年紀を持つ室町の一間社
中牧神社本殿は、山梨県山梨市牧丘町千野々宮にある文明10年(1478年)建立の神社本殿で、昭和28年(1953年)11月14日に指定を受けた重要文化財である。員数は1棟、構造は一間社流造、檜皮葺。指定番号は01251、附として棟札6枚が指定されている。
中世の社殿の多くは様式判断によって年代が推定される。この建物は違う。造営時に小屋組内へ納められた棟札が文明10年の年紀を記しており、建立年が文献的に確定している。山梨市の記録はさらに、その後の修理ごとの棟札が保存されていることを伝える。永正7年(1510年)、寛永2年(1625年)、承応3年(1654年)、享保9年(1724年)、寛政10年(1798年)、明治18年(1885年)、昭和34年(1959年)、平成21年(2009年)。並べれば、五百年を超える維持管理の記録になる。
規模は正面1間・側面1間、背面2間、向拝1間。身舎は円柱で組まれており、この規模の社殿としては注意を引く選択である。正面と両側面の三方には高欄付きの縁がめぐる。破風は深く折れ、彫刻の曲線は後代の穏やかな輪郭より肉が厚く、力の入った線を見せる。これらが、幾度もの修理を経てなお、主要な部材を室町時代後期のものと判断させる根拠になっている。
牧丘四か村の総鎮守―埴安姫を祀る―
祭神は埴安姫。粘土と土を司る女神である。記紀神話では、火の神を産んで命を落とすイザナミの排泄物から生まれたとされる。荒々しい出自を持つ神が、やがて土壌と焼物、そして田畑の実りを司る存在として定着した。奥秩父の山裾に開けた農村にとって、この選択は装飾的なものではなく実務的なものだったと読める。
『甲斐国志』は、中牧神社を窪平・城古寺・千野々宮・杣口の総鎮守と記す。四つの集落がひとつの社を共有していた事実は、建物の側から見ても意味を持つ。一間社は決して大きな建築ではない。しかし四か村の負担がこれを支え、およそ一世紀ごとの修理を可能にした。文明10年の木造建築が記録のなかだけでなく、現地に立ち続けている理由はそこにある。
指定は昭和28年。戦後、地方の社殿が相次いで国の指定を受けた時期にあたる。山梨県内で重要文化財となっている社寺建築のなかでも、建立年が文献で確定しているものとしては古い部類に属する。
ブドウ畑のなかの社叢
意外なのは立地である。中牧神社は山梨市北東部の扇状地に南面して鎮座し、周囲の斜面はほぼ一面のブドウ畑になっている。牧丘は巨峰の産地として知られ、棚が社叢の縁まで迫る。晩夏に訪れると、実の下がる棚から古い杉と檜の茂みへ、三十秒ほどで景色が入れ替わる。
境内の建物は随神門、拝殿、本殿の三棟。門は門で見どころがある。山梨県内の神社の随神門は正面一間を吹き放ちにして梁間の柱を省く例が多いが、この門は梁間の柱を残し、柱と虹梁の接続部に板状の持ち送りを添えている。内部では梁や貫の持ち送りに唐獅子と象の彫刻が用いられる。柱はC面取りの角柱、柱上は拳鼻付きの平三斗、柱間に蟇股、軒裏は二軒のまばら垂木。
本殿は拝殿の背後にあり、この規模の神社の常として外から眺める形になる。拝観の受付も時間の制限もない。境内は常時開放、無料、無人で、社務所はなく御朱印の授与も行われていない。撮影に制限はない。見学そのものに要する時間は10分ほどを見ておけばよい。
現実的にはアクセスに車が要る。所在地は山梨市牧丘町千野々宮576、中央自動車道勝沼インターチェンジから20分ほど。専用駐車場は設けられていないため、農道の細い地区であることを踏まえて計画したい。JR山梨市駅から牧丘方面へのバスは本数が限られ、タクシーが現実的な代替になる。南へ20分ほどの笛吹川フルーツ公園やワイナリーと組み合わせると、移動の効率がよくなる。
Q&A
- 中牧神社本殿が文明10年の建立と分かるのはなぜですか。
- 造営時に小屋組内へ納められた棟札に文明10年(1478年)の年紀が記されているためです。棟札6枚が附として指定されており、山梨市の記録によればその後の修理ごとの棟札も保存されています。
- 中牧神社の境内は自由に参拝できますか。拝観料はかかりますか。
- 境内は常時開放され、拝観料は不要です。社務所はなく無人のため、御朱印の授与は行われていません。本殿は拝殿の背後にあり、外から眺める形になります。撮影に制限はありません。
- 中牧神社へのアクセス方法を教えてください。
- 所在地は山梨市牧丘町千野々宮576。中央自動車道勝沼インターチェンジから車で約20分です。専用駐車場はありません。JR山梨市駅からのバスは本数が少ないため、車またはタクシーの利用が現実的です。
- 中牧神社の祭神はどなたですか。
- 埴安姫です。粘土と土、土壌の豊穣を司る女神とされます。『甲斐国志』によれば、当社は窪平・城古寺・千野々宮・杣口の各集落の総鎮守として祀られてきました。
- 中牧神社本殿の建築上の特徴は何ですか。
- 身舎を円柱で組む点、正面と両側面の三方に高欄付きの縁をめぐらす点、深く折れた破風、そして室町後期らしい肉厚な曲線の彫刻が挙げられます。規模は正面1間・側面1間、背面2間、向拝1間です。
基本データ
| 名称 | 中牧神社本殿(なかまきじんじゃほんでん) |
|---|---|
| 所在地 | 山梨県山梨市牧丘町千野々宮576 |
| 指定区分 | 重要文化財(指定番号 01251) |
| 指定年 | 昭和28年(1953年)11月14日 |
| 員数 | 1棟(附 棟札6枚) |
| 寸法 | 正面1間・側面1間、背面2間、向拝1間。一間社流造、檜皮葺 |
| 所有者 | 中牧神社 |
| 公開状況 | 境内は常時開放・無料・無人。本殿は外部からの拝観のみ |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/中牧神社本殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/881
- 文化遺産オンライン(文化庁)/中牧神社本殿
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/146081
- 山梨市公式ホームページ/山梨市の文化財・中牧神社本殿
- https://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/site/cultural-assets/7907.html
- 山梨の歴史を旅するサイト/中牧神社
- https://www.yamanashi-kankou.jp/rekitabi/jisha/spot/045.html
最終更新日: 2026.08.11